夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

2000年代海外SF傑作選

 

 昨年は各出版社からSFアンソロジーがたくさん出ました。本屋で見かけたらウハウハと鼻息粗くしてレジにGOしたのに積ん読で、読み始めたのは年明けからです。この流れはしばし続く。この「2000年代」は劉 慈欣の『地火』目当てで購入。

 

■ミセス・ゼノンのパラドックス/エレン・クレイジャズ
二人の女性がカフェでブラウニーをわけっこする話なんだけど、ブラウニーを無限に切り刻んでゆく。最初からかましてくれます。

 

■懐かしき主人の声/ハンヌ・ライアニエミ
一人称ぼくという賢い犬と、五右衛門みたいな無口で強い猫が活躍するサイバーパンク

 

■地火/劉 慈欣
『三体』の劉氏が書く炭鉱のお話。話が転換する要の「空は落ちない!」演説は、映画『インディペンデンス・デイ』の大統領みたいだった。小松左京の『日本沈没』も彷彿。ということでとてもエンターテイメント。短編でこの力強さ、すご。

 

■シスアドが世界を支配するとき/コリイ・ドクトロウ
破滅SFなのに、生き残ったみんなが必死に助け合っていて感涙。スディーヴン・キングだったら絶対に殺し合っているのにw

 

■暗黒整数/グレッグ・イーガン
人知れずこっそりと人類を救う数学SF!「ダークマター暗黒物質)、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)、そしてダークインテジャー(暗黒整数)そのすべてがわれわれのまわりにあります」うなじの毛が逆立った!

わたしたちが光の速さで進めないなら/キム・チョヨプ

 

わたしたちが光の速さで進めないなら
 

 韓国の若手作家が贈る、エモすぎるSF短編7編。

ガジェットや宇宙工学はがっちりSFしている舞台で、やさしさと切なさにつつまれた物語たち。どんなに先端科学技術が発達しても、宇宙に進出しても、人は人との繋がりを求め続けるのね。というテーマを丁寧に丁寧に描写していました。ああ素敵なSFだなぁ。

 

■『巡礼者たちはなぜ帰らない』

この短編を読み終えた直後に、「日本の"普通''はエベレストより高いんじゃあ」と書かれたツイートを見かけて、そうだよなーと。差別や排除を無くしていくには、正常という概念を無くして、お互いの理解からかな。

■『スペクトラム

宇宙探査に出かけて行方不明になり、40年もの間地球外生命体と暮らした女性生物学者のお話。色彩で記録を取る短命な異星人が切ない。

 

■『共生仮説』

新生児の脳内に地球外生命体が共生。妙に説得力がありロマンもあるSF設定。

 

■『わたしたちが光の速さで進めないなら』

表題作。廃墟の宇宙ステーションで家族のいる星へ行く船を待ち続ける老女のお話。涙を誘ういい話だし、経済効率優先により取り残される人を描いているので、寓話として読んでも考えさせられる話。

 

■『感情の物性』

感情を造形化した製品がバカ売れ!というお話。人はなぜネガティブな感情を買うのか。文字にしづらいイメージを細やかによく書けててすごいです。

 

■『館内紛失』

記憶を保管するマインド図書館で、母のデータにアクセスできないというお話。元の名前を失ってしまった母。世界のなかで紛失した母。うわーこれはわかりみがすごかった…。結婚と妊娠って、自分の名前とか無くなるものが多すぎるよね。

 

■『わたしのスペースヒーローについて』

ジェギョンおばさんは人魚になったというお話。ラストが痛快でよき。

 

 追い求め、掘り下げていく人たちが、とうてい理解できない何かを理解しようとする物語が好きだ。(中略)どこでどの時代を生きようとも、お互いを理解しようとすることを諦めたくない。(著者あとがきより抜粋)

 

1月に放送された「第2回世界SF作家会議」で、キム・チョヨプはゲスト出演。女子大生の部屋みたいだし、話していることがもう小説みたいになっていると一同騒然。


#1 パンデミックから1年...SF作家たちはどう見たか?【世界SF作家会議】

内なる宇宙/ジェイムズ・P・ホーガン

 

内なる宇宙〈上〉 (創元SF文庫)

内なる宇宙〈上〉 (創元SF文庫)

 
内なる宇宙〈下〉 (創元SF文庫)

内なる宇宙〈下〉 (創元SF文庫)

 

 新年明けましておめでとうございますってもう松の内明けちゃったかしら?でも今日買い物に行ったモールには入り口に門松がまだあったなあ。ブログ8年目になりますが今年もよろしくお願いします。

さてさて、昨年12月から続く大雪で毎日雪掻きをするため、目が乾燥して文字がチカチカし読みづらさに辟易しながら(ひょっとして老眼?)コタツで読んできた「巨人の星」シリーズ第4弾『内なる宇宙』上下巻です。

前3部作で見事に円環を閉じたのに、熱烈なファンに続きを催促されて、ガニメアンの新たな物語が紡ぎだされました。今度はファンタジー、今風に言えば異世界が入ってきます。

前巻は10年ぶりの続編ということで、お馴染みのハント博士やダンチェッカー博士を書くことが楽しくてしょうがないらしく、作者のテンション高い高い。ノリにのって筆が止まらない感じ。ガニメアン達にちょっと来てよと頼まれて、いつものメンバーはまた宇宙へ旅立つ。あっという間にジェウレンに到着したけど、ジェウレン人の間にはなんだか怪しげな新興宗教が流行っていて…というお話。

今回もスパコンのゾラックとヴィザーが大活躍で、このスパコンとの掛け合いがシリーズで一番魅力に思えます。ハードSFが描く異世界はコンピュータの中にある。人の脳内にネットワークが繋がる過程をぼんやりでなく、コンピュータ用語でちゃんと説明してあるところがすごい。

 

 

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黒魚都市/サム・J・ミラー

黒魚【クロウオ】都市 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

地球温暖化で海面上昇、長引く内戦で国家崩壊した近未来、北極圏の洋上都市クアナークが舞台。高度なAIに統治され、株主と不動産業の富裕層と押し寄せる難民との格差。混沌としたこのハイテク未来都市にシャチとホッキョクグマを率いたオルカマンサーがやってきたというお話。

不治の伝染病<ブレイクス>にかかった大富豪の孫フィル、政治家のもとで働くアンキット、ファイターのカエフ、そして街を憎むメッセンジャーのソク。四人の視点で交互に物語は進み、やがてオルカマンサーと結びつく。

前半は個々の人物が何をしているのかさっぱりわからないけど、200ページを越えたあたりから話がまとまりだし一気に終結へ。近未来都市と野性味あふれるオルカマンサーのぶつかりは面白かったです。行き詰まった監視・格差社会に風穴を開けるのは、いつだって野生児(未来少年コナン)だね!

ニューヨークを下敷きにしたSFとして読むと興味深い。

わたしたちは流浪の民だ。故郷は自分で作るところ。わたしたちがいっしょにいるところだ。それが放浪の民という生き方のいちばんの長所ー

 

巨人たちの星/ジェイムズ・P・ホーガン

巨人たちの星 (創元SF文庫)

前二作からのチャーリーの謎、月の謎、ガニメアン達の謎を解き明かしながら、ガニメアンと共闘してジェヴレン人との戦いを描くジャイアンツ・スター第3部。

スパイ、ミステリー要素、そしてスパコン同士のバトルあり、特殊部隊突入あり、まさかのタイムスリップ?とてんこ盛りな内容でアクティブな第3部。ホーガンのこのシリーズはスケールが大きくて楽しい。前二作の(私は気にもしていなかった謎を律儀に)伏線を拾っていって見事に円環を閉じてくれました。

地球人がここ数世紀で急に発展したのも、搾取階級が富を再配分せず独占するのも、すべてジェヴレン人の計画的な陰謀だった!なるほど!社会批判をSFに落とし込んでくるところも面白い。

歴史を通じてこの対立のパターンは変わっていないよ
教養があって、豊かで、精神的に解放された市民階級の出現を搾取階級は何よりも嫌うんだ。権力というのは富の帰省と管理の上に成り立つものだからね。科学技術は無尽蔵の富をもたらす。故に科学技術は規制しなくてはならない。知識と理性は敵である。迷信とまやかしを武器とせよ

さらに第4部という続刊があるそうで、「内なる宇宙 上下」をポチりました。