夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

厨師、怪しい鍋と旅をする/勝山海百合

厨師、怪しい鍋と旅をする

すぐれた料理人(厨師)一族の村、斉家村の斉錬は、山できのこ取りの最中に謎の男から謎の鍋を借り受ける。その鍋は煮炊きをしないでいると、動物や人間を襲う妖怪鍋だった。鍋を持ち主に返してくるまでは勘当だと村を追い出され、斉錬は流浪の厨師となる。というお話。

たいした調味料を入れなくても、長年の味が染みついた鍋からでる出汁で、美味い料理ができるって、最初に猫食べてたよねこの鍋…。うーむ怖いわ。

戦場の飯炊き、名家の隠居、そして物の怪のすみかと旅は続き、さらに斉家村からお守りにと渡された包丁が、あやかしに会うと剣に変身したりして、猛烈に楽しい中華ファンタジー

後半に出てくる鳥が好きな女の子、琳泳。清の時代だけに、女性の纏足の描写が痛々しいんですが、この娘は小気味よくってマイノリティで親近感がわきました。

ショートショートのオムニバスで続く連作。すべてが最後の物語に繋がっていく構成もお見事。ぜひコミカライズかアニメ化をして欲しい、透きとおる水墨画調で。なんなら本場中国でアニメ化して欲しいくらい。

 

なんとなく話が南條竹則っぽいと思って読んでいたけど、解説が南條竹則氏でした。

増補サバイバル!人はズルなしで生きられるのか/服部文祥

増補 サバイバル!: 人はズルなしで生きられるのか (ちくま文庫)

携帯電話やラジオ、登山用コンロにテントなど文明が作ってきた装備をできる限り持たずに、岩魚釣りや山菜採りをしながら山を縦断する。そんな「サバイバル登山」の第一人者である著者の単独登山のレポート。

若いころにこの本に出会っていれば、影響を受けて真似していたかもという人も多いのではないでしょうか。やんちゃ・アバウト・なあなあにルールを変えていくのもゆるくていい。登山っていっても色んな形があるんだなぁと感心して驚きました。著者は色んな本を読み、かつ自然の中での体験で自分の言葉を見つけていて、この本には登山哲学も満載。登山での不幸な事故は絶えないけれど、それなりの意気込みも覚悟も持って臨んでいるのだろうし、それが選択できるくらいの自由は人間にあってもよいと思う。

 

登山客…山岳ガイドの客、山小屋の客、場所は山だけどやっていることは観光客

登山者…自立した自由なる精神を、そのリスクも含めて知っている人のこと。

登山家…登山者のなかでも登山関係で生活の糧を得ていたり、登山の頻度と内容からして、人生のほとんどを登山に賭けてしまっているような人のこと。

 

時間線をのぼろう/ロバート・シルヴァーバーグ

時間線をのぼろう【新訳版】 (創元SF文庫)

ベンチリイ装置の開発により、過去への時間旅行が可能となった未来。時間局の新米時間観光ガイドのジャドは、今日も観光客と共に過去のビザンティウムへ旅に出る。ある日過去の旅で出会って恋した絶世の美女はジャドの大大大大大……おばあさんだった!というお話。

タイム・パトロールが出てくるのですが、「劇場版ドラえもん」で育った世代にはおなじみの組織。この『時間線をのぼろう』は1969年出版なので、藤子不二雄氏は影響を受けたのかしら。

時間旅行でアクシデントが起き、修正しようと躍起になるとタイムパラドックスがどんどん出現、収拾がつかなくなっていく最後の加速は読み応えありました。
全ては発情期の動物みたいな若き主人公の奔放さ、ドラッグによる情緒不安定などなどが原因では?と、あまりにも倫理観の欠如にびっくりですが、まあ性の解放・ドラッグ解放というヒッピー全盛期の影響もあるのかも。この大大大大大……おばあさんであるご先祖様もエロ過ぎる。

西洋と東洋の中間地にあり、ペルシア、マケドニア匈奴、ローマ、オスマンとあらゆる国家民族が支配を繰り返し、コンスタンティノープルやイスタンプールと名を変えてきた不滅の都市が舞台であって、歴史ロマン満載。西洋史のよき復習になりました。(かなり混乱した…)

 

 

ヨシダ、裸でアフリカをゆく/ヨシダ ナギ

ヨシダ,裸でアフリカをゆく

書店や古書店で「クレイジージャーニー」の出演者本を見かけては、ついつい買ってしまい、気が付けば結構な積ん読量。今月は積ん読消化強化月間として、しばしこの流れ続きます。

大人気の少数部族を撮る写真家ヨシダナギさんのブログ本。ブログだけあって、とってもゆるい感じで読みやすいです。英語もできないのに若さだけを頼りにアフリカに飛び込んでいった、危なっかしいエチオピアの旅に始まり、訪問を重ねることでアフリカに慣れ親しみ、写真家としての作家性を築きあげていった様子がよくわかりました。

さらにホテルの部屋いっぱいに”G"の大群とか、トイレいっぱいにウ○コとか、数々のエピソードを読んでいると、よく感染症にならなかったなぁと。

でも伝えたいのはアフリカ=危ないではなくて、アフリカの魅力。彼女の写真からは、常に被写体への強いリスペクトが感じられて、それが一番の魅力だと思います。

少数民族の人口も年々減ってきてしまっている。きっとこのままいけば何十年後、もしくは数年後には、私が憧れたヒーローたちは絶滅してしまうかもしれない。だから、彼らからフォトグラファーという職をもらった私がいまできることは、彼らが消えていなくなってしまう前にひとつの記録として写真におさめ、外の世界に紹介しながら、彼ら自身がその姿を何かしらのカタチで保っていきたいと思えるよう伝え続けていくことなんじゃないかと思っている。

 

ついでにヨシダナギさんが撮った東北の山形県PR動画も貼っとく。こういうものづくりの現場も少数部族と同じく、何かしらアクションを起こし続けて大事に残していってもらいたい。


ヨシダナギ初監督作品『colors Yamagata Crafts』┃山形県ものづくりPR動画

世界のシワに夢を見ろ!/高野秀行

世界のシワに夢を見ろ! (小学館文庫)

ヤングチャンピオンに連載されたコラムのまとめの単行本化のちの文庫版。青年漫画雑誌だからか、高野さんかなりテンション高めな内容。

何か読むもの貸して〜と寄ってきた娘に渡したら、最初はゲラゲラ笑って読んでいたけど、下ネタエロネタが出てくるとすっと本を閉じて黙って返却してきました。まだ刺激強かった?ゴメン。

高野さんは「人一倍トラブルやアクシデントに出会う”体質”」とのことですが、世界の“シワ”たる辺境にこんだけ足を運んでいたら、命がけの旅にたくましくもなるよなぁと思う。

そうそう、まえがきに書かれてあった

アメリカ化が進むと、世界はのっぺりする。
イメージで言えば、先進国と大都市を中心に、みんながせっせと大地にアイロンがけをしているようなものだ。どこも同じように清潔で快適でおしゃれで便利になる。では、アイロンがまだ行き届いていないところはどうかと言うと、これはシワくちゃだ。昔からシワだらけだったのが、さらに中央部からの、まさに「シワ寄せ」を食らっているからたまったもんじゃない。

という、辺境や僻地を”シワ”と例えるところがお見事。

ちょっと前に南国に住む叔母が、飛行機と新幹線を乗り継いでこの遠き雪国にやってきたときに、「こんなに遠くに来たのに、イオンもユニクロもツルハもイエローハット眼鏡市場もあって、うちの近所と同じやん」と言われたことが、なんというか申し訳ない気持ちになってしまったことを思い出しました。うん、快適便利なんだけどつまんないよね。南国の実家も、この雪国もアイロンがけされてしまったんだよ。

本の話から脱線してしまいましたが、そんな世界中の”シワ”で出会った衝撃的な出来事満載のコラム集の中で、一番印象に残っていて恐怖を感じたのは「中国奥地のバス旅行話」で、本を読みながらも、もらいゲロしそうになった経験は初めてです。恐るべし世紀末バス。