韓国の若手作家が贈る、エモすぎるSF短編7編。
ガジェットや宇宙工学はがっちりSFしている舞台で、やさしさと切なさにつつまれた物語たち。どんなに先端科学技術が発達しても、宇宙に進出しても、人は人との繋がりを求め続けるのね。というテーマを丁寧に丁寧に描写していました。ああ素敵なSFだなぁ。
■『巡礼者たちはなぜ帰らない』
この短編を読み終えた直後に、「日本の"普通''はエベレストより高いんじゃあ」と書かれたツイートを見かけて、そうだよなーと。差別や排除を無くしていくには、正常という概念を無くして、お互いの理解からかな。
■『スペクトラム』
宇宙探査に出かけて行方不明になり、40年もの間地球外生命体と暮らした女性生物学者のお話。色彩で記録を取る短命な異星人が切ない。
■『共生仮説』
新生児の脳内に地球外生命体が共生。妙に説得力がありロマンもあるSF設定。
■『わたしたちが光の速さで進めないなら』
表題作。廃墟の宇宙ステーションで家族のいる星へ行く船を待ち続ける老女のお話。涙を誘ういい話だし、経済効率優先により取り残される人を描いているので、寓話として読んでも考えさせられる話。
■『感情の物性』
感情を造形化した製品がバカ売れ!というお話。人はなぜネガティブな感情を買うのか。文字にしづらいイメージを細やかによく書けててすごいです。
■『館内紛失』
記憶を保管するマインド図書館で、母のデータにアクセスできないというお話。元の名前を失ってしまった母。世界のなかで紛失した母。うわーこれはわかりみがすごかった…。結婚と妊娠って、自分の名前とか無くなるものが多すぎるよね。
■『わたしのスペースヒーローについて』
ジェギョンおばさんは人魚になったというお話。ラストが痛快でよき。
追い求め、掘り下げていく人たちが、とうてい理解できない何かを理解しようとする物語が好きだ。(中略)どこでどの時代を生きようとも、お互いを理解しようとすることを諦めたくない。(著者あとがきより抜粋)
1月に放送された「第2回世界SF作家会議」で、キム・チョヨプはゲスト出演。女子大生の部屋みたいだし、話していることがもう小説みたいになっていると一同騒然。