夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

世界SF作家会/早川書房編集部・編

 

コロナ禍で、まだワクチンがなくてステイホームを強制され不安だらけだった2020年に、SF作家を集めてオンライン会議で未来を語らせたフジテレビの企画番組『世界SF作家会議』の書籍版。

あれから4年、ウィズコロナから5類に移行され規制解除された今、読み返してみると感慨深いものがあります。まさかウクライナとガザで戦争が始まるなんて。情報が遮断されると戦争のトリガーになると語っていられたことが現実になってしまいました。悲しい。

第2回、第3回と番組を重ねていくと、コロナの不安は多少収まり楽観的になっていってた様子もみてとれました。そろそろ第4回を開いて欲しい。

多様性のハーモニーが広がっていくのか、それとも監視社会が進み皆同じのユニゾンが過剰になっていくのか、また数年後に読み返してみたいです。

 

ラブスター博士の最後の発見/アンドリ・S・マグナソン

表紙絵が可愛くてジャケ買いしました。ラブスター社のラブスター博士の発明は、インラブにラブデスにラブゴッドと、ラブラブしい。なんでもiをつけるApple社か、なんでもGoogleと名付けるGoogle社みたいな感じ。政府機関でなく広告代理店である一企業が、人々を完全に支配してしまうディストピアを、ラブラブな彼氏彼女が駆け抜ける話。

前半は状況説明と主役の彼氏彼女のいちゃつきぶりが長くてダルめ。しかし世界幸福度ランキング第3位のアイスランドのSF作家が贈るブラックジョークは、終盤になるほど過激になり、神を作り〈一億の星祭り〉を実行し大暴走。

AKIRAエヴァの影響も感じるし、トヨタも出てくるので日本贔屓なのかしら。ヤマグチの最後のセリフは泣ける。

最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選/ジェフリー・フォード

早川が出しているムック『SFが読みたい!2024版』の海外部門第2位に入っていて、評価の高さが気になって手に取りました。最初の「アイスクリーム帝国」と、表題作が特に素晴らしくて、後半のSF短篇も読ませてくれます。お値段高いけど(3,850円税込…鼻血)多彩なジャンルを色々と読めるので満足感がありおすすめです。夜に寝る前に一短篇を読んで、もやもや考えて、朝起きたら自分なりの解釈できたような気がする日々を過ごしてました。

 

◼︎アイスクリーム帝国

共感覚という設定も面白かったし、物語のレイヤーが別れていて最後に世界が交差するとことかびっくりしました。


◼︎マルシュージアンのゾンビ

ホラーなんだけど、主人公と同じくこんがらがった糸を解きほぐそうとしても、オチがまだよくわかっていない。


◼︎トレンティーノさんの息子

著者のフォードが大学を中退して、貝取の漁師をしていた頃の体験を元にした話。大海原の小舟の上で亡霊に会う。海の怪談怖い。棺は死者のための舟というくだりが良い。


◼︎タイムマニア

ハーブのタイムを噛み含んでいる間以外は亡霊が見えてしまう少年の話。これも最後にゾッとするオチで、愛があるなら彼にとっては幸せなオチなのかもと思う。


◼︎最後の三角形

麻薬中毒でボロボロの主人公を助けた老婦人が、元夫の作った魔法陣のゴタゴタに主人公を巻き込む話。老婦人とのバディ&謎解き。アクティブな老婦人に私もなりたい。

 

結晶世界/J・G・バラード

バラードの破滅三部作『沈んだ世界』『燃える世界(旱魃世界)』『結晶世界』のうちで、自分が持っているのは一番最後の『結晶世界』です。三部作最後は世界どころか宇宙銀河の破滅…。

癩病(ハンセン病)の専門医サンダーズ医師が、アフリカのとある国のマタール港から河を遡っていき、結晶化された美しい森に迷い込む話。

サンダーズ医師と船旅で出会った建築家ベントレス。二人はそれぞれの色恋三角関係に振り回されて森の中を彷徨い、やがて結晶化という永遠の時間に自ら閉じ込められてゆく。これはなんとメタファーが多くて耽美な退廃的物語なんだろうか。

特に結晶化したワニと黒人、宝石が散りばめられた十字架がシンボリックで印象に残りました。

地球が静止する日/The Day the Earth Stood Still

1951年のモノクロ映画『地球の静止する日』を観て、ハリー・ベイツの原作『主人への告別』を読んで、ようやく2008年のリメイク版『地球が静止する日』を観ました。

突如N.Yセントラル・パークに落下してきた球体から現れた巨大ロボット・ゴートと異星人クラトゥ。クラトゥは地球の代表者と話し合い、地球を救いたいと言うが、突然のファーストコンタクトにパニックで攻撃的な米合衆国。騒動に巻き込まれた地球外生物学者ヘレンと息子ジェイコブ。クラトゥは激おこゴートの暴走を止めることができるのかというお話。

地球来訪の目的が、前作では核開発を止めることだったのが、今作では地球の自然環境破壊を止めさせることに変わっていて、21世紀に合わせてアップデートしているリメイクでした。

立ち位置がクラトゥ=シン・ウルトラマンで、ゴート=ゼットンだなと思う。(最近シン・ウルトラマンを観たばかりだったので)

エンタメ的には迫力不足だけれど、各地で生物を回収する球体が方舟、避難する車の列が出エジプト、そしてナノマシンの虫はイナゴ(ですよね!)などキリスト教の聖書モチーフ増し増しで、そこは面白く観れました。ノーベル賞受賞学者と黒板に数字を書いて意思疎通できるシーンが良き。

オリジナル作品同様に電力消滅が"地球の静止"なら、その静止表現がいまいち足りなかったのが残念。