夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

中国女性SFアンソロジー 走る赤/武甜静・橋本輝幸・大恵和実 編集

科学的裏付けがちゃんとあって、それでいて情緒のある印象的な短編集でした。作家さん達のプロフィールをみると、物理学、工学と高学歴の才女が多い。中国すごいなー

 

■「独り旅」夏笳

宇宙を漂う宇宙船に乗る、独りの老人の思い出話。廃墟の街に壊れた観覧車って、万国共通のイメージなのかな。コンピュータが将棋をたまに負けてあげたりするとこが優しい。


■「珞珈」靚霊

大学の研究室で起きた事故(ワームホールを開いちゃった)に巻き込まれた用務員のおっちゃんの人生走馬灯の話。


■「木魅」非淆

日本の幕末期、黒船来航ならぬ宇宙船来航で、木魅(コダマ)と呼ばれる宇宙人が徳川家に嫁ぐ話。銀魂?木魅のお世話係の侍女の名は素子。素子ー!(バトーCV大塚明夫)って聞こえた。


■「夢喰い貘少年の夏」程婧波

三重県を舞台にした妖怪ファンタジー。〇〇に連れていかれた〇〇〇が夢喰い貘になるとか、室町幕府御用絵師の家系とか、いいねぇ。いいねぇ。


■「走る赤」蘇莞雯

メタバースの世界でバグが起こり、紅包(赤いお年玉くじ)になってしまった少女が修正パッチから逃げる話。カウントダウンに追われて、あけましておめでとう!


■「メビウス時空」顧適

小川一水『フリーランチの時代』に収録されている『Live me Me』を並行して読んでいたので、話が似ていて驚いた。こちらも事故にあって義体に意識を移す話からのメビウス時空展開。


■「遙か彼方」noc

複数の掌編構成。フローリングを泳ぐ妻!


■「祖母の家の夏」郝景芳

さすが郝景芳!待っていたよ郝景芳!田舎で蛋白質の実験をするおばあちゃん最高です。人生で迷子になったら、田舎のおばあちゃん家に行こう。


■「完璧な破れ」昼温

テッド・チャンの『あなたの人生の物語』に続く言語相対論。言語学を学ぶ彼女と物理学の彼氏の話。このこんがらがって破れた世界を修復するためには…?量子コンピュータの素敵な使い方。すぐ実用化してほしい。


■「無定西行記」糖匪

ペテルブルクから北京までを道路を作るために旅する無定(赤子→老人)とペテロ(老人→赤子)の珍道中。無定…それ食べるん?


■「ヤマネコ学派」双翅目

17世紀にオオヤマネコの鋭い視力を科学者の目標にした「山猫学会」が設立。それをもとに人と猫が純粋に科学の真理を求める話。猫SFですよね!


■「語膜」王侃瑜

コモ語(架空言語)の語学講師の母と、インターナショナルスクールに通い英語で育った息子の話。息子頑張れー!でも母の気持ちも超わかる。


■「ポスト意識時代」蘇民

フィルターバブルよりもっと怖い「ミームにコントロールされている私」ホラーSFだった。最後に救ってくれるのが、マイペースで集団行動に馴染めないけどクリエィティブな夫というのが良い。娘ちゃんも助けてあげて。


■「世界に彩りを」慕明

誰しもがチップ入りの網膜調整レンズを付けている世界で、色の世界と母娘の話。まったく違う世代間の相互理解。これまた母親に感情移入してしまう。みんな娘のためを思って必死なんだよね。