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掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

第10回Twitter文学賞海外部門で1位獲得から気になっていたので手にとってみました、アメリカ人作家ルシア・ベルリンの短編集。表紙写真は著者近影(元夫さんが撮影)、どえらい美人さんです。小説の形はとっていてもほぼ自叙伝なので、場末のバーでタバコとバーボンを飲みながら人生について語るパイセンの話を聞いているかのよう。

それにしても波瀾万丈な人生です。鉱山の町で育った幼少期、南米でお嬢様暮らしの少女時代、三度の離婚後シングルマザーとして4人の男の子を育てたあげた中年期、アルコール依存症の日々、そして末期がんの妹と過ごしたメキシコなどを描いた24篇。クール!とにかくクールな突き放した視線と自己分析が痺れる。

ルシアの母もかなりの毒親なんですが、アル中で部屋に籠もってずっと推理小説を読み更けていて、その推理小説で研かれた洞察力を受け継いだのか。

 

『ドクターH.A.モイニハン』
腕のいい歯医者の祖父との幼い頃の思い出。自身の全ての歯を抜いて血だらけの祖父、止血のためにその口にティーバッグをつっこんで人間ティーポッド!お茶目。

 

『掃除婦のための手引き書』
カリフォルニア州バークレーで掃除婦のルシア。<ターはバークレーのゴミ捨て場に似ていた>ターという夫(彼氏かも)さんの比喩がすごいな。

 

『わたしの騎手』
緊急救命室の看護士のルシア。<ミシマの小説は脱ぐだけで3ページもかかる>って出てくるんですがどの小説だろう…、『潮騒』かな。

 

『喪の仕事』
掃除婦のルシア、亡くなった人の家を片付ける。<死には癒やしの力がある。死は人に許すことを教え、独りぼっちで死ぬのはいやだと気づかせる>という箇所が好き。

 

『どうにもならない』
アル中のルシア。あんなに憎んでいた毒親そっくりのアル中になってしまっているところが悲しい。