夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

極夜行/角幡唯介

極夜行 (文春e-book)

数ヶ月も太陽が昇らない極夜、暗闇と極寒を犬一匹と旅した記録。

冒険作家さんの本は結構好きで読んでいる割に角幡さんはお初です。角幡さんの文章面白い!明け透けにここまで書いちゃうのかと驚く。GPSを持たないなどとかっこいいこと言っている割に、土壇場では文明のシステムに頼ってしまう、でも生き延びるのが第一だからそれでいいと思います。

極夜のグリーンランドを旅した記録ですが、様々なトラブルに見舞われて食料不足になり、相棒の犬を食べる計算までして追い詰められていたところはハラハラしました。結果的には奇跡が起きて食料は大丈夫だったんだけど。寝袋の中で犬を殺すシーンを想像して文章に思い描いて推敲までしちゃう。犬を飼っている人はドン引きしちゃうのだろうか。狼を捕った時に全て残さず食べきることが供養だと、これは吉村昭の『熊嵐』でも出てきたなぁ。

一番好きだったところは、夜空の星を見てキャラクター化しちゃったり物語を作ってしまうところ。あの場面はすごくいい。ただ星を見ながら黙々と歩き続け、脳内で妄想が止まらないとこ。

あわせてNHKEテレで放送された『極夜 記憶の彼方へ〜角幡唯介の旅〜』のドキュメンタリーも見ました。手ぶれと低い解像度だと暗闇と極寒がわかりにくかったけど、あの最後の太陽は本当に眩しくて素晴らしかった。特典の海象解体と氷河の荷揚げ作業の映像からシオラパルク村の生活感が伝わってきました。港が海象の解体作業場だから骨や部位がゴロゴロ落ちていて雪の上が血まみれで、なかなか見られない光景でした。

極夜 記憶の彼方へ~角幡唯介の旅~ [DVD]

極夜 記憶の彼方へ~角幡唯介の旅~ [DVD]

  • 発売日: 2018/11/22
  • メディア: DVD
 

 暗闇から陽ノ下に出てくる生まれ変わり、誕生の再生がテーマで、この前に読んだ『地下世界をめぐる冒険』とリンクしていて面白かったです。

地下世界をめぐる冒険 闇に隠された人類史/ウィル・ハント

地下世界をめぐる冒険——闇に隠された人類史 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-12)

旅先で鍾乳洞があれば最優先で見に行っちゃう、洞窟に心ときめく私。図書館でこのタイトルと表紙絵を見てジャケ借りしました。

地下に魅せられた作者が、何年もかけて世界中をまわり地下に潜った記録。ニューヨークの地下鉄、パリの地下納骨堂、アボリジニの聖地、カッパドキアの地下都市、マヤ人洞窟…。体験談だけかと思いきや、ちゃんと歴史的背景や精神、化学に哲学まで踏み込んだ濃厚な内容でした。

穴を掘ることに取り憑かれた人達の話、ニューヨーク地下鉄に描かれたアートから伝説のグラフィティ・ライターを探す話が好き。作者自身が洞窟内で一晩明かす体験談も良かった。臨死体験に似ているんだなぁ。

たいていの人は世界を二次元的に動いている。自分の下にあるものを何ひとつ知らない。地下に何があるかを見たら、都市がどのように機能しているかを理解できる。しかも、それ以上の恵みがある。自分が歴史にどんな位置を占めているかを知ることができ、自分が世界にどう適合しているかがわかるんだ。

トランピストはマスクをしない コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告/町山智浩

トランピストはマスクをしない コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告 (文春e-book)

町山さん週刊誌連載「言霊USA」の単行本最新作は、読んでいる最中にトランプ大統領のコロナ陽性ニュースが飛び込んできたりして、タイムリーなタイトルと「コロナに負けても負けは認めん!」の帯、いつかはかかるとは思っていたけどすごいタイミングですね。

去年は気軽に旅行に行けていたんだなとかまだ平和だった気がして、まるで別の世界軸に変わったかのよう。この本を読んで激動の一年を振り返れました。今回はおまけとして「アメリカの闇を撃つ傑作映画10本」も紹介していたけれど、どれもみていなかった。コロナ渦も数年後には題材にされて映画やドキュメンタリー化するのかな。ちゃんと検証して黒歴史として残されることを希望。

コロナ&トランプのコラムが続くなか、異色の猛獣ブリーダーの話がぶっ飛んでいて印象的でした。本当にこれは実話なんですか…ビックダディが可愛く思えてしまう。

今回から各コラムのタイトルが英語から日本語になってました。あの英語タイトルが実況感あって好きだったので戻してほしいなぁ。

 

yanhao.hatenablog.com

 

vN/マデリン・アシュビー

vN

vN=フォン・ノイマン式自己複製ヒューマノイドのエイミー(5歳)は、幼稚園の卒園式で突如現れた「おばあちゃん」に襲撃される。とっさに母親を助けようと、祖母に噛みつき吸収したエイミーは大人の体になってしまった。美少女ヒューマノイドのさすらい物語。

逃亡途中で出会うハビエル(男性型vN)が「自己複製」して子供を産み、とにかく子だくさんだったり、ヒューマノイドを開発した理由が新興宗教の教えからくるところがユニーク。でもバトルシーンはえぐくてホラー。

エイミーはずっとパニックで泣いているし、体内に入ったマルウェア(祖母)は悪魔のささやきのごとく酷い展開に導くので、アイデアは面白いけど物語の進行が辛かったです。

押井守「イノセント」と庵野秀明エヴァンゲリオン」の影響もちらほらみられて、相当なオタク作家さんなんだな。

夏への扉/ロバート・A・ハインライン

夏への扉

ロボット開発者ダニイが、婚約者と友人にだまされて仕事も財産も奪われ、30年間の冷凍睡眠に追い込まれる。窮地に立たされたダニイの大逆転劇というお話。

最後の大どんでん返し、夢も希望も持てる『夏への扉』というタイトル、猫のピートかわいい!で高校生の頃に初めて読んだ時は「海外SFすごい!」と感服しました。最初にオススメするSFとして定番なのも納得。数十年ぶりに読み返してみましたが、ホントに読みやすい。

<文化女中器>など女性蔑視がカチンとくる箇所もあるけれど、書かれたのは1957年で書いたのはマッチョ精神のハインラインだし。この辺は小尾芙佐氏の新訳版ではどうなっているのか知りたい。ちょろっと出てくる<ヌーディストクラブ>、ハインラインの『人形つかい』でも登場人物が脱ぎまくるので、ハインライン=すっぽんぽん好きという認識が追加されました。

限られた時間内に遂行しないといけないミッションなのに、猫の興奮が収まるまで辛抱強く待つ主人公など、猫思いの優しい描写が結構あるので、ハインラインの猫好きはすごいです。この度舞台を日本に変えて実写映画化するようですが、TBSのドラマ『アルジャーノンに花束を』みたいになるのかなと想像。ピートはベンガルのイメージなんだけど、マンチカンみたいな猫になっていて、そこから不安…。ピートの活躍を期待します!

natsu-eno-tobira.com