夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

ガーンズバック変換/陸 秋槎

ヨーロッパの古典文学から吟遊詩人、神話に異常論文、ゲームに香川の女子高生百合とAI、なんと知識人で引き出しの多い作家さんなのでしょう。SFしている3作がエンタメ寄りで、それ以外は膨大な知識量を浴びせられて窒息しそうな(意識が飛んで、行読みが滑る滑る)短篇でしたが、面白かったです。

▪️開かれた世界から有限宇宙へ

ゲーム機でなくスマホのプラットフォームでゲーム世界に光と陰影のリアリティを求めたいが、メモリ消費を抑えるために光源である太陽と月を動かさない世界観を考える話。めちゃくちゃ面白かった。

▪️ガーンズバック変換

ガーンズバックとはフルメタル・パニックではなく、SF作家のHugo Gernsback氏から。発明品のテレビ眼鏡アイソレーターを見るとイメージが湧きますでしょうか。

色々と物議を醸した「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」とアニメ『電脳コイル』の素敵な融合。

 

▪️色のない緑

言語学者ノーム・チョムスキーの有名な例文「色のない緑の考えが猛烈に眠る」は、文法は成立していても語義が成立しにくい文章。そこから発展するミステリーSF。

 

 

世界SF作家会/早川書房編集部・編

 

コロナ禍で、まだワクチンがなくてステイホームを強制され不安だらけだった2020年に、SF作家を集めてオンライン会議で未来を語らせたフジテレビの企画番組『世界SF作家会議』の書籍版。

あれから4年、ウィズコロナから5類に移行され規制解除された今、読み返してみると感慨深いものがあります。まさかウクライナとガザで戦争が始まるなんて。情報が遮断されると戦争のトリガーになると語っていられたことが現実になってしまいました。悲しい。

第2回、第3回と番組を重ねていくと、コロナの不安は多少収まり楽観的になっていってた様子もみてとれました。そろそろ第4回を開いて欲しい。

多様性のハーモニーが広がっていくのか、それとも監視社会が進み皆同じのユニゾンが過剰になっていくのか、また数年後に読み返してみたいです。

 

ラブスター博士の最後の発見/アンドリ・S・マグナソン

表紙絵が可愛くてジャケ買いしました。ラブスター社のラブスター博士の発明は、インラブにラブデスにラブゴッドと、ラブラブしい。なんでもiをつけるApple社か、なんでもGoogleと名付けるGoogle社みたいな感じ。政府機関でなく広告代理店である一企業が、人々を完全に支配してしまうディストピアを、ラブラブな彼氏彼女が駆け抜ける話。

前半は状況説明と主役の彼氏彼女のいちゃつきぶりが長くてダルめ。しかし世界幸福度ランキング第3位のアイスランドのSF作家が贈るブラックジョークは、終盤になるほど過激になり、神を作り〈一億の星祭り〉を実行し大暴走。

AKIRAエヴァの影響も感じるし、トヨタも出てくるので日本贔屓なのかしら。ヤマグチの最後のセリフは泣ける。

最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選/ジェフリー・フォード

早川が出しているムック『SFが読みたい!2024版』の海外部門第2位に入っていて、評価の高さが気になって手に取りました。最初の「アイスクリーム帝国」と、表題作が特に素晴らしくて、後半のSF短篇も読ませてくれます。お値段高いけど(3,850円税込…鼻血)多彩なジャンルを色々と読めるので満足感がありおすすめです。夜に寝る前に一短篇を読んで、もやもや考えて、朝起きたら自分なりの解釈できたような気がする日々を過ごしてました。

 

◼︎アイスクリーム帝国

共感覚という設定も面白かったし、物語のレイヤーが別れていて最後に世界が交差するとことかびっくりしました。


◼︎マルシュージアンのゾンビ

ホラーなんだけど、主人公と同じくこんがらがった糸を解きほぐそうとしても、オチがまだよくわかっていない。


◼︎トレンティーノさんの息子

著者のフォードが大学を中退して、貝取の漁師をしていた頃の体験を元にした話。大海原の小舟の上で亡霊に会う。海の怪談怖い。棺は死者のための舟というくだりが良い。


◼︎タイムマニア

ハーブのタイムを噛み含んでいる間以外は亡霊が見えてしまう少年の話。これも最後にゾッとするオチで、愛があるなら彼にとっては幸せなオチなのかもと思う。


◼︎最後の三角形

麻薬中毒でボロボロの主人公を助けた老婦人が、元夫の作った魔法陣のゴタゴタに主人公を巻き込む話。老婦人とのバディ&謎解き。アクティブな老婦人に私もなりたい。

 

結晶世界/J・G・バラード

バラードの破滅三部作『沈んだ世界』『燃える世界(旱魃世界)』『結晶世界』のうちで、自分が持っているのは一番最後の『結晶世界』です。三部作最後は世界どころか宇宙銀河の破滅…。

癩病(ハンセン病)の専門医サンダーズ医師が、アフリカのとある国のマタール港から河を遡っていき、結晶化された美しい森に迷い込む話。

サンダーズ医師と船旅で出会った建築家ベントレス。二人はそれぞれの色恋三角関係に振り回されて森の中を彷徨い、やがて結晶化という永遠の時間に自ら閉じ込められてゆく。これはなんとメタファーが多くて耽美な退廃的物語なんだろうか。

特に結晶化したワニと黒人、宝石が散りばめられた十字架がシンボリックで印象に残りました。