夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

ビンティ ー調和師の旅立ちー /ンネディ・オコラフォー

ヒンバ族の調和師ビンティが、銀河系のウウムザ大学に入学しようと宇宙に旅立ったら、異星種族メデュースに襲われる事件に巻き込まれてというお話。

宇宙に旅立つ第一部、故郷に帰る第二部、そして紛争に巻き込まれる第三部の構成。第一部で全乗員を皆殺しにしたクラゲ型異星人メデュースの若者オクゥと、いつのまにか大親友になっちゃうあたりで共感できずついていけなくなるけれど、そこを我慢して読み進めると、調和師として才能を現していくビンティの成長が面白くなってきます。徐々に明らかになっていくビンティのアイデンティティもすごいし、さらに結びつく。みんな、第一部は我慢だ!

魔法使いや錬金術師のような立ち位置で、呪文ならぬ数理フローを説いて集中する調和師。無意識に行う行為を出産と同じだと表現したところは唸りました。確かに出産時は女性ホルモンと赤子に身体が支配されている感じ。

五歳のとき、赤ちゃんを産むってどんなものなのか母にたずねたことがある。母はほほえみ、一歩引いて自分の身体を譲りわたす行為だと答えた。出産とは、人体が無意識に行なう数かぎりない反応のひとつにすぎないのだという。(P207)

争いを治める調和師。ナウシカに近いSFでした。

ものがたり宗教史/浅野典夫

Twitterでおすすめを見かけた、高校の社会科教諭による宗教史。こんなに歴史的背景をきちんと踏まえて、それぞれの宗教を分かりやすく解説した本には出会ったことがないです。素晴らしい!

今年から授業で世界史を選択した娘も読んだようで、ざっくりと流れがわかってちょうど良かったようです。世界史は学んだときは理解しててもすぐに忘れるので、数年おきに復習がいるなとつくづく思います。度々触れていると、博物館に行ったり、伝記物の映画を見たりした時に、より知的好奇心が刺激されて楽しめるし。

ユダヤ教からキリスト教イスラーム教が派生して、現代のパレスチナ自治区の混乱まで続く歴史。紛争解決には、関わる人全員が史実を知り理解して思いやって話し合うしかないんだろうけど、その教育というものが一番難しくて、いつまでも解決できないんだなと思います。

民族としてヤハウェ神を信仰しているのに、御利益があるどころかひどい目にあうのならば、こんな神様を信仰するのはやめようという考え方もあると思うのですが、かれらは逆の発想をしました。「われわれは、モーセ以来の戒律をきちんと守り、ヤハウェ神のみに信仰を捧げてきただろうか」と、反省をしたのです。反省というものは、すればするほど際限なく反省点が出てくるのです。(P28)

マトリックス レザレクションズ/THE MATRIX RESURRECTIONS

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新年明けましておめでとうございます。つたないブログですが今年もたま〜にお立ち寄りいただければありがたいです。本年も宜しくお願いいたします。

2022年ブログ最初の投稿は、年末の多忙時に縁側から抜け出して(玄関を通らないところがミソ)レイトショーで見てきたマトリックスの新作。オープニングから「やっべー前3部作の話どんなんだっけ忘れたわ」と、どきどきしながら映画に乗車しました。

案の定、話も用語もさっぱりわからないまま。そういえば、主役二人とも死んで完結したんでしたっけ。でもトーマス(ネオ)とティファニー(トリニティ)の顔が一瞬だけ白髪の別人になって映る所は見逃さなかったよ。ネオが赤いピルを飲んで覚醒するまでが1時間、長い!

宇多田ヒカル似のバッグス船長の活躍、前作のパロディ(結構すべる)、アクションシーンで机に倒れ込む香港カンフー映画リスペクト、新幹線が新感染だったりで、監督が楽しみながらアレもこれもつっこんでいる感じは見ていて楽しい。

けれど途中からゾンビものに近くなってきたのはいいとして、どうしても「飛び降り」というモチーフは気持ちがざわざわするので好きなれない。精神科医からの助言や幻覚・現実の境目をぐらつかせるのは、見る人によっては結構きつい描写なのではとも思う。

最後まで見終えての感想としては、全4作品の元ネタや設定を細かく追いかけていくとまた味わいが違ってくるのかなと。何度も見て読み解いて楽しむ映画がマトリックスシリーズなのだろう、ということでまた前作を見直します。

エンドロール後の寸劇は、余韻台無しだったので無くて良かったね…。

 

時間の王/宝樹

劉 慈欣『三体』の二次創作小説をネットにアップしたら、出版社と劉さんから公式にスピンオフ作品として認められたという異例の作家さん。タイムトラベルSFの短篇集はエンタメ度高し!前書きによると、中国で日本のSF小説が、わりと翻訳出版されているので、子どもの頃から読み親しみ影響を受けたとのこと。そういうのは村上春樹だけだと思っていたから意外。中国にも小松(左京)チルドレンやガンダムチルドレンがいるんだねぇ。

 

■穴居するものたち
2001年宇宙の旅』みたいな、ぐるっと一周する人類史。洞穴、部屋に対する愛着表現が良かった。

 

■三国献麺記
三国志の時代にタイムトラベルして、曹操にラーメンを食べさせてお店の宣伝に使おう計画。と書くとアホっぽいんですが、ドタバタ笑いあり謎解きミステリーも入ってきて意外な結末で(あの結末ってあかんやつってことですよね?)一番面白かったです。腐女子ワード出てきた。

 

成都往事
謎の女により不老不死にされた王が悠久の時間をめぐる話。いやこれは…ガチでストーカーなのでは…。朱莉は逃げてたんじゃないの?「また会ったね」って怖いわぁ。(誤読している)

 

■九百九十九本のばら
学内一の人気者女子に告白したら、九百九十九本のばらを持ってきたら考えてあげると言われ…というところからSF的妄想する話。展開が二転三転として、やっぱりちゃんとSFするところがすごいね。ロマンチック。

円 劉 慈欣 短篇集

先月『アメトーーク!』で読書芸人特集があり、紹介された本が売れに売れて、Amazonでは劉 慈欣『三体』が品切れになったそうです。アメトークすごいね!読書芸人は3ヶ月スパンでやったら出版界喜ぶんじゃないの。『三体』が分厚すぎて気後れしている人にはぜひこちらの劉 慈欣短篇集をオススメします。これはかなりの傑作揃い!図書館で借りちゃったんだけど、近々買って手もとに置いておきたい。

■鯨歌
デビュー作なんだけど最初からハイレベルで驚く。シロナガスクジラの口の中に入って麻薬の密輸売買の話。大掛かりでロマンがあって、でも因果応報なオチ。

 

■地火
これを読みたかったから去年出たハヤカワの『2000年代海外SF傑作選』を買ったんだけど、まあいいや。小松左京風味の強い実録プロジェクトX・炭鉱労働者VS地球。ずっと『地上の星』がリフレインします。

 

■郷村教師
Twitterでこの短篇集を読んだ人が『郷村教師』がすごいすごいとつぶやくので、楽しみにしていました。いやこれは絶句。貧しい農村から宇宙帝国に話が飛ぶところとか、すぐに誰かにプレゼンしたくなりますね。「教師…だと!?」

 

■カオスの蝶
これもすごい話なんだよ!としゃべりたくなる傑作(実際、娘に熱く語ってしまった)。家族愛に涙しながら、祖国を空爆から救うためのミッション・インポッシブルが破天荒すぎて、でもあり得そうという説得力があるのが不思議。

 

■詩雲
中国系作家は芸術文化・文字(漢字)にかかわるSFが魅力的でとても面白い。ケン・リュウテッド・チャンに負けず、劉 慈欣は李白ときましたよ。宇宙人と漢詩の話。

 

■栄光と夢
オリンピックってぶっちゃけ代理戦争だよね、をそのままお話にした短篇。マラソン選手シニに感情移入しちゃうとワンワン泣けます。ビル・ゲイツがしれっと出てくる。

 

■円円のシャボン玉
幼い頃の大好きを伸ばしていくとこんな素敵な物語に。義務教育で将来の夢を持つことを強制させるなら、この物語を教科書に載せて、大好きを貫く子に育ててほしい。

 

■人生
母親の記憶が胎児に受け継がれる話。それは胎児にとっては酷なこと。

 

■円
中国の人海戦術は計り知れない。再読4回目でも面白い。