夜空と陸とのすきま

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ストーカー/Сталкер

ストーカー [Blu-ray]

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  • アレクサンドル・カイダノフスキー
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とある地域で何かが起こり、人外魔境となった「ゾーン」。作家と教授、そして案内人(ストーカー)の三人が、ゾーンにあるという「入ると願いがかなう部屋」を目指す。ゆきてかえりし物語。

タルコフスキーの映画は芸術的作品だが眠い!『ソラリス』も『ノスタルジア』も20代で観て爆睡したけれど、『ストーカー』は原作を先に読んでいたから、舞台設定が理解できていて、かぶりつきで3時間見れました。歳をとったから、ようやくタルコフスキーの良さがわかるのか。他の作品ももう一回見直そうかな。

脚本は原作者のストルガイツキイ兄弟ですが、タルコフスキーの自叙伝的なものをかなり入れてきている気がします。ゾーンに入るのが作家と教授だから、セリフも監督のことのように聞こえてしまう。宇宙からきた隕石落下でできたゾーンという設定以外は全くSFしてなかったけれど、水と火の表現の美しさ、シンメトリーを多用する構図、宗教的解釈、ゆきてかえりし物語の最後に優しく迎える妻。

ゾーンの探索中、ちょっと休憩しようと言ってなぜそんな狭いとこで寝るの?と思ったけど、あの水の中の医療用具〜キリスト像〜銃〜のシーンは意味深で美しかった。

 

タルコフスキーは自由な表現を求めてソ連から亡命し、フランスで客死。

ウクライナのゲーム会社は、『ストーカー』のゾーンをチェルノブイリ放射能汚染地帯に変えてPCゲーム『S.T.A.L.K.E.R.』を開発。

そして日本では、理解の及ばない異世界でのお宝探索をコンセプトにした『裏世界ピクニック』がラノベ、アニメ、漫画とマルチメディア展開。日本らしいといえばらしい。

yanhao.hatenablog.com

 

プロジェクト・ヘイル・メアリー/アンディ・ウィアー

よい、よい、よい。プロジェクト・ヘイル・メアリーは良いぞ!よい、よい、よい。だけで読んだ人はわかる。きっとニンマリしてしまうでしょう。

ラジオ番組で宇多丸さんがこの本を推して「何も予備知識なしで、出来れば帯も見ない方が良い」と言っていたからか、SNSでも誰一人頑なにネタバレ感想を書かない。すごい。

というのも、物語始まりの主人公は記憶喪失で何故か宇宙空間を飛ぶ宇宙船の中にいて、じわじわと自分のことを思い出すことで話が進むから、何を書いてもネタバレになるのです。ぐっと我慢。

数学に強く、物理学のエキスパートで惚れ惚れするような主人公。懐かしのTV番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』で、どんな難問でも挑戦して答えていく参加者を気持ちよく眺めている感じに似ている。

あとこの物語では地球の危機に際して、全世界中の叡智が集い、協力していく様も泣けてくる。時勢が時勢だけに。このコロナ禍で、夜空を飛ぶISSの姿に何度励まされてきたことか。読み終えた後で制裁でISS落下の恐れ ロシア国営宇宙開発企業(AFP=時事) - Yahoo!ニュースが辛すぎます。ウラジーミル、ともに見た夢はこんな未来じゃなかったぞ。

スノウ・クラッシュ/ニール・スティーヴンスン

数年前に某古書チェーン店で『スノウ・クラッシュ 上』を110円棚でみかけまして、『7人のイブ』のスティーヴンスンだから絶対面白いんだろうけど、下巻がなかったので買うのをあきらめました。それが昨年、メタヴァースの流行の兆しによって元ネタ本と話題になり、表紙も新たに復刊してくれたのでようやく購入。旧版はせどりさんたちによって?ネットでの古本価格がみるみる上昇してて驚きました。

物語はアメリ連邦政府が無力化して、それぞれマフィアや資本家によるフランチャイズ国家に分裂した近未来。オンライン上の仮想空間「メタヴァース」と現実世界で「スノウ・クラッシュ」なる謎のウィルスがばらまかれ…というお話。

主人公ヒロ・プロタゴニストは在日韓国人の母とアフリカ系アメリカ人の父との間に生まれ。日本刀と脇差を携帯し、常にVRゴーグルをかけたドレッドヘアの凄腕ハッカー&ピザ宅配人で最強剣士。

主人公像をここに書きだすだけで情報量多!ですが、(名前がヒーロー・主人公ってw)本文も細かい設定と原書刊行が30年前なのに今でも斬新なアイデア、仮想空間と現実を行ったり来たり、さらに古代シュメール神話と言語SFの要素も入れてきててんこ盛り。完全映画化するとしたら、ずっと説明や解説を入れるか、見る人のリテラシーが高くないと難しい。逆に映像化だからと言って簡素にして削りまくったら魅力が失せるんだろうなぁ。『レディ・プレイヤー1』みたいな感じだろうと読み始めたけど、さらに深い深い。

古代シュメール語のメ(脳に直接作用する神経言語)=古代宗教をウイルスと位置づけ、このメを崩壊させることによって(バベルの塔)、人々の言語は多様化し自意識が芽生えたという解釈や、それを仮想空間の構築やバイナリ・コードにも持ってくるあたりがしびれました。

また読み返したいので、グラシン紙代わりにクッキングシートでカバーを作って本棚へ。

 

火守/劉慈欣

『三体』の劉慈欣、新刊はKADOKAWAからファンタスティックな童話、しかも薄いのに高っ!でも手に取って読んでみるとロマンチックでええ話やし、カラーで西村ツチカの丁寧な描き込みイラストも堪能できて、お値段相当でした。劉さんの底抜けのイメージ描写と西村ツチカの絵は相性がとても良かった。

物語前半の少女を救う旅と、火守を継ぐ内容がやや噛み合っていない感じがしました。童話というよりは神話みたいなお話でしたね。

ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ/ユリア・エブナー

ネオナチ、過激主義、陰謀論、極右など若者中心のオンラインコミュニティ(12の組織)潜入ルポ。著者はロンドンを拠点とする戦略対話研究所の人。

あまりにも情報量が多くて、一度読んだだけでは理解が追いつかなかったけど、アメリカだけでなく、ヨーロッパ含める世界中で過激主義者は台頭してきているんだなと気分が滅入ってきました。

「レッドピル」が、映画『マトリックス』でネオが赤いピルを飲んで覚醒することを歪曲して、極右の「君も真実に目覚めたね(レッドピルを飲んだね)」という勧誘文句として使われている事実などがショックでした。そりゃ『マトリックス』続編作るわー、ウォシャウスキー姉妹の怒りがわかる。

第11章ブラックハットで出てくるISISとネオナチの凄腕ハッカー(悪の道に走ったハッカーをブラックハットという…メモメモ)のインタビューが興味深かった。ハッカーになるためのスキル(入門編)を箇条書きしていて、侵入や偽造のテクニックも。こんなに知能が高い人達がなぜ人種差別に走るのか。