夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

5分間SF/草上 仁

学校の朝の読書タイムって、みんな「5分」ってつくタイトルの本ばかり読んでいるんだよと娘から教えてもらいました。学校の図書室で新しく購入する本も、図書だよりを見ると5分系ばかりで、なんとしてでも読書習慣をつけてほしい司書さんの思いもあるんだろうな。

5分で読める短編集でも売れているならいいじゃんねぇ、って思っていたらまさか早川書房も5分系を出してくるとは。表紙からし星新一を彷彿させてくれます。20年かけてSFマガジンに連載されたショートショートの文庫化。

最初の3話までを読んだ時点では、ギャグが滑ってる…つらたん、でしたが、後半はわりと好き。

■半身の魚

宇宙で遭難し、脱出ポッドでたどり着いた砂漠の惑星。小さなオアシスの池の魚は尽きることがないから、毎日捕獲して食べていられるはずだったのに…という話。ヴォネガットっぽいブラックで好き。

ユビキタス

人の全てをネットワークシステムに依存している未来、太陽の黒点活動の影響で1分間だけシステムが遮断され、その1分間の気づきの話。これぞショートショートの醍醐味。

シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選/シェルドン・テイテルバウム&エマヌエル・ロテム編

(裏表紙より)「イスラエルと聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。」

私が思い浮かべるのは、まずユダヤ教、男女ともに兵役があり、Twitterで流れてきた「非番でも常時武装のため、町を歩く若い女性がM4カービンを携帯」画像の強烈さ。前世代の戦争をずっと引きずっていて現在進行形。理工学分野は得意でハイテク、コロナワクチンへの動きも素早い(すごい!)、というところ。

そんな閉塞感や戦争への緊張感が端々に感じられる16のイスラエルSF短篇集でした。

イスラエルのSF作家はSFをサイエンス・フィクション(空想科学)ではなくて、スペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説)ととらえているそうで、さっぱりわからん話もあれば、どうしてそんなオチにというの悲しいものもあり、好みの話ももちろん。サイエンス・フィクションではないから宇宙に行かない。けれど表紙の紙の肌触りが月面っぽいクレーターを感じて、宇宙に行かなくてもイスラエル自体が星なのだという粋な装丁。全体的にとてもレベルが高くて、小難しい。取り巻く環境があまりにも複雑で、ぼーっと呑気に生きていられない国なんだなと思いました。

■『夜の似合う場所』サヴィヨン・リーブレヒト

人類が絶滅して、生き残った人々はホテル〈夜の似合う場所〉で共同生活する。男は食料や資源を求めて外回りに出かけ、女は子供と老人のお世話をする。こういうシチュエーションで「祈りの部屋」を作ろうって展開になるところがさすがイスラエルだなぁとか思いながら読んでいたら、まさかのオチの辛さったらないっすね。

■『エルサレムの死神』エレナ・ゴメル

ナンパしてきたイケメンは実は死神でしたという話。死神と結婚したら妻も死神に。結婚披露宴に来た人もみんな死神。アウシュビッツの死神まで出てきた。

■『ろくでもない秋』ニタイ・ベレツ

同居している彼女から理由なく突然振られ、仕事はクビになり、ルームメイトはカルトの教祖となる、ろくでもない秋を過ごす俺の話。やけくそになってマリファナをがんがん吸い、ショッピングセンターでさくっと銃を買う俺(イスラエル怖い…ガクブル)。突然出てくるUFOと人間の言葉を話すロバが笑いどころ。『アナ雪』のスヴェン(やつはトナカイだが)みたいで良い奴だった。

ビンティ ー調和師の旅立ちー /ンネディ・オコラフォー

ヒンバ族の調和師ビンティが、銀河系のウウムザ大学に入学しようと宇宙に旅立ったら、異星種族メデュースに襲われる事件に巻き込まれてというお話。

宇宙に旅立つ第一部、故郷に帰る第二部、そして紛争に巻き込まれる第三部の構成。第一部で全乗員を皆殺しにしたクラゲ型異星人メデュースの若者オクゥと、いつのまにか大親友になっちゃうあたりで共感できずついていけなくなるけれど、そこを我慢して読み進めると、調和師として才能を現していくビンティの成長が面白くなってきます。徐々に明らかになっていくビンティのアイデンティティもすごいし、さらに結びつく。みんな、第一部は我慢だ!

魔法使いや錬金術師のような立ち位置で、呪文ならぬ数理フローを説いて集中する調和師。無意識に行う行為を出産と同じだと表現したところは唸りました。確かに出産時は女性ホルモンと赤子に身体が支配されている感じ。

五歳のとき、赤ちゃんを産むってどんなものなのか母にたずねたことがある。母はほほえみ、一歩引いて自分の身体を譲りわたす行為だと答えた。出産とは、人体が無意識に行なう数かぎりない反応のひとつにすぎないのだという。(P207)

争いを治める調和師。ナウシカに近いSFでした。

ものがたり宗教史/浅野典夫

Twitterでおすすめを見かけた、高校の社会科教諭による宗教史。こんなに歴史的背景をきちんと踏まえて、それぞれの宗教を分かりやすく解説した本には出会ったことがないです。素晴らしい!

今年から授業で世界史を選択した娘も読んだようで、ざっくりと流れがわかってちょうど良かったようです。世界史は学んだときは理解しててもすぐに忘れるので、数年おきに復習がいるなとつくづく思います。度々触れていると、博物館に行ったり、伝記物の映画を見たりした時に、より知的好奇心が刺激されて楽しめるし。

ユダヤ教からキリスト教イスラーム教が派生して、現代のパレスチナ自治区の混乱まで続く歴史。紛争解決には、関わる人全員が史実を知り理解して思いやって話し合うしかないんだろうけど、その教育というものが一番難しくて、いつまでも解決できないんだなと思います。

民族としてヤハウェ神を信仰しているのに、御利益があるどころかひどい目にあうのならば、こんな神様を信仰するのはやめようという考え方もあると思うのですが、かれらは逆の発想をしました。「われわれは、モーセ以来の戒律をきちんと守り、ヤハウェ神のみに信仰を捧げてきただろうか」と、反省をしたのです。反省というものは、すればするほど際限なく反省点が出てくるのです。(P28)

マトリックス レザレクションズ/THE MATRIX RESURRECTIONS

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新年明けましておめでとうございます。つたないブログですが今年もたま〜にお立ち寄りいただければありがたいです。本年も宜しくお願いいたします。

2022年ブログ最初の投稿は、年末の多忙時に縁側から抜け出して(玄関を通らないところがミソ)レイトショーで見てきたマトリックスの新作。オープニングから「やっべー前3部作の話どんなんだっけ忘れたわ」と、どきどきしながら映画に乗車しました。

案の定、話も用語もさっぱりわからないまま。そういえば、主役二人とも死んで完結したんでしたっけ。でもトーマス(ネオ)とティファニー(トリニティ)の顔が一瞬だけ白髪の別人になって映る所は見逃さなかったよ。ネオが赤いピルを飲んで覚醒するまでが1時間、長い!

宇多田ヒカル似のバッグス船長の活躍、前作のパロディ(結構すべる)、アクションシーンで机に倒れ込む香港カンフー映画リスペクト、新幹線が新感染だったりで、監督が楽しみながらアレもこれもつっこんでいる感じは見ていて楽しい。

けれど途中からゾンビものに近くなってきたのはいいとして、どうしても「飛び降り」というモチーフは気持ちがざわざわするので好きなれない。精神科医からの助言や幻覚・現実の境目をぐらつかせるのは、見る人によっては結構きつい描写なのではとも思う。

最後まで見終えての感想としては、全4作品の元ネタや設定を細かく追いかけていくとまた味わいが違ってくるのかなと。何度も見て読み解いて楽しむ映画がマトリックスシリーズなのだろう、ということでまた前作を見直します。

エンドロール後の寸劇は、余韻台無しだったので無くて良かったね…。