夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

プレイヤー・ピアノ/カート・ヴォネガット・ジュニア

 

昨年末にハヤカワ文庫のヴォネガットを某大手チェーン店に一挙に売った方!私が全部買い占めましたっ!というわけで、長編第一作目から読み始めです。

しかし途中でページの糊が外れてしまい、本がバラバラになり(600頁)…誤字脱字も多々あるんだけど…校正?

 

全ての労働は機械化されて、人の運命はコンピュータが決めるという世界。管理者と技術者の支配側と、仕事を機械に取られ「道路住宅補修点検部隊」としてダラダラしているしかない元労働者達との格差社会をぶっ壊せという話。落語みたいな感じで飄々と描かれています。

ブラックユーモアというより落語だなと感じたのは、翻訳者の浅倉さんが半世紀近く前に訳したからか。新しい新訳で読んでみたいですね。

勝ち負けは問題じゃないんだよ、博士。われわれが努力したという、そのことが重要なんだ。

鳥の歌はいまは絶え/ケイト・ウィルヘルム

サンリオSF文庫で絶版だった名作が創元SF文庫で復刊。ル=グィンとカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を彷彿させるSF。自然描写が多くて、窓から日の光が入り込んでいて明るい情景なのに、状況がゆるやかに悪化していくところとかが似ているなぁと思いつつ。

本作は3部作に分かれています。世界中の生命が放射能のせいで絶滅していく中で、クローン技術を駆使して谷に住む一族を存命させようとする第1部。谷のクローン達が作り上げた秩序正しい社会の中で、主体性に目覚めたモリーを追う第2部。弱体化していくクローン達とモリーの息子マークの争いの第3部。

創造性がなく新しい物事を生み出す力を失ったクローン達が破滅に進み、何も知らないが故に幸せそうに生命を終えていく姿がなんとも…。経験と創造性の育成の大事さを訴える内容でした。ある意味『育児書+SF』だったりするのか。

 

 

地球はプレイン・ヨーグルト/梶尾真治

何かのSF短編集の解説で『地球はプレイン・ヨーグルト』のタイトルが載っていて、ずっと気になっていた本です。古本屋で見かけたときはガッツポーズをとってしまった。なぜかフィルムカバーがしてあって、図書館のリサイクル本だったのかなぁ。

梶尾真治といえば、漫画家鶴田謙二と組んだ『エマノン』シリーズや、映画になった『黄泉がえり』と秀作の多い作家さん。本書巻末掲載の星新一による解説もベタ褒めでした。

フランケンシュタインの方程式

SFで「方程式」とつけば、だいたいトム・ゴドウィンの『冷たい方程式』のパロディ。「方程式もの」というジャンルまであるという。あの作品のインパクトはすごかったんだなと思います。オチもいっしょなパロディですが、ブラック企業が日本的。

■美亜へ贈る真珠

著者のデビュー作。異なる時の流れに分かれた男女の哀惜の物語。「私の人生は、何だったのでしょう」っていうのはもうホラーです。愛されていたのかどうかなんて、生きているうちにわからないと何も報われない。

■清太郎出初式

この話が一番面白かった。H・G・ウエルズの『宇宙戦争』で火星人が侵略してきた西暦1900年。明治33年当時の日本の熊本県にも火星人は襲来したのだ!という出だし。カリスマ鳶職の息子なのに”阿呆ぼん”な清太郎が、火星人に破壊されつくした熊本城下で生き延びた人々と逃げ惑う話。火星人の破壊兵器トライポッドと鳶職との戦い。

■詩帆が去る夏

『おもいでエマノン』もそうなので、リリシズム+女の子は梶尾さんの十八番なんだろう。もう手が届かない俺の永遠の女神さま設定は、なんでもエヴァのゲンドウが頭に浮かんで困ってしまう。

■地球はプレイン・ヨーグルト

味覚でコミュニケーションをとるファーストコンタクトもの。軽いテンポで進むけれど、地球にただ一人残された宇宙人があまりにも哀れすぎるので後味悪い〜。あの老人きもい。

逃亡テレメトリー マーダーボット・ダイアリー/マーサ・ウェルズ

宇宙さすらいの警備ユニット弊機の物語第3弾。娘と楽しみに待っていました。

今回はミステリーで殺人事件の謎解き。アウェイでハッキングの制限がかかる中、ブツクサ人間の文句を言いながらも解決の糸口を見つけるために奮闘し、ドヤ顔で啖呵を切ってあーなってこーなって、皆んなが助けてくれる。最高じゃないか。続き早よ!

SFを読んでいて、キャラを好きになることってあまりないのですが、弊機とARTは別格。いつまでも読み続けていたくなります。(今回は薄かったのであっという間だった)

 

前回のように新刊を求めて本屋をめぐる難民にならないように、今回はe-honで予約注文して近場の本屋で受け取り設定。ネットでポチって本屋さんでの会計(売り上げ)になるので、みんなで使って街の本屋を支えてあげてほしい。最近は都市中心部の大手が軒並み閉店していくのでハラハラしてます。

このブログは書影を載せたいためにAmazonリンクしてますが、買うならe-honでポチろう。

ロシア・ソビエトSF傑作集 上・下/オドエフスキー、ベリヤーエフ他

ロシアによるウクライナ侵攻、毎日のニュースで気を揉むばかりですが、本当に早く戦争が終わってほしい。じわじわと締め付けられていく感じが辛い。

ロシアは憎いけど、だからといって大学でロシア語を教えるなとか、案内板からロシア語を削除しろとかいうのは間違っていると思う。革命で反体制側につき弾圧された作家や芸術家達も素晴らしい作品を作っているんだし。ロシア語がわからないと読めないんだし。ロシア語は悪くない。

そういうわけで『ロシア・ソビエトSF傑作集』を積ん読箱からひっぱりだして読みました。ありがたいことに日本語訳。1840〜1938年、ロシア革命前より第二次世界大戦あたりの短編なので古典SFです。

上巻はまだSFとはいえないような、ほのぼのとしたタイムスリップもの(ウラジミール・ф・オドエフスキー『四三三八年』)から、火星で革命をやる話(アレクサンドル・A・ボグダーノフ『技師メンニ』)など。別に火星でなくてもよくね?とは思いつつ、火星設定を除けば、世代を渡る大河ドラマっぽくってセリフもかなり熱い。

下巻はマッドサイエンティストがわらわら出てくるので面白い。量産・巨大化する光線を発明してゴジラ映画みたいな話(ミハイル・ブルガーコフ『運命の卵』)、アマゾン川でサバイバル人生を送る博士の話で一番楽しかった話(ミハイル・ブルガーコフ『髑髏蛾』)、ユーモアSFと謳っているのに、どうしてロシアSFはいつも悲劇で終わるのかと思う話(ゲ・グレブネフ『危険な発明』)など。

上下巻ともに論文のように詳しい訳者・深見 弾氏による巻末解説が素晴らしくって、ロシアSFの特徴もわかりました。でも宇宙ものも多いって書いているなら、もっと宇宙ものを入れて欲しかった。