夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

火星の遺跡/ジェイムズ・P・ホーガン

「ディックが死んでから30年だぞ!今更初訳される話がおもしろいワケないだろ!」(『バーナード嬢曰く。』の神林の名言)のホーガン版「ホーガンが死んでから10年だぞ!今更…以下同文」という感想が多いようですが。私は好きですよ、このオカルトとトム・クルーズと犬SF。

第1部は、紛争調停人ってなんじゃそりゃの主人公をトム・クルーズだと思い込むことで腹も立たず、サルダ2号とイレインの関係の急展開に??なりながらも、犬のギネスがめんこいので全て許す。

第2部は、第1部の悪党どもの逆襲が鬱陶しく感じつつ、ピラミッドとファラオの呪いを科学的に解釈あたりからよくわからなくなって読み飛ばし、犬のギネスがめんこいので全て許す。

ホーガンはこの本と、星を継ぐもの3部作しかまだ読んでいないけど、いまのところ主人公はだいたいトム・クルーズな感じ。

 

 

巨流アマゾンを遡れ/高野秀行

コロナ禍で旅行も制限されるなか、ガイドブック『地球の歩き方』が、世界のすごい巨像編、ムー編(あの、雑誌のムー)、ふしぎな聖地&パワースポット編、ジョジョの奇妙な冒険編と、それありなんか〜という変化球を投げてきています。大変面白くて立ち読み。

かつては高野さんが執筆した『アマゾンの船旅/地球の歩き方・紀行ガイド』があったそうで、売れずにすぐ廃版。そんな絶版本の復刻文庫版が本書です。今なら地球の歩き方シリーズで受け入れてもらえそうなのに、時代を先取りしすぎてたのね。

まさか王道の地球の歩き方シリーズだったとは思いもよらず、若かりし頃の高野さんの辺境旅が、ふつうの旅行記なわけがなく。アマゾン河をブラジルから源流まで遡る過酷でヘビーな旅でした。逆にペルーのリマからアマゾン河を下って途中で合流する予定だった後輩君と奇跡の再会(携帯のない時代に!)には、後輩君追い剥ぎにあって一文なしだったのに、よくぞ生きていてくれたと涙が出てきました。今なら危険!絶対に真似しないで!ってなるよなぁ。

 

語学の天才まで1億光年/高野秀行

近場の本屋に行っても見つからず(新刊は意地でもネットで買わない派)、ようやく県外の本屋でゲットしました。今月に5版までいったようですが、まだ県内の本屋で見たことないよー。新聞でも大きな広告を見かけるし、納豆より売れてますね!

辺境ノンフィクション作家・高野秀行氏の笑いと苦労の語学習得半生記。

それぞれの言語には、特有のノリがあるという指摘が、言語相対論に結びつきそうでなるほどと思いました。

語学を学ぶにはやっぱりネイティブに習うのが一番で、目的がないとやる気も出ないよね、うんうん、と頷くばかりです。習得したいというのは目的にはならんのですよ。

昔、中国を旅した時に、上海〜南京で覚えた日常会話が、北京で全く通じなかった時の絶望感を思い出しました。北方と南方方言があるんですね。

色んな国の言葉を話す高野さんはコチラ↓

かっこよか〜


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中国女性SFアンソロジー 走る赤/武甜静・橋本輝幸・大恵和実 編集

科学的裏付けがちゃんとあって、それでいて情緒のある印象的な短編集でした。作家さん達のプロフィールをみると、物理学、工学と高学歴の才女が多い。中国すごいなー

 

■「独り旅」夏笳

宇宙を漂う宇宙船に乗る、独りの老人の思い出話。廃墟の街に壊れた観覧車って、万国共通のイメージなのかな。コンピュータが将棋をたまに負けてあげたりするとこが優しい。


■「珞珈」靚霊

大学の研究室で起きた事故(ワームホールを開いちゃった)に巻き込まれた用務員のおっちゃんの人生走馬灯の話。


■「木魅」非淆

日本の幕末期、黒船来航ならぬ宇宙船来航で、木魅(コダマ)と呼ばれる宇宙人が徳川家に嫁ぐ話。銀魂?木魅のお世話係の侍女の名は素子。素子ー!(バトーCV大塚明夫)って聞こえた。


■「夢喰い貘少年の夏」程婧波

三重県を舞台にした妖怪ファンタジー。〇〇に連れていかれた〇〇〇が夢喰い貘になるとか、室町幕府御用絵師の家系とか、いいねぇ。いいねぇ。


■「走る赤」蘇莞雯

メタバースの世界でバグが起こり、紅包(赤いお年玉くじ)になってしまった少女が修正パッチから逃げる話。カウントダウンに追われて、あけましておめでとう!


■「メビウス時空」顧適

小川一水『フリーランチの時代』に収録されている『Live me Me』を並行して読んでいたので、話が似ていて驚いた。こちらも事故にあって義体に意識を移す話からのメビウス時空展開。


■「遙か彼方」noc

複数の掌編構成。フローリングを泳ぐ妻!


■「祖母の家の夏」郝景芳

さすが郝景芳!待っていたよ郝景芳!田舎で蛋白質の実験をするおばあちゃん最高です。人生で迷子になったら、田舎のおばあちゃん家に行こう。


■「完璧な破れ」昼温

テッド・チャンの『あなたの人生の物語』に続く言語相対論。言語学を学ぶ彼女と物理学の彼氏の話。このこんがらがって破れた世界を修復するためには…?量子コンピュータの素敵な使い方。すぐ実用化してほしい。


■「無定西行記」糖匪

ペテルブルクから北京までを道路を作るために旅する無定(赤子→老人)とペテロ(老人→赤子)の珍道中。無定…それ食べるん?


■「ヤマネコ学派」双翅目

17世紀にオオヤマネコの鋭い視力を科学者の目標にした「山猫学会」が設立。それをもとに人と猫が純粋に科学の真理を求める話。猫SFですよね!


■「語膜」王侃瑜

コモ語(架空言語)の語学講師の母と、インターナショナルスクールに通い英語で育った息子の話。息子頑張れー!でも母の気持ちも超わかる。


■「ポスト意識時代」蘇民

フィルターバブルよりもっと怖い「ミームにコントロールされている私」ホラーSFだった。最後に救ってくれるのが、マイペースで集団行動に馴染めないけどクリエィティブな夫というのが良い。娘ちゃんも助けてあげて。


■「世界に彩りを」慕明

誰しもがチップ入りの網膜調整レンズを付けている世界で、色の世界と母娘の話。まったく違う世代間の相互理解。これまた母親に感情移入してしまう。みんな娘のためを思って必死なんだよね。

フリーランチの時代/小川一水

人類が何かと融合し新しいフェーズに入る「幼年期の終わり」ものジャンルの短編集。

もう食べなくてもいい、不老不死、肉体がなくても意識と義体で生きる等。

考えてみれば、今回のコロナ禍によって変異株に素早く対応できるワクチン開発技術が進み、待ったなしの温暖化と原油価格高騰から、サスティナブルな自然エネルギー開発が進み、コオロギを試食しだしと、現実世界も徐々に新しいフェーズに入ってきてはいるんだよなあと想い馳せながら読みました。2008年に発刊の短編集なんだけど、女性登場人物の考え方も今では古臭く感じるくらいで、ほんとに世界は目まぐるしく変わってゆく。

 

■フリーランチの時代

火星でエイリアンと融合し、地球に帰還してからの人類への感染の速さに笑う。銀河市民になるのは幸せそう。

 

■Live me Me

不遇な事故で植物人間状態になった女性が、意識だけになり義体で生きる話。技術的な裏付けの描写が細かくて面白い。並行して読み進めている中国SF本にも同じ展開の話があって、そちらは意識だけになってから先が悪夢のようなことになっていた。

 

■Slowlife in Starship

太陽系を走る孤独な宇宙船、独り身のなんでも屋の話。きっとアニメ声なんだろうなーと想像するAIミヨを相棒に、ニートな主人公が宇宙開発のレガシーに関わり、少し改心するええ話。

 

■千歳の坂も

いつの間にか不老不死になってしまった人類の戸惑いを描く話。最後は安楽死を選んだゴダールに想いを馳せました。

 

■アルワラの潮の音

なんかこれって積読棚に置いてある小川さんの『時砂の王』のスピンオフじゃね?って思ったら当たってた。読んでいる時の脳内イメージは『モアナと伝説の海』×『アバター』でした。