夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

標本バカ/川田 伸一郎

標本バカ

標本バカ

  • 作者:川田 伸一郎
  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

国立科学博物館に勤める哺乳類の研究者の標本を収集・管理する日々のコラム集。普段は見られない博物館の裏側、標本を作る仕事が垣間見れて興味深いです。著者の息子君達への英才教育も微笑ましい。幼児期に虫捕りで覚える知識は大切。浅野文彦氏のイラストもリアルな絵柄で笑いをとりにきていて、そしてサインでかい。

著者はモグラの専門家で、大変にモグラ愛溢れた内容でした。紹介されていたモグラの骨盤や耳小骨は確かに可愛いが、我が家の裏畑のアスパラや小松菜を、それこそ根こそぎ食べつくす奴らが憎くてたまらないです。一般家庭では法的に罠を仕掛けられないそうなので、川田さん、うちのモグラ捕獲してくれないかしら。多分アズマモグラだと思います。

ヒトはそもそもほかの生き物を利用して生きていく生き物だ。腹をくくる必要があると思う。

 

時間衝突/バリントン・J・ベイリー

 

時間衝突【新版】 (創元SF文庫)

時間衝突【新版】 (創元SF文庫)

 

支配側タイタン軍団と従属側異常亜種人達に分かれている地球に、2世紀後の未来からキツネザル型エイリアン軍が突っ込んでくるみたいなんだけど、この時間システムの衝突をどうすれば回避できるんだーという話。

時間SFはよく話を見失ってしまうけど、今回も最後まで読み終えても全く話がわからなかった。ベイリーの傑作怪作(でもベイリーはどれも怪作だよな)というのにわからなかったのが癪で、ノートに話の流れをメモりながら2周目でようやく理解できました。はぁスッキリ!

地球も支配と従属側、星間宇宙社会レトルト・シティも娯楽側と生産側に分かれていて、どちらも相容れない格差社会

レトルト・シティの階層分けは郝景芳の『折りたたみ北京』を彷彿しました。2世紀先に予定されているキツネザルエイリアンの襲撃は劉慈欣『三体』みたい。私の脳内はかなり中国SFに侵されている…。

六次元マトリックスや斜行存在(デウス・エクス・マキナ!)など複雑怪奇。ベイリーのアイデアは素っ頓狂で楽しい。

主人公である中年考古学者ヘシュケのやる気のなさ、物理学者アスカーの非協力的な脱落っぷり、これでよくストーリーを引っ張って行けたなと感心。不思議です。

日本SFの臨界点[怪奇篇]ちまみれ家族/伴名 練 編

 

 [恋愛篇]と同時に発売された[怪奇篇]は11篇の短篇を収録。怖いよりも、世にも奇妙なウルトラQ的な、とってもクセのあるホラーSFばかりでした。ザクザク殺し合う話はなくて読みやすかったです。

 

■DECOーCHIN/中島らも

音楽雑誌編集者がライブ取材で出会ったすごいインディーズバンドとは…。フリークステーマで、らもさんの遺作!階段から転げ落ちる直前まで、こんなロックンロールな作品書いていたのかぁ、さすが中島らも
ちなみにウチの地域のクロネコヤマト担当ドライバーが中島らもそっくりで、らもさんは実は生きていて、雪国で宅配行をしていると信じています。

 

■ぎゅうぎゅう/岡崎弘明
大変息苦しい人口爆発な密集SF。うへぇ

 

■地球に磔にされた男/中田英
タイムマシンに乗って、過去の自分と入れ替わりたい男の話。結構意外なオチで、びっくり。あれから10年ですね…。

 

■黄金珊瑚/三波耀子

日本SF界の黎明期に女性作家がいたんですね。旦那さんから「僕はSF小説のような夢物語は嫌いだ」と言われて作家活動を断念、以後は育児家庭に専念って(泣)

 

■ちまみれ家族/津原泰水
流血まみれな家族の話。津原さんのギャグ短篇のインパクトの強さよ。このテンポの良さと言葉のリズム。海外文学翻訳では絶対に出会えない、そしてとんでもなく酷い話。

 

■雪女/石黒達昌
記憶喪失で低体温症、保護された女性のレポート。雪女と鶴の恩返しMIX。機織り、つる、子どもをこういう感じに混ぜてくるのね。

嘘と正典/小川 哲

 

嘘と正典

嘘と正典

 

日本SF大賞受賞『ゲームの王国』の小川哲氏短篇集。父と子の関係と時間SFの融合が多かった。小川氏の書く小説の色味の少ない冷めた視線、でも重量感があるとこ好きです。

 

■魔術師
お父ちゃん不器用すぎて伝え方下手でも、娘よくぞ辿り着いたその1。天才マジシャン親子の物語。時間SFなんだけど、最後に話を見失ってしまいました。


■ひとすじの光
父の残した競走馬と家系の謎解き物語。ひょっとすると私小説だったりするのだろうか?お父ちゃん不器用すぎて伝え方下手でも、息子よくぞ辿り着いたその1。これだけSF設定なし。

 

■ムジカ・ムンダーナ
人間の耳には聴こえないけれど宇宙に鳴り響いている遠い音楽と作曲家親子のお話。お父ちゃん不器用すぎて伝え方下手でも、息子よくぞ辿り着いたその2。宇宙の音楽と惑星探査船ボイジャーを絡めるところとか壮大でカッコいい。

 

■最後の不良
流行が許されない近未来で、特攻服に改造バイクで反抗する男の話。どこかで読んだような気がすると既視感があったけど、雑誌「pen」での「SF絶対主義」特集号の時に書き下ろされてた短編でした。個性と没個性の関係は紙一重

 

■嘘と正典
米ソのスパイ大作戦+時間SF。表紙がなぜ カール・マルクスなのかは、この表題作「嘘と正典」でマルクスエンゲルスに触れるから。最初はとっつきにくかったけれど、後半は映画「テネット」のような時間軸をめぐるスリルがあって面白かったです。

日本SFの臨界点[恋愛編]死んだ恋人からの手紙/伴名 練 編

 

 恋愛要素を含めた短篇集未収録作品を中心に編成した9篇のアンソロジー。編者伴名氏のSF愛に満ちた独特の視点が面白いし、それぞれの短編の前に作品と作家紹介が細かい字で3ページもあって、SFマガジンに掲載されたけど単行本文庫未収録って多いんだなと。そこまで細かく調べ上げてくる伴名氏のオタクぶりに恐れおののく。こんなに隠れた名作があるなら、ネット上でアーカイブ&有料閲覧できるといいですね。

 

■死んだ恋人からの手紙/中井紀夫
星間戦争の兵士が故郷の恋人に送る時系列がバラバラの手紙。俺、帰ったら結婚するんだ…って、死亡フラグが立ってる立ってる!

 

■奇跡の石/藤田雅矢
東欧の小国で超能力者達が住む村に調査に訪れた主人公が出会ったのはというお話。なんとなく坂口 尚や藤原カムイが描く漫画(となると元はメビウスか?)の雰囲気を感じました。日本のSF小説っていつも脳内で漫画かアニメになってしまう。必ず少女が出てくるからかな。

 

■劇画・セカイ系大樹連司
売れないライトノベル作家のお話。これは仕掛けが面白かったけど、最後に主人公が選択した道があまりにも現実的過ぎてせつない。セカイ系+売れる商業・売れない芸術。

 

G線上のアリア高野史緒
16世紀ヨーロッパが舞台なんだけど改変歴史モノ。GってそっちのGかいっ!と、中世にもしもデジタルが発達していたらの妄想が楽しい。

 

■人生、信号街ち/小田雅久仁

信号待ちをしていた男女2人が空間に閉じ込められてというお話。ワンダーなSFが編者の伴名氏の作風で好みなんですね。ひ孫まで順調に生まれる人生うらやましい。

 

■ムーンシャイン/円城 塔
円城さんのはったり数学SFだ〜!全然わかんないし、「恒河沙」って字を久しぶりに見た。ゼロ何個の桁数でしたっけ?脳内でアラン・チューリングが自転車漕いで去っていきました。

 

■月を買った御婦人/新城カズマ
19世紀メキシコの竹取物語人海戦術で0と1に分かれて演算するって、劉慈欣『円』に出てくる面白いアイデアだと思っていたのに、それよりも前からあったとは衝撃。