夜空と陸とのすきま

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宇宙の果ての本屋 現代中華SF傑作選/立原透耶 編

 

中々に読み応えがあり、大満足の短編集でした。色々な中華SF作家さんを紹介していただいていて、前書き後書きの解説も面白い。翻訳家さん達の個別紹介まで!手が込んでいます。

 

▪️生命のための詩と遠方/顧適

18年前に参加した海洋汚染処理の国際コンペ。原油やプラスチックゴミから別の生き物を生み出すロボットが、実は海底でまだ作動している…?という話。直接的に役立たない詩と遠方こそが、新しいモノを生み出す。


▪️小雨/何夕

画家と女子と画家の三角関係。揺れ動く心理描写がお見事。


▪️仏性/韓松

ロボットの間で禅宗ブームが起きて、チベットの奥地の寺院のラマ化身がロボットという話。ロボットと仏性、一番興味あるテーマです。


▪️円環少女/宝樹

職業不定の父と2人暮らし。十代半ばの少女が自分の生い立ちを探っていく独白型ミステリー仕立て。男のエゴがキツい。


▪️杞憂/陸秋槎

春秋時代の古典「杞憂」の由来を元にしたSF。からくりロボットみたいな兵士の描写が楽しい。あいやー、天も星も落ちてきちゃうんですね。


▪️女神のG/陳楸帆

先天的に子どもを産めない体の女性の人生の話。読みながらサザンの「マンピーのG★SPOT」がぐるぐる脳内を流れていました。


▪️水星播種/王晋康

科学者のおばさんが亡くなり、甥が相続したのは、ナノ生命体を水星で長い長い年月をかけ養殖させる研究。中華SFは、気の遠くなるスパンをぐっと引き寄せる話を作るのが上手いよね。


▪️消防士/王侃瑜

人間の意思を機械に引き継げる未来、業に囚われた消防士の話。犯罪者になった理由が攻殻機動隊の世界観に似ている。


▪️猫嫌いの小松さん/程婧波

タイ北部チェンマイで外国人が住む集落での猫の話。いつSFになるんだろうと思って読んでいたけど、ちゃんとSFだった。しかし小松左京チルドレンがここにも。中国女性SF短編集『走る赤』でも、日本を舞台にしたSFを書いていた作家さん。小松左京って中国で人気なんだな。


▪️夜明け前の鳥 /梁清散

▪️時の点灯人 /万象峰年

▪️ 死神の口づけ/譚楷

旧ソ連を舞台にした炭疽菌パンデミックSF。因果応報辛い。でもこの短編集の中では、一番読みやすかった。


▪️一九二三年の物語 /趙海虹

▪️ 人生を盗んだ少女/昼温

脳に接続されて全てを持っていかれるホラーSF。同時通訳者のスキルの高さがすごい。


▪️宇宙の果ての本屋 /江波

本屋じゃなくて図書館でもいいのでは…と思いつつ、宇宙戦艦まで出てくる物々しさが好き。