夜空と陸とのすきま

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シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選/シェルドン・テイテルバウム&エマヌエル・ロテム編

(裏表紙より)「イスラエルと聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。」

私が思い浮かべるのは、まずユダヤ教、男女ともに兵役があり、Twitterで流れてきた「非番でも常時武装のため、町を歩く若い女性がM4カービンを携帯」画像の強烈さ。前世代の戦争をずっと引きずっていて現在進行形。理工学分野は得意でハイテク、コロナワクチンへの動きも素早い(すごい!)、というところ。

そんな閉塞感や戦争への緊張感が端々に感じられる16のイスラエルSF短篇集でした。

イスラエルのSF作家はSFをサイエンス・フィクション(空想科学)ではなくて、スペキュレイティヴ・フィクション(思弁小説)ととらえているそうで、さっぱりわからん話もあれば、どうしてそんなオチにというの悲しいものもあり、好みの話ももちろん。サイエンス・フィクションではないから宇宙に行かない。けれど表紙の紙の肌触りが月面っぽいクレーターを感じて、宇宙に行かなくてもイスラエル自体が星なのだという粋な装丁。全体的にとてもレベルが高くて、小難しい。取り巻く環境があまりにも複雑で、ぼーっと呑気に生きていられない国なんだなと思いました。

■『夜の似合う場所』サヴィヨン・リーブレヒト

人類が絶滅して、生き残った人々はホテル〈夜の似合う場所〉で共同生活する。男は食料や資源を求めて外回りに出かけ、女は子供と老人のお世話をする。こういうシチュエーションで「祈りの部屋」を作ろうって展開になるところがさすがイスラエルだなぁとか思いながら読んでいたら、まさかのオチの辛さったらないっすね。

■『エルサレムの死神』エレナ・ゴメル

ナンパしてきたイケメンは実は死神でしたという話。死神と結婚したら妻も死神に。結婚披露宴に来た人もみんな死神。アウシュビッツの死神まで出てきた。

■『ろくでもない秋』ニタイ・ベレツ

同居している彼女から理由なく突然振られ、仕事はクビになり、ルームメイトはカルトの教祖となる、ろくでもない秋を過ごす俺の話。やけくそになってマリファナをがんがん吸い、ショッピングセンターでさくっと銃を買う俺(イスラエル怖い…ガクブル)。突然出てくるUFOと人間の言葉を話すロバが笑いどころ。『アナ雪』のスヴェン(やつはトナカイだが)みたいで良い奴だった。