夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

黒豚姫の神隠し/カミツキレイニー

黒豚姫の神隠し (ハヤカワ文庫JA)

 

沖縄+ジャケ買い

沖縄の離島に住む映画好きの中学生ヨナは、東京からの転校生・波多野清子が歌う姿に一目惚れして、ぜひ映画を撮りたいと思い立つが、偶然、波多野の後ろに怪しい黒い影を見てしまう。「私は黒い豚に呪われている」ー美少女の深まる謎とは…という話。

私は同じく沖縄出身作家の池上永一が大好きなので、オバァ・豚・妹・ニライカナイの神々とくれば、池上さんの『風車祭』(最後の水攻めまでなんか似ている…)がデジャウのように脳内にちらついてしまったのですが、まあこれはこれで楽しめました。『風車祭』のエロいどきつさを薄めて、『千と千尋の神隠し』を追加した感じ。

ヨナが映画を撮りたいきっかけとなったのが、「オズと魔法使い」を観たからというのが、YouTubeばかり見てる今どきの中学生にありえなさそうだったけど、ドロシー役のジュディ・ガーランドのヤク中を絡めてきたので可笑しかった。巧妙な仕掛けも満載で、後半まで読んで初めてタイトルの意味がわかるというどんでん返しも良かったです。

神を偉いと位置づけるのは、人間ぬ勝手やさ。あれらは何でも願いを聞いてくれる都合のいい存在じゃない。人間ぬ上でも下でもない、そばにいるもの。人間に近く、やしが人間ではない。それが沖縄の神々やさ

ユタである駄菓子屋のオバァのセリフ。こういう絶体的一神教にはない感覚がいいなぁ。

そういえばショッピングモールのスタバでこの本を読んでいて、お店を出たらモール全体がバレンタインフェア中で、臨時チョコ売り場に発泡スチロールの大きな鳥居と、願い事を書く絵馬(赤いハート型の台紙)と奉納場所まで設置してあって、ヤマトンチュはとうとうバレンタインチョコの神様を作りやがったと目眩がしました。

 

 

この世界の片隅に

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原作者のこうの史代さんが大好きで、ほぼ全作持っています。この原作の上巻が出た2007年は「夕凪の街 桜の国」が実写映画になって、「夕凪の街 桜の国」も良かったけれど、さらに上をゆくどえらい漫画が出たと衝撃を受けた覚えがあります。でものちにアニメ映画化〜ここまでの大ヒットの未来があるなんて予想できなかったなぁ。(テレビドラマ版がトラウマとなっていて、正直期待していませんでした…)アニメだからこそ表現できた本当に素晴らしい映像化です。正月明けに娘と観に行ってきました。

あらすじは省略して感想だけを。

映画は遊女リンさんとリンドウのお茶碗、さらに口紅の元の持ち主との関わりを省略していたのが残念だったのですが、「とんとん とんからりと 隣組」の歌がコトリンゴで聞けて満足。私は「ドリフの大爆笑の歌」でこの曲の旋律を覚えたけれど、戦争を体験した祖父母はどんな気持ちで、孫と一緒にドリフを見ていたのだろうと気になりました。戦時の隣組の集まりや配給など思い出したりしていたのだろうか。もう他界していないのですが、もっと戦中の話を聞いておけば良かった。

あと原作にはないセリフで、畑で晴美ちゃんと敵襲に遭遇し、機銃掃射が始まる直前にすずさんのナレーションで「不謹慎かもしれんけど、私はこの時美しいと思った。ここに絵筆があれば良かったのに」(セリフうろ覚えだけど、そんな内容)と言ったのが、とても印象的でした。それは映画を観ていた私も、そのシーンが綺麗だと見とれたので。この焼き尽くす炎は、されど美しいという矛盾した感じ。

本当にこの映画の空襲と機銃掃射の着弾シーンはリアルで怖いですね。小学生の娘も原作を読んでましたが、映画は空襲がすごかった怖かったと言っていて、かなりインパクトがあったようです。

日常が戦争により少しずつ壊れていく、さっきまで笑っていた人がいなくなる、昼夜問わずの空襲にだんだん無気力になる、映画を見終えた後は、祖父母は大変な時代を生き抜いたんだなと思わずにはいられませんでした。

タイタンのゲーム・プレーヤー/フィリップ・K・ディック

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ヴァグと呼ばれるタイタン星生物との戦いに敗れ、ヴァグに支配された地球人類。戦争により人口が激減し、さらに化学兵器の影響で極端に出生率が低下。一部の特権階級の人のみヴァグが持ち込んだ<ゲーム>で自分たちの土地を賭けたプレイに興じている…というSF。

<ゲーム>とはモノポリー+ポーカーみたいな双六。「オレのカリフォルニア州バークレーが奪われた!」と初っぱなでゲームの敗者となった主人公が、ゲームのリベンジ戦に持ち込んだら、突如ゲーム相手が誰かに殺されていた、そしてゲーム仲間の記憶がないとか急にミステリー仕立てに。とにかくコロコロ話が変わっていくので、まるで終着点が予想できません。というのも、当時浪費家の妻と幼い娘がいて、家計が火の車状態だったディックが、生活のために二束三文で書き殴った小説だからだそうで。そらしょうがないわな。

でも練りにねった大作や秀作もいいけれど、この「こっから先どーすんだ」小説も、ディックの場合はなんだかんだ云って力業で、最終的にはつじつまを合わせてくるので面白かったりする。あと惜しみなくつっこんでくるガジェットも楽しい。

今回は、ラシュモア効果という、人工知能で操作してくれておしゃべりする車とエレベーターが好きでした。

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翼を持つ少女 BISビブリオバトル部/山本弘

翼を持つ少女 BISビブリオバトル部

 

第3作目にあたる「世界が終わる前に」を読み終えた後に、娘が興味を持って1作目の「翼を持つ少女」を図書館で借りてきてくれました。「この『同人誌』って何?」「『BL』って何のこと?」など、おおぅと思わずかまえてしまう質問を私に投げかけながら凄い勢いで読む娘。なんでも登場人物が本や作者について熱く語るシーンはわけわかんなくて全部すっ飛ばしたそうです。まだ小学生だしね。でもこんな厚い熱い本を読めるようになったんだなぁと母はしみじみ。「お母さんが前に読んでた『ここはウィネトカならきみはジュディ』と『惑星カレスの魔女』が出てきたよー!どんな話なの?」と聞いてくれました。そこの本棚にあるから自分で読みたまへ。

さて本作はSF大好き空ちゃんがビブリアバトル部に入部して、初めての参戦、そしてリベンジ戦という流れのお話。空ちゃんのいじめを受けた過去のエピソードから、ネットウヨまでてんこ盛りの内容。山本氏の知識量すごっ、さすがト学会さんという感じでした。それぞれの登場人物が山本氏の分身に見える。「ビブリアバトルは楽しくなくちゃ」という結末に持っていけたのは良かったと思います。

武人君のお祖父様遺品のSF本オンリー書庫って、ホント羨ましい。自分も平均寿命に達するまでには書庫一つ分SF本を揃えてそうで怖いんですが、「本は人類発明史上最高のものであり、最悪の家具(by荒俣宏)」とはよく言ったもの。でも電子書籍は好きになれないんだよね。困ったな−。

 

 

 

世界が終わる前に BISビブリオバトル部/山本弘

世界が終わる前に BISビブリオバトル部

 

このたび市立図書館がはじめて「ビブリオバトル」を開催するようで、図書館入り口の目立つ本棚に参加者募集のチラシとビブリオバトル関連本を設置しているのですが、なぜ「BISビブリオバトル部」シリーズがそこにないんじゃぁぁ〜と不思議。
司書さんに聞いたら、参加者が集まらなくて〜と困っていました。私も読書会は参加経験があるけれど、ビブリオバトルはまだないので、今回は見学してみようかなと思っていたところ。この「BISビブリオバトル部」もずっと気になっていたけれど、さらに読みたい本が増えてしまうはずと中々手を出さないでいたのですが、この機会に読んでみようと借りました。なのにうっかり間違えて第3巻から借りちゃった…。
「翼を持つ少女」が第1巻でしたね、あらら(・_・;)

この「世界が終わる前に」は「空の夏休み」という番外篇から始まります。オタクの夏といえば夏コミの話。私も1度だけ南国から上京してきた友達の荷物持ちの手伝いとしてついて行ったことがありました。まさに異空間、あの時の衝撃を思い出しながら読んで、今はこんな状態になっているのかと驚き。もうあそこに突入できる体力と自信がない。

さて本篇「世界が終わる前に」には2回のビブリアバトルが登場し、発表の流れと雰囲気もなんとなく理解できました。自分の推しの本を5分以内でいかに上手に魅力を伝えられるか、これはプレゼンの勉強にもなるね。参考資料とか出せないのが難しそう。

表紙絵が激しいバトルっぽいんですが、内容はミステリー仕立てで 謎が多く伏線を至る処で張り巡らせながら進みます。主人公の空ちゃんは、「妖怪ウォッチ」のいなほちゃんに似ている。自分が高校生の頃はこんなにSF読めていたかなぁ。本屋で文庫を買いそろえるにはお小遣いが足りなかったし、図書館にはこんなに古今東西のSFが揃っていなかった。SFの裾野を広げるには、テレビ地上波の映画放送をもっと増やすのと、図書館の蔵書にかかっているような。でも今現在の世界がテクノロジーではユートピアになりつつも、政治的にはデストピアに向かっているようでSFみたいな状況ですけどね。

 巻末に登場人物達が読んだ本のリストが…また読みたい本が増えてしまった。