夜空と陸とのすきま

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移動都市 モータル・エンジン/Mortal Engines

移動都市/モータル・エンジン [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

仕事納めで年末はお家の大掃除。しかし一日中掃除だと滅入ってくるので、休憩と称して劇場で見逃した映画の消費。『移動都市』は公開時に映画館行こうかどうか迷っていて、ブログやSNSの評判もいまいちだったから見送ったんですが、そんなの気にせずに観に行けばよかった…。製作ピーター・ジャクソンだもん、ハズレないよ、バカバカ私の馬鹿。

「60分戦争」と呼ばれる最終戦争から数百年後、生き延びた人類は地を這う移動型の都市に住む。巨大移動都市ロンドンに潜入した少女ヘスターは、母の仇を打つために権利者ヴァレンタインに襲いかかるが…という出だし。

美術はスチームパンク満載でカッコイイし、次から次へと解き明かされる謎の娘ヘスターの過去、巻き込まれるイケメン、荒廃した未来でも対立する傲慢な大英帝国VSアジア諸国海上の刑務所、突然出てくるターミネーター、超強いお尋ね者、そして空の都市と、キャラクターも舞台も魅力的で満腹感たっぷりでした。なんでこれがいまいちと評価されたのか…ターミネーター最高に泣けたよ。

宮崎アニメに似ているとの感想もありましたが、プロットは「天空の城ラピュタ」とだいたい同じだけど、主要国が自分で種を撒き育てることをせずに、ただ第三世界から搾取する構図への皮肉を描いていて、宮崎アニメとは全然違うと思う。

そして今回もピーター・ジャクソンらしく異形への愛が溢れている作品でした。ドール好きな人にぜひ観て欲しい。次もまた面白い映画作ってください!さあ原作買ってこなきゃ。

 

移動都市 (創元SF文庫)

移動都市 (創元SF文庫)

 

 

 

スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け/ STAR WARS: THE RISE OF SKYWALKER

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劇場でファンファーレと共にタイトルロゴが登場し、これを観るのも最後かぁ〜と目が潤み、「遠い昔、遙かな銀河の彼方で…」に続く一文で飲んでいたコーヒー吹きました。ラスボスのクローンって!それを許しちゃうと無限に話が続くがなっ。新三部作2023年からまた作るってホンマでっか?

 

観るまでは期待値が低くかったけど、なんだかんだ言って結構感動させられて、とても満足なラストでした。スターウォーズサーガの物語は砂漠の星で始まり、緑豊かな森の星で終わるのな。っていうか前作の準ヒロインだったローズの扱いがひどくない?なんかネタバレなしで感想を書くのが無理なので、また時間を置いてから書き直すことにします。

 

観終わった後に、高揚感と至福感満載だったのでショップでスターウォーズのブックカバーを奮発して買ったのですが、大好きなハヤカワ文庫の青背16センチが入らんがな!Disneyの野郎!

アメリカ炎上通信 言霊USA XXL/町山智浩

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アメリカで流行っている名言や失言を報告する週刊誌連載「言霊USA」の単行本。今回の表紙はアリアナ・グランデ。新曲「7リングス」に合わせて入れたタトゥーが「七輪」→ツッコミを受けて「七指輪♡」に訂正したのに、さらにCultural Appropriation(文化盗用)だと言われ炎上して、日本嫌いになってしまったという。悲しい…みんな、寛大な心を持とうよ。七輪の横で金網を持つアリアナ(裏表紙)可愛いよ。

さて、毎回話題に事欠かないトランプ大統領ネタも相変わらず多いのですが、今回はチャイルディッシュ・ガンビーノのThis is Americaや、ソウルの女王アレサ・フランクリンマイケル・ジャクソンなどのミュージシャンのコラムが興味深かったです。キアヌ・リーブスのコラムも!なんて孤独で壮絶な半生なんでしょう。Twitterでぼっちキアヌを見かけたら、つい[いいね]を押しちゃうんですが、これからも映画共々ウォッチしていきたい俳優さんです。

この「言霊USA」の連載では、町山さんの娘さんの成長もちらほら出てくるのですが、とうとう大学生に!そんな話題の「Empty Nester」(子どもに巣立たれた親)も良かった。大学の保護者説明会でのアドバイス「子ども達はこれから先は自分で道を切り開くから、親も自分の道を」とはアメリカらしい!というか正しい。そして自立をうながす子育てって難しい。親の子離れもね。

 

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ドゥームズデイ・ブック上下/コニー・ウィリス

ドゥームズデイ・ブック(上) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-4) (ハヤカワ文庫SF)ドゥームズデイ・ブック(下) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-5)

 11月は仕事集中の多忙月だったので、宇宙専門用語が出まくったり哲学的でなく、リラックスして読める本、会話文でスラスラ進むSF小説といえばコニー・ウィリスしかないじゃない!とウィリスの長編2作目となる上下巻の文庫『ドゥームズデイ・ブック』に手を出したら、心がえらいことになりました。たまたま町にクリスマスソングが流れ出すこの時期に読んだのも何かの因縁。ジングルベル、教会のベル(この辺に教会ないので、TVとかで)を聞くだけで思い出し泣き必須。

過去への時間旅行が発明され、オックスフォード大学史学部の女学生ギヴリンは、実習の一環として中世14世紀に一人旅立つが、到着と同時にインフルエンザを発症して倒れてしまう。果たして無事に未来に帰還できるのか…というお話。

医療設備が何もない中世で倒れて瀕死のギヴリンと、インフルエンザのパンデミックが起こる現在のオックスフォード大学の様子が交互に進む上巻。あんまり話が進まないけど、変なキャラ達のドタバタに流されながら読めます。

そしてある貴族と優しい神父に助けられ病も癒え、貴族の子供達のお世話をする役目を与えられたギヴリンが、愛らしい子供とふれ合い始める下巻。幸せもつかの間、クリスマスを過ぎた頃にペストが村を襲います。ヨーロッパの半分の人口を死に追いやったペスト。次々に倒れていく村人。ペストの予防接種をしていたギヴリンは一生懸命看病するが…。いやもうこの辺りからページをめくるのが止まらなくなります。重要なことほどさらっと書いちゃうウィリスの腕前が見事です。ギャグとシリアスの対比が素晴らしい。

ラノベとコミック業界に蔓延る異世界転生ブームに飽きたら、ぜひこのガチ中世タイムスリップを読んでほしいな。寒いし、汚いし、みんな歯槽膿漏だしで強烈です。ホント中世には絶対に行きたくないけど、人類にとってこんな大変な時代だったんだと思いをはせる。

ギヴリンは過去で宮澤賢治の詩『雨ニモマケズ』の「南ニ死ニサウナ人アレバ行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ」をすることになってしまいましたが、死に向かう人に精一杯尽くす姿はまさに天使でした。

 

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純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語: ガルシア=マルケス中短篇傑作選/ガブリエル・ガルシア=マルケス

純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語: ガルシア=マルケス中短篇傑作選

ノーベル文学賞受賞作家、南米コロンビアのガルシア=マルケス中短編傑作集。

代表作『百年の孤独』を読んだのは…15年ぐらい前でレメディオス・バロの表紙絵に惹かれたから。マジックリアリズムとはさもありなんと、読後の疲労感が半端ない思い出が(登場人物家系図がややこしい)。今回この『純真なエレンディラ〜』を手にした経緯は、書評家のトヨザキ社長の帯の推し文「「永遠の古典」が約束されたガルシア=マルケス」を見て、そうか百年後には古典になるんだなぁと思いまして。

さて、10作収録中で表題作『純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語』、異世界ラノベっすか?というほど長いタイトルですが、タイトルどおり14歳で性奴隷にされる少女の痛ましい物語。胸くそ悪い。ネタバレになりますが、最終的に白馬の王子様役の男を捨て置いて、金塊を抱え脱兎のごとく逃げていくエレンディラが逆に清々しいというか、女性性から解放されて良かったねと少し羨ましく思えました。

面白かった短編は『この世で一番美しい水死者』。寓話的なお話で、小さな漁村近くに大男の水死体があがり、村の女達総出で死体に絡みついた藻や貝を払ったら美男だったので、「なんていい男!エステバンって顔してる!エステバンだエステバンだ」と盛り上がり、盛大なお葬式をしてあげるという、水死体なのにハッピーな物語。何故にエステバン、太陽の子なの?

『巨大な翼をもつひどく年老いた男』堕天使というか、空から落ちてきた天使のじいちゃんを飼うお話。現実ではありえない出来事も、みんな普通に接するので現実だと思えてしまうのがマジックリアリズム。とにかくセリフが洒落ていて痺れる。