夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選/J・J・アダムス編

パワードスーツ、強化アーマー、二足歩行メカの短篇アンソロジーガンダムほどの巨大メカじゃなくて、人体より少し大きめのパワーアシストスーツが多い。必然的に戦争ものになるんですね。中々手に取りづらい長編シリーズSFを手がける作家の短篇が多くて、作風を知ることができて良かった。

 

■この地獄の片隅に/ジャック・キャンベル 
STAR WARSのトルーパーとキャプテン・ファズマをイメージして読みました。ヘル軍曹が男前でかっこいい。どんな理不尽な命令にも逆らえない仕組みは辛い。

 

■深海採集船コッペリア号/ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン
ジュヌヴィエーヴということは女性作家さんかな。海洋で藻の採集作業中にヤバイものを見つけてしまい、トラブルに巻き込まれる話。キャラ立ちしていてテンポがいい。

 

ノマド/カリン・ローチン
メカと人間の融合体(ラジカル)が、人間の操縦者を失い無所属(ノマド)となってさまよう話。メカに自意識があるので感情移入しやすいし、続きが読みたくなる。

 

■アーマーの恋の物語/アンソニー・ブレア
『救助よろ』(創元SF文庫『スタートボタンを押してください』所収)の作家さんだー、命を賭けたやりとりに恋愛を重ねてくるところが作風なのかしら。

 

ドン・キホーテ/キャリー・ヴォーン
1939年スペイン戦争、戦況を覆すほどの力を持った装甲戦車の行方は…。時代のもしもは面白いな。オチも痺れる。

■天国と地獄の星/サイモン・R・グリーン
濛々と生い茂るジャングルの惑星アバドンに基地建設する話。パワードスーツにAI制御が付いてくるのは今時。そのAIは亡き妻の記憶ってところがエモイ。

 

■猫のパジャマ/ジャック・マクデヴィット
ネコチャン救出大作戦。宇宙船の中でネコトイレの描写がある話は初めてでした。

虫けら様/秋山あゆ子

この作家さんとの出会いは福音館書店から出ている「みつばちみつひめ」「くものすおやぶん」という絵本が最初でした。江戸時代&虫がモチーフで仕草がとても可愛いく、虫嫌いの娘も秋山さんの描く虫は大丈夫という(この本をきっかけに虫好きに!とはならなかったけど)、いやほんと細部まで細かくて楽しいのです。

ちくま文庫から出ている「虫けら様」は、絵本とはまた違ってガロ漫画っぽい。擬人化された虫を詩情豊かに描き、普段は迷惑にしか思わない蜂の巣の中も、こんな緻密な世界なのかと驚き、この小さきもの達のいじらしさがたまらないです。

また「土蜘蛛草紙」「鼠の草子 」と虫がモチーフの古典が描かれ、昔の日本人の想像力の豊かさに嬉しくなってしまいました。古典を上手に漫画でみせてくれるところは杉浦日向子こうの史代もされていて、いずれの作品も大好きです。

 

エンデュアランス号漂流記/アーネスト・シャクルトン

1914年、英国のシャクルトン隊長率いるエンデュアランス号の探検記。初の南極大陸横断を目指すものの、上陸する前に密流氷に閉じ込められ、氷によって船を破壊され沈没し、ボートで漂流。その後4回の救助で隊員全員が無事帰還する。

漂流記ものが好きで、本屋&古本屋で”漂流”と見かけたらつい手にとってしまう。これは薄いのですぐ読めそうだったので、子供のスポ少鍵当番の日に体育座りして黙々と読んだ。

凍傷にあうほどの寒さと饑餓を乗り越えれたのも、適確な状況判断と最期まで希望を捨てないこと、持ち前の明るさ、強いメンタルがあってのもの。特に想定外だったとあきらめずに、どんな状況でも絶対に犠牲者を出さない方向でやれることをしっかりやること。今の日本ができなくなってしまったことだなと思いながら読みました。悲しい。

同行した犬50匹の扱いは…今の感覚だとちょっとひく。

ストーカー/アルカジイ・ストルガツキイ ボリス・ストルガツキイ

 異星人の超文明が残していった異空間とモノ達はゾーンと呼ばれ立ち入り禁止区域に。そんなゾーンに不法侵入し未知の領域に挑む泥棒ストーカー達のお話。

地球人とファーストコンタクトを取るでもなく、ただちょっと異星人が立ち寄っただけということで『路傍のピクニック』が原題。そんなピクニックの跡地ゾーンが、何が起こるかわからない重力凝縮、謎の気体がある恐怖の異世界になっているという設定が面白い。

けど、ゾーン探索中に仲間を殺されても生活のために不法侵入をする主人公の人生辛いよ物語なので、ゾーンの秘密とか異星人来訪の意味とかあまり関係なし。どんなに理不尽な目にあっても、俺の魂は俺のもの、俺は自由だ!ということが幸せ…なのかな。

タルコフスキーの映画『ストーカー』もTSUTAYA発掘良品にあったので、そのうち見るつもりでいたらあっというまに棚から消えていて。どっかのサブスクに入らねばならぬのか。

 

中国・アメリカ謎SF/柴田 元幸 小島 敬太 (編集, 翻訳)

 中国とアメリカのSFジャンルで、まだ日本に紹介されていない作家の短篇を、柴田元幸氏と小島敬太氏がセレクトして翻訳したアンソロジーアメリカ担当柴田氏のセレクトは設定が緻密で文章が固め、中国担当の小島氏のはユーモアが多く軽めだったのは選者の世代の違いもあるけれど、経済の勢いがある中国と不況が続くアメリカの社会情勢の違いも影響があるみたいで面白かったです。

 

■「マーおばさん」ShakeSpace(遙控)
会社から預かった試作機パソコン「マーおばさん」号は、本体に砂糖を入れて動かします⁈謎マシンのチューリングテストを行う僕と蟻のコロニーとのコミュニケーション。アホっぽいのに「生命の定義について」の説得力があって面白い。

 

■「曖昧機械ー試験問題」ヴァンダナ・シン
「マーおばさん」同様の謎マシンの話なんだけど、時間と空間が飛び飛びなので、よくわからず流し読み。曖昧機械だから雰囲気で感じていいかと。

 

■「焼肉プラネット」梁清散
謎の惑星に飛ばされ、そこは生きた焼肉の星だった。謎だー。筒井康隆っぽいなぁ。

 

■「深海巨大症」ブリジェット・チャオ・クラーキン
潜水艦で深海を潜って海棲生物を探すチームの話と男女のいざこざ。暗く狭い空間で近い人間関係に押しつぶされそうになったところで、どかんとでかい奴が来る。

 

■「改良人類」王諾諾
率先して遺伝子操作の研究開発をやっていそうな中国から、こういう警鐘を鳴らす若手作家のSFが出てくることに安心したり。多様性の大事さ。最近、映画「ガタカ」を観たばかりなので、同じテーマに感銘を受けました。

 

■「降下物」マデリン・キアリン
タイムマシンで500年後の未来に行ってみても世界は終わっているままという希望が見えないSF。久しぶりに故郷に帰ってみても、商店街はシャッター街のままみたいな。

 

■「猫が夜中に集まる理由」王諾諾
猫は偉い、猫は宇宙を救うために頑張っているというお話。そもそも自分は「シュレデンガーの猫」をよく理解していない…。

 

本屋さんで購入したのですが、封筒のおまけがついてました。「ねえねえ、謎SFってなに?」カード。POPとして使えということだったのか。白水社の販促品をいただきました。

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ねえねえ、謎SFってなに?