夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

銀河の果ての落とし穴/エトガル・ケレット

 

銀河の果ての落とし穴

銀河の果ての落とし穴

 

タイトルと素敵な表紙の装画から勝手にSFだと思い込んで手に取りましたが全然違った。この不条理な世界をユーモアで笑う、イスラエルの文筆&映像作家のケレットの超短篇集。なかなかシュールで乾いた笑いを誘い、どうしようもなさが胸に沁みました。エミール・クストリッツァ監督の世界観に似ている。

 

■前の前の回におれが大砲からブッ放されたとき

サーカス団の清掃員が急遽代役で人間大砲になる話。アレな嗜好の目覚める瞬間?

 

■窓

記憶喪失になった男がリハビリするために住む部屋は、窓のない暗いワンルームだったという話。壁に写しだされる映像が…。無感情なアンドロイドとのやり取りも怖い話でした。

 

■GooDeed

善行を施す機会を探すアプリの話。Facebookマーク・ザッカーバーグが出てきた。富める者も貧しい者も出会いに恵まれて幸せだ。

 

■ブリザードン

トランプ大統領が三期目に入った近未来。戦場に配置されたポケモンGOならぬピトモンGOのレアをゲットしたいがために、オーバー14部隊に志願した少年兵の話。この無邪気な幼さで世界中の戦場を駆け巡るシュール。

 

ユーモアとは耐えがたい現実とつきあう手段なのです。抗議する手段でもあり、ときには人間の尊厳を守る手段でもあります。やりたくないことをやらなければいけないとき、ユーモアをもつことは「ほら、まだおれは人間だぜ」と言っているのと同じなのです。

ベストSF2020/大森望 編

 

べストSF2020 (竹書房文庫)

べストSF2020 (竹書房文庫)

  • 発売日: 2020/07/30
  • メディア: 文庫
 

 東京創元SF文庫から毎年出ていた「年刊日本SF傑作選」が大人の事情で終了したらしく、この度リニューアルして竹書房文庫にお引っ越し。創元版と同じく各短編のはじめに編者による作品解説と著者の紹介、おわりに著者の”あとがき”が追加されているのが嬉しい。そして後記についてる「2019年日本SF概状」もすごい情報量。これ全部追っかけて読んでいくのは大変だ。

 

■歌束/円城 塔
円城氏のはったり振りはすごい(『文字渦』の単行本を入手したけどまだ積ん読中で、いつのまにか文庫化してた)歌にお湯を注いで漉してとか、歌を上手く淹れるなんてことをいけしゃあしゃあと書いてる、なぜか「そっかー」と納得してしまう。

 

年金生活岸本佐知子
翻訳家の岸本氏と柴田氏が訳した海外文学にはずれなし!と思っていますが、その岸本氏がSF短編を書くなんてびっくり。こんな<ねんきん>だといいなぁ。<戸棚の奥>にピリッと怖さを仕込むところとか、さすがです。

 

■平林君と魚の裔/オキシタケヒコ
大阪弁でしゃべる星間行商人女子と愉快な仲間の話。シリーズの第2弾らしいけど前作を未読でも大丈夫な内容。水中生物の進化した人類と異星人のカテゴリー分けが楽しかったです。

 

■トビンメの木陰/草上 仁
寄生生物のハリガネムシがカマキリを操っているような話なんだけど、それが銀河征服の覇王の物語になっているところが面白いなぁ。

 

■あざらしが丘/高山羽根子
ざらしの名を持つご当地アイドルがライブで捕鯨する話。「キル・ビル」のゴーゴー夕張みたいに強いアイドル…。

 

ミサイルマン/片瀬二郎
最終兵器外国人労働者。テンポよく読めたんだけど笑っていいのか謎の罪悪感が残る。

 

■色のない緑/陸 秋槎
AIによって生み出されるブラックボックスの話。いずれ訪れるであろう使う人間側がAIに使われる日。自動翻訳が普及すれば通訳や翻訳家はいらなくなるのかなどのテーマも興味津々なところをついてくるし、才女達のやりとりもそんなに百合っぽくない。<色のない緑>の小道具の扱い方に痺れた。

イルミナエ・ファイル/エイミー・カウフマン&ジェイ・クリストフ

 

イルミナエ・ファイル

イルミナエ・ファイル

 

 ページ数600、お値段4730円!高いし分厚いでも読みたい、どこかの図書館にないのか〜と検索したら県立図書館にあったので、わざわざ行って読んできました。本屋で立ち読みした時は、ベスターの『ゴーレム100』のマネなのかという印象でしたが、内容はライトノベル。ゴーレム100の方が遥かに狂っていたなぁ。真っ黒のページが多くて、インク代で高くついたのかな?

辺境のレアメタル採掘惑星に星間企業が突如皆殺し攻撃、かろうじて逃げ延びた避難民達の乗る船団にも証拠隠滅のため追っ手が迫る。そして任務を全うしたいがために狂う船の制御AI、船団に放たれたゾンビウイルス、主人公達は無事にワームホールまでたどりつけるのかというスペースオペラSF。

メール、チャットや報告書、復元された文書ファイルに防犯カメラ映像などででつづる描写。緊張感高まる演出で一気読みできました。女子高生ハッカーパイロットの彼ピが主役。初代のガンダムっぽい展開だなーと思いながら読み進めていったら、HALの暴走にウイルス感染までてんこ盛り。ラストは壮大な○○内ゲンカでぎゃふん。とってもゲーム的なエンターテイメントでした。

女子高生と彼ピのメールのやりとりがねー。ちょっとついていけなかったです。

 

 

yanhao.hatenablog.com

 

 

2010年代海外SF傑作選

 

 インターネットの進化に希望を描いた2000年代とは打って変わって、ICT社会による弊害や絶望感が出てくる2010年代SF。読み比べると面白いですね。テクノロジーが進化すると、使いこなす人類の方のアップデートも必要なのかな。

 

■火炎病/ピーター・トライアス

視界に青い炎が見える難病が発生。主人公はARを駆使して炎を再現し、医師や家族の理解を得ようとするお話。テクノロジーの正しい使い方、青い炎の正体など面白かった。

 

■乾坤と亜力/郝景芳

AIと幼い子どものほのぼのとしたやり取り。郝景芳はいいなぁ、触れ合いを大事にする物語が好き。今月は彼女の新刊が出てくれて嬉しい。

 

■ロボットとカラスがイースセントルイスを救った話/アナリー・ニューイッツ

野良ロボットとカラスのコンビが死にかけ病人を救う話。カラス言語を習得するロボットすごっ

 

■良い狩りを/ケン・リュウ

短編集『紙の動物園』収録作品なので再読。ほんと傑作!霊幻道士からのスチームパンク。アニメ映像化されているらしいので、これを観たいがためにNetflix入ろうかなと思っちゃう。

 

■果てしない別れ/陳楸帆

陳楸帆の単行本『荒潮』が面白かったので、期待しながら読みました。全身不随となった男が深海にいた知的生命体とリンクする話。そして彼女との深い絆も素敵だった。

 

■“ “/チャイナ・ミエヴィル

頭の中でずーっと「こびとずかん」のテーマソングが流れてました。〈不在〉生物を論じたレポート。

 

ジャガンナート世界の主/カリン・ディドベック

巨大なマザーの中で働くヒトの話。SFを読む醍醐味は、文章を自分の脳内でどこまでイメージできるか試すことだと思う。

 

■ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル/テッド・チャン

短編集『息吹』収録作品なので、こちらも再読。仮想空間でデジタル生物を育てる話。次々と変わってゆくプラットフォームがさもありなん。所詮は電子でプログラムなのに、最後の飛躍というか到達点が高い。ポケモンが人権を得るにはそこまでいくのかという。アナに一度も自分の想いを告白していないのに、デレクが選択した事はそれでいいのか、自己完結しすぎじゃないのかと悶々とする。

 

サハリン島/エドゥアルド・ヴェルキン

 

サハリン島

サハリン島

 

北朝鮮の核ミサイルで第三次世界大戦が勃発、先進国の中で唯一無事だった日本は大日本帝国となり再び鎖国する。舞台は日本の領土となり中韓からの難民が押し寄せるサハリン島。応用未来学の女性学者シレーニは、随行者アルチョームと現地視察の旅にでるというお話。終末後SF。

イザベラ・バードとイトの冒険記みたいで、お互いを信じ合う2人が良き。流行り?の無限列車は出てくるし、400ページの2段と分厚いけれど面白くてページをめくる手が止まりません。

2人がサハリン島の真ん中に達した頃に大地震が発生。被災した刑務所から脱獄した囚人に襲われ、ゾンビ感染者に襲われ。

サハリン島はヒトを喰う」死体は発電所の燃料になり、石鹸になり…。この僻地のドライ感。

ロシアの小説ってあまり読んだことないんですが、マンパワーあるところが大国らしい。モブがとにかく多いんだな。

あとがきによると作者さんは日本の文化と宮崎アニメがお好きらしく、どこに宮崎アニメの影響が出てくるかなと思ったら、(ゾンビを)薙ぎ払え!だった。