夜空と陸とのすきま

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シビュラの目 ディック作品集/フィリップ・K・ディック

シビュラの目―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)

ディック60年代の黄金期の中・短編集。なにかと長編の作品と設定がかぶっているので、絵画で言えば大作のための素描・エスキースのような感じを受けました。

・宇宙の死者

人は死ぬと急速冷凍され半生者として霊安所に保管、半生期寿命の1年分を小出しに1〜2時間だけ蘇生して、死んでも家族と会話ができたりするという未来。この設定は『ユービック』にも出てきたね。突然死ぬのがいいのか、少しずつ死ぬのがいいのかなど哲学的なことは置いておいてサスペンスが始まる。

 

・聖なる争い

アメリカのすべてを委ねる戦略コンピュータと修理屋のお話。コンピュータが原始的すぎて和む。磁気テープ:-)

 

カンタータ百四十番

どこかで読んだと思ったら、まんま『空間亀裂』でした。あの、医者が時空の亀裂に愛人を隠すやつ。1960年代に臓器売買を描いていてすごい、ぞっとします。

 

・シビュラの目

晩年の『ヴァリス』四部作の前に書かれ、ディックの死後に発表された短編。ディックが神学にはまっていった、わけわからん四部作と名高い『ヴァリス』までまだたどりついていないのだけど、この『シビュラの目』を読むと、雑誌「ムー」の世界観のような、あーディックはこれからそうなっていくんだと予習ができました。神の神秘、生まれ変わり、予言とか霊感とか。(こう書くと某新興宗教のアニメ映画のテーマみたい)こうゆうのは嫌いじゃなくてむしろ心地よかったりするんですが、自分の価値観、宗教をこれに委ねると、以後は自分で物事の判断をつけられなくなり、ラクにラクに生きてしまいそうで怖い。『シビュラの目』の不思議なムードに後ろ髪をひかれながらも、現実は泥臭いところで踏ん張っていきたいなぁ。

夢というものは、何千年もの昔にさかのぼる人類の集合的無意識の一部ではないかという新しい理論もあるのよ…つまり、夢のなかであなたはそれと接触するわけね。だから、もしその説が正しいとすると、夢は根拠があるし、とても貴重な価値のあるものなの