夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

みらいめがね2 苦手科目は「人生」です/萩上チキ・ヨシタケシンスケ

『みらいめがね』の続編。表紙にはマスクも追加されてパンデミックな世情を表しています。しかし何故エレベーター?本屋で手に取って裏表紙を見てくださいよ、本当にヨシタケさん天才だなあ。

前作よりさらに踏み込んだ感があって、多様な生き方を応援したくなります。世界に一つだけの花とか、みんな違ってみんないいって歌うなら、いい加減に政治もそういうふうに舵切り換えろってことですよね。もーなんなん、あの総務大臣政務官(怒)

 

みらいめがね それでは息がつまるので/萩上チキ・ヨシタケシンスケ

隔月刊誌『暮しの手帖』での連載をまとめたエッセイ集。同じ物事でもチキさんの見方、ヨシタケさんの見方(笑いにもっていく流れが天才的!)など様々な視点が載っていて、ふむふむそういうふうに感じるのか〜と、私も新しいめがねを持つことができました。

特に『「呪いの言葉」に向き合う』というエッセイが良かった。チキさんが元カノから言われた縛りから解放された経験から、自分を守るために、他人を適度に嫌いになるのも大事という話。自分も八方美人なところがあるので、許容範囲を自覚しよう。

 

火星年代記[新版]/レイ・ブラッドベリ

華氏451度』に次いで知名度の高いブラッドベリの名作SF。かなーり長らく積んでましたッ!解説を読むと、映画でいうディレクターズカット版やファイナルカット版のように様々な変更点を得ての「新版」みたいでした。表紙絵がなかなかカッコ良い。

内容は舞台が火星になっているけど、アメリカ史の大反省会。全て破滅させてしまう人間の業の深さよ…といった感じ。

ショートショートの連作で、登場人物の描写から背景を伺い知るため、前半はぼんやりとしつつ、後半から面白さを感じるようになってきました。

「イラ」…これはブラッドベリの『十月のゲーム』と同じ展開!なにげにホラー。

「いなご」…イナゴといえば旧約聖書の第八の災いからきているのか。火星に移住してくる地球人をイナゴに例えちゃうのね。

「長の年月」…義家族を作っちゃうお父さんの話。とにかく切なかった。

「鞄店」…ユーモア万歳。

本作から影響を受けた作家は星新一だそうですが、手塚治虫火の鳥未来編もそうじゃないのかな。知らんけど。

巨獣めざめる/ジェイムズ・S・A・コーリイ

『エクスパンス -巨獣めざめる-』というアメリカのTVドラマ原作本。地球と火星、小惑星帯の危うい政治状態のなか、貨物船が何者かの攻撃を受け、かろうじて生き残ったクルー達と宇宙を漂流するホールデン船長、そして失踪したお嬢を捜索するミラー刑事の物語が交錯しながら展開していく本格宇宙SF。

ホントに中原さんの翻訳本にハズレなしです。ステーションや貨物船など舞台背景が、『マーダーボット・ダイアリー』を彷彿させてくれて楽しめました。弊機が登場しそうな雰囲気だった。高Gや無重力の船内の描写も細かくてリアリティがあり、主人公達が現場系の労働者なので、専門知識とプロ意識がカッコ良かった。こういうSFが読みたかったのだよー。TVドラマの方も与圧服や宇宙船のデザインがかなり良い。

つまるところ巨獣って何?となると、敵のスケールはデカかったけど獣ではないから何だったんだろう。内面に眠る獣心か、また誤読したかしら。

巨獣はともかく、熱血ホールデン船長とアル中親父刑事ミラーが物語をぐいぐい引っ張ってくれるので、大変面白いSFでした。

いい感じの石ころを拾いに/宮田珠己

旅行記の多い宮田珠己さんの石拾いエッセイ。ただずっと海辺にしゃがみこんで、無心になんかいい感じの石を探すだけかと思いきや、石マニアのお宅訪問に東京ミネラルショーレポなど、石好きの沼の深さに驚く。

日本は地質が複雑で火山の国なのでいろんな石が拾えるとのこと。私は夏に海水浴に行くと、泳ぐのもほどほどにしてひたすらシーグラスを拾っていますが、この本を読むと石の魅力に気付かされ、すぐに拾いに行きたくなりました。特に黒い重い石が羨ましい。「北日本日本海側の海岸は質が高い」とのことなので、すぐにでも日本海に行きたくなってソワソワしてしまいますが、まあ春になってからかな…。北風寒い。

本書で出てくる担当編集者の武田氏が、あの武田砂鉄さんだったという衝撃。ただの石ころ拾いを、どのようにして出張報告書を作るか苦悩したという解説が面白かったです。河出書房新社の編集さんだったんですね、へぇー。

いいすねえ、石拾い。自分にとって価値のある石を探して拾って、そしてそれを取捨分別する行為って、自分の嗜好や癖と向かい合ざるを得なくて、座禅的なトリップ感があるというか……。(P289)