夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

時間の王/宝樹

劉 慈欣『三体』の二次創作小説をネットにアップしたら、出版社と劉さんから公式にスピンオフ作品として認められたという異例の作家さん。タイムトラベルSFの短篇集はエンタメ度高し!前書きによると、中国で日本のSF小説が、わりと翻訳出版されているので、子どもの頃から読み親しみ影響を受けたとのこと。そういうのは村上春樹だけだと思っていたから意外。中国にも小松(左京)チルドレンやガンダムチルドレンがいるんだねぇ。

 

■穴居するものたち
2001年宇宙の旅』みたいな、ぐるっと一周する人類史。洞穴、部屋に対する愛着表現が良かった。

 

■三国献麺記
三国志の時代にタイムトラベルして、曹操にラーメンを食べさせてお店の宣伝に使おう計画。と書くとアホっぽいんですが、ドタバタ笑いあり謎解きミステリーも入ってきて意外な結末で(あの結末ってあかんやつってことですよね?)一番面白かったです。腐女子ワード出てきた。

 

成都往事
謎の女により不老不死にされた王が悠久の時間をめぐる話。いやこれは…ガチでストーカーなのでは…。朱莉は逃げてたんじゃないの?「また会ったね」って怖いわぁ。(誤読している)

 

■九百九十九本のばら
学内一の人気者女子に告白したら、九百九十九本のばらを持ってきたら考えてあげると言われ…というところからSF的妄想する話。展開が二転三転として、やっぱりちゃんとSFするところがすごいね。ロマンチック。

円 劉 慈欣 短篇集

先月『アメトーーク!』で読書芸人特集があり、紹介された本が売れに売れて、Amazonでは劉 慈欣『三体』が品切れになったそうです。アメトークすごいね!読書芸人は3ヶ月スパンでやったら出版界喜ぶんじゃないの。『三体』が分厚すぎて気後れしている人にはぜひこちらの劉 慈欣短篇集をオススメします。これはかなりの傑作揃い!図書館で借りちゃったんだけど、近々買って手もとに置いておきたい。

■鯨歌
デビュー作なんだけど最初からハイレベルで驚く。シロナガスクジラの口の中に入って麻薬の密輸売買の話。大掛かりでロマンがあって、でも因果応報なオチ。

 

■地火
これを読みたかったから去年出たハヤカワの『2000年代海外SF傑作選』を買ったんだけど、まあいいや。小松左京風味の強い実録プロジェクトX・炭鉱労働者VS地球。ずっと『地上の星』がリフレインします。

 

■郷村教師
Twitterでこの短篇集を読んだ人が『郷村教師』がすごいすごいとつぶやくので、楽しみにしていました。いやこれは絶句。貧しい農村から宇宙帝国に話が飛ぶところとか、すぐに誰かにプレゼンしたくなりますね。「教師…だと!?」

 

■カオスの蝶
これもすごい話なんだよ!としゃべりたくなる傑作(実際、娘に熱く語ってしまった)。家族愛に涙しながら、祖国を空爆から救うためのミッション・インポッシブルが破天荒すぎて、でもあり得そうという説得力があるのが不思議。

 

■詩雲
中国系作家は芸術文化・文字(漢字)にかかわるSFが魅力的でとても面白い。ケン・リュウテッド・チャンに負けず、劉 慈欣は李白ときましたよ。宇宙人と漢詩の話。

 

■栄光と夢
オリンピックってぶっちゃけ代理戦争だよね、をそのままお話にした短篇。マラソン選手シニに感情移入しちゃうとワンワン泣けます。ビル・ゲイツがしれっと出てくる。

 

■円円のシャボン玉
幼い頃の大好きを伸ばしていくとこんな素敵な物語に。義務教育で将来の夢を持つことを強制させるなら、この物語を教科書に載せて、大好きを貫く子に育ててほしい。

 

■人生
母親の記憶が胎児に受け継がれる話。それは胎児にとっては酷なこと。

 

■円
中国の人海戦術は計り知れない。再読4回目でも面白い。

JM/Johnny Mnemonic

ウィリアム・ギブスンの短篇『記憶屋ジョニイ』の映画化。脳の一部を電子化し、ストレージにデータを保存して運ぶジョニーをキアヌ・リーブス。データを追うヤクザの親玉タカハシを北野武が演じる。

1995年当時はかなり話題にはなったものの、予告編などで人間が輪切りになったり、割と血まみれだったのが怖くて、映画館に足を運ばなかったような気がします。今見るとたいしたえぐさでもない…大人になったなぁ私。監督さんが現代アートの人なので、衣装やボディメイク、構図やカメラの傾きなどにこだわりを感じましたが、アクションがドタバタしていてスマートではなかったのが残念。この後の『マトリックス』に繋がるギブスンワールドの映像美と世界観の土台を作りあげた感じでした。

色々つっこむところも多くて(タカハシとシンジは特に!)見ていて楽しかったです。後半出てくる殺し屋カール牧師の拷問シーンとか小道具がヤバイ。キャラクター描写がとても良くて、ジョニー(キアヌ)のストレスが爆発して「清潔なベッドで寝たい!高級娼婦を抱きたい!洗濯したい!帝国ホテルのクリーニング…東京の!」と叫ぶシーンとか最高に良かった。帝国ホテルうんぬんはアドリブだったそうで、キアヌいいやつだ。男女ともに肩パット入り大きめのスーツで時代を感じて懐かしかった。

クローム襲撃/ウィリアム・ギブスン

ウィリアム・ギブスン短篇集で、キアヌ・リーブス北野武が共演した映画『JM』の原作「記憶屋ジョニイ」収録。ハッカーやマフィア、電脳空間に暗黒街でヤクザと粋なサイバーパンクを味わえる全10篇。ブルース・スターリングのSF界に啖呵切ってる序文も面白い。

 

■記憶屋ジョニイ

ジョニイと言えば、「ジョニイへの伝言」じゃなくて、UAの曲「悲しみジョニー」を思い出す世代です。それはともかく、映画『JM』はまだ未見。昨日レンタルで借りてきた!
機密情報を頭に記録して運ぶ不正取引人ジョニイが、ヤバいプログラムを記録し、”ヤクザ”に追われ、若き日のモリイに助けられる話。会話文が全く理解できなくても、しびれるカッコよさがあるのは、ゴダールの映画っぽいな。

 

■ニュー・ローズ・ホテル
他の企業に引きぬかれるよりは死んでもらったほうがましと命を狙われる企業専属の科学者の逃亡を助ける"逃がし屋"の主人公という、ぐっとくる設定でつかみはOK。棺桶と訳されるカプセルホテル「ニュー・ローズ・ホテル」など、日本が舞台。歌舞伎町&横浜ハードボイル。90年代に映画化していて、ヒロシが天野嘉孝!日本企業の役員が坂本龍一だったらしい。なにそれ見てみたい。

 

ドッグファイト
マイクル・スワンウィック&ウィリアム・ギブスン共作。アーケードゲームの覇者を目指すデュークと天才プログラマーの女の子ナンスの物語。恋バナになるかと思いきや後味の悪い結末。でも小悪魔的なナンスが可愛い、可愛い過ぎる。この本の収録作の中で一番読みやすくてキャラが立っている。デュークは超最低!なんだアイツ。

 

■クローム襲撃

ニューロマンサー」、「記憶屋ジョニイ」、「ニュー・ローズ・ホテル」も、そして「クローム襲撃」も同じ世界軸線で"スプロール・シリーズ"と呼ばれるもの。作家が生み出した創造の世界が、ここまで設定に凝っていて、ガジェットが揃うと無敵。ギブスンがSF界に与えた衝撃の強さを感じながら読みました。

 

マッカンドルー航宙記/チャールズ・シェフィールド

昨年の秋は巣ごもり需要で雑誌各紙が本特集を組んでくれまして、この本は『pen』2020年11月号で、宇宙開発というテーマで宇宙機エンジニアの野田篤司氏が選書していて、気になったので入手しました。野田氏曰く「未来の宇宙開発を暗示している」「まさに宇宙は国家から民間へ、やがては個人の手に。」

折よくZOZO前園さんがISSに飛び立つ日が決まったそうで、まさに宇宙への道は開けてきたー!

さてさてタイトルどおり、太陽系随一の変人天才物理学者マッカンドルー博士と相棒のジーニー宇宙船船長の冒険航宙記という本書ですが、作者がガチ科学者なので、まあ設定も付録の科学的解説も細かい。よくわかんないけど映画『インターステラー』のブラックホールに突っ込むとか時間遅延あたりなんだろうと大雑把に解釈して読み進める。主役2人の掛け合い(夫婦漫才)が面白く、最高峰の知性が集まったペンローズ研究所も素敵だ。国家を超えて宇宙に飛び出す未来が見たいな。オッホ。