夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

ヴィンダウス・エンジン/十三不塔

すっかり過疎化してしまった音声SNS「クラブハウス」。たまにアプリを立ち上げると、マルチとスピリチュアルに支配されていて、かなり混沌とした様子にドン引きですが、興味ある項目に「SF」を入れておいたので、偶然にもSF作家十三不塔氏のルームを発見。ルームに入ってみたもののオーディエンスが他に誰もいない。クラブハウス過疎りすぎだろう…と焦りつつも、十三不塔氏らの「韓国SF小説」についての感想部屋を楽しみました。やはりプロ作家さんの感想は深いなぁと思った次第。

その十三不塔氏のデビュー作「ヴィンダウス・エンジン」は、アジアン・サイバーパンク。動くものしか認識できなくなる奇病「ヴィンダウス症」に罹った韓国人キム青年が、なんとか病気を寛解して超人となり、中国都市AIに見初められるが、渦巻く陰謀に巻き込まれるというお話。色々と細かい設定が理解できずに迷子になりつつも、なんとか勢いで読み終えることができました。最近は東京よりも成都や深圳の方が、混沌としたサイバーパンクの舞台にあっている。中東ドバイが舞台のSFも読んでみたいです。

新しい世界を生きるための14のSF /伴名練=編

新人SF作家さんのアンソロジー。どれも面白くて読み応えがあり、分厚い割にはお買い得な文庫だと思う。14本それぞれに長い解説があり、セレクトした伴名練氏が全力でSF沼に引き摺り込もうとしてきます。まだお若いのにすげー。

 

■「Finally Anchors」八島遊舷

事故直前、車両どうしがぶつかるまであと0.488秒。まだ0.488秒あるぜ、さあどうすると車体AIが最後の審判を話し合う。アンソロジーの最初にふさわしい度肝を抜く展開!

 

■「もしもぼくらが生まれていたら」宮西文樹

小惑星が地球にぶつかると大騒ぎの中、高校生達が衛星構想コンテストに挑む話。衝突までのタイムリミットの緊張感と科学技術の進歩と信頼があって読後感よき。

 

■「九月某日の誓い」芦沢 央

大正時代でお嬢さま超能力ミステリー。「○○を操る力」で急にSFになるって不思議だな。科学的根拠の説得力よ。

 

■「大江戸しんぐらりてぃ」夜来風音

改変歴史SFで安井算哲と関孝和の演算装置の話。算術長屋のブラック企業っぷりに苦笑。

 

■「ショッピング・エクスプロージョン」天沢時生

驚安の殿堂ドンキがSFになるってすごい、超安の大聖堂サンチョ・パンサ(笑)!わけわからんルビがふってあるSFが大好物なので、このアンソロジー中でナンバーワンでした。この作者の著作をもっと読みたいので『ポストコロナのSF』読むぞーメモメモ。

 

 

血を分けた子ども/オクティヴィア・E・バトラー

 

アフリカ系アメリカ人で黒人女性作家バトラーの短編集。2006年没ですが、80〜90年代の作品がまさに今に通じるテーマばかりで、再評価されて出版が相次いでいます。この短編集は翻訳が藤井光氏なので、そりゃあ間違いないわ!と期待して読みました。

それぞれの短編後に短いあとがきが入っていて、著者が何を考えて小説を書いたのかがわかります。聡明な人で、日常で感じたことを深く掘り下げて考え、丁寧に小説に昇華しています。

 

■血を分けた子ども

地球外生命体が人間(男)に卵を産みつけ繁殖する。その代わりに人間は彼らから生かされることを許される関係。SFなんだけど、状況説明が少ない割にスッーと話が入ってくる不思議。主人公の少年が卵を宿す決意をするまでのお話なんだけど、そこに愛があるのが良き。

 

■夕方と、朝と、夜と

遺伝子疾患を持つ女性の絶望と希望の話。自分の親の病気による壮絶な最後を目の当たりにしたら、未来なんて考えられない。

私たちの数十兆個もある細胞のひとつひとつの核には、五万もの異なる遺伝子が入っている。その五万個の遺伝子のうちひとつ、たとえばハンチントン遺伝子が、私たちの人生をーーつまりは人間ができることや、人間がなれるものをーーそこまで大きく変えてしまうのなら、私たちとはなんなのだろう。

ほんとうに、なんなのだろう。

『夕方と、朝と、夜と』あとがき

 
■話す音

脳から言語能力を奪う伝染病のパンデミック後の破滅しかけている世界。言葉を奪われた人々は意思疎通をすることが難しくなり…という話。最後には少し希望が見えるので良かった。別に言葉を奪われたわけではないのに、現実の都会の日常(満員電車とか)の殺伐感が同じなのが怖くなる。

 

■二つのエッセイ

作家になるんだというバトラーの強い意識が見られて、作家になりたいわけじゃないけど、励まされる良きエッセイです!

 

■恩赦

異星人と彼らに支配された人間達との架け橋になる通訳ノアのお話。共存への道のりの困難。

 

■マーサ記

神様から人類を救う方法を考えろと言われる話。

絶望名人カフカの人生論 /フランツ・カフカ 頭木弘樹

とある日曜日に朝から喉に違和感+微熱があり、これは流行りのアレなのか?3世代同居なのに!月曜からの仕事は代わりがいなくて休めないのに!と恐怖心でいっぱいに。相談窓口に電話をかけて53回目でようやく繋がるも、濃厚接触者が身近にいないようだから、休日診療所に行けと言われました。診療所とはあっさりと電話が繋がり、「じゃあ抗原検査をしましょうかね〜」と言われ、車で待機してサクッと検査して陰性。微熱も生理前の高温期+熱中症だったのか、喉の違和感は仕事柄喋ることが多いので、いつもの乾燥からくる喉荒れだったようです。一晩寝たら回復しました。(陰性だったけど念のため、家では数日間自主隔離して過ごしました。)

この『絶望名人カフカの人生論』は、診療所の駐車場で陽性だったらどうしようかとハラハラしながらも手に取って読んだのですが、私の混乱を落ち着かせてくれて、カフカすごい!となりました。また病院に行かねばならぬ時に、読み返そうと本棚に収納。心の御守りみたいな本になりそうです。

カフカはずっーと絶望しているけど、ズッ友はいるし、元カノもいい人だし、自分では気がついていないけどラッキーだったね。

宇宙SFコレクション1 スペースマン/R・ブラッドベリ他

1冊読み終えるのに、1ヶ月どころか2ヶ月もかかってしまったのです。みんな人手不足の職場が悪いのです。2ヶ月も前だと読んだ内容も忘れてしまうがな…備忘録ブログなのに困ったものです。

もう一つ愚痴ですが、各社の夏休み向け文庫フェア。毎年楽しみにフリー冊子をもらってきて眺めていますが、SFどころか海外文学のセレクトが少なすぎませんか⁈そんなにSFって人気ないのかなぁとぼやいたら、「SFって表紙がダサいし」ってティーンズの娘が言うんですよ。悲しみ。

この『宇宙SFコレクション1 スペースマン』は、新潮文庫で昭和の出版。昔はたくさん海外SFを文庫で出していたのねキュンタ。

 

■だれだ? 犬の星 アーサー・C・クラーク

クラークのショート・ショート2編は、宇宙ステーションの犬と猫の物語。犬と猫への愛に満ち溢れていて、こういうのも書くんだなぁと珍しかった。アンソロジーにこれを選出したセンス素敵。

 

■わが名はジョー ポール・アンダーソン

衛星から木星にいる生物学的機械を操っていたら、感情移入しすぎて…という話。ジェームズ・キャメロンの映画『アバター』そっくりでびっくりした。1957年作

 

■いこいのみぎわ レスター・デル・レイ

現役引退間際だけれど、まだまだワシらはやるけん!まだ船は動けるんじゃけぇ!という、頑張るおじいちゃんの話。ノスタルジックでハートフルなSF。

 

■プロ エドモンド・ハミルトン

SF作家の息子が宇宙飛行士になり、ロケットに乗って宇宙へ。その時、父の心境はいかに…という話。自身のSF作品に感化されて、宇宙を目指す次世代の若者に、嬉しくもあり命懸けの仕事につかせた心苦しさもありと、複雑な心境をきめ細やかに書いています。ハミルトンの晩年はこんな気持ちだったんだと思うと奥深い。

 

■空間の大海に帆をかける船 バリントン・J・ベイリー

たとえば宇宙空間の真空が固体だったら、水だったら…から発想したSF。よくわからないけどちゃんと物語になっているベイリーの力技。どこかで読んだ?と思ったら、早川文庫の『ゴッド・ガン』に収録されていた。

 

■バースデイ フレッド・セイバーベーゲン

遥か彼方の恒星に行くために、人工冬眠と世代交代を繰り返しながら宇宙を旅する宇宙船の話。閉じられた社会、歪な人間関係からのオチに痺れました!面白かった!この本は読んだらまた古本市に出そうと思っていたけど、『バースデイ』が中々の逸品なので、どうしようかな。