夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

アルファ系衛星の氏族たち/フィリップ・K・ディック

アルファ系衛星の氏族たち (創元SF文庫)

大寒波襲撃により日々除雪、除雪の年末です。ママさんダンプを使いすぎて手のひらにマメがっ!そんな中で今年最後になるであろう読書に選んだのが、ディック自身も失敗作と公言していた「アルファ系衛星の氏族たち」。

いやー毎晩寝落ちしまくり遅々として読み進まず。とにかくキャラを出しまくって(相関図書くの大変でした)、どんな風に展開していくか悩み書き進めていたけど宇宙を巻き込んだ夫婦喧嘩で終わっちゃった感があります(前にもあったなこのパターン)。

奥さんは貧乳で、若い彼女は爆乳って、結局はおっぱいかっっ!絞め殺すぞこの野郎と、誰に向かって言えばいいのやら。

とはいえ、最後の方は四つ巴のバトルありの急展開で目が覚めました。ダメ男な主人公をなぜか助けてくれるガニメデ星の粘菌君(超良い奴)、ウサギの着ぐるみを着る喜劇役者のヘントマン、と変な人もたくさん出てきます。

そもそもアルファ系帝国の衛星に、地球人の精神疾患者達を送り込んで放置、その後彼らは独自の文化を形成していたという始まりから面白いアイデアだと思いましたが、キャラクター全員の言っていることとやっていることがちぐはぐで、読者は混乱するのです。きっとディックも混乱していたんだと思うの。

さて買いためたディック本はまだまだあり、ようやく半分くらい読んだのか…?来年も張り切って読んでいこうと思います。2017年もあと30分ですが、皆様良いお年を。

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怪魚ウモッカ格闘記インドへの道/高野秀行

怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道 (集英社文庫)

海の向こうに浮かぶタージマハルが蜃気楼のように見える意味深な表紙、インドへの道という副題。 高野さん、インドに謎の怪魚を探しに行きたい!行かせて!というノンフィクション。なんだよ、結局インドには行けないのかよとガッカリですが、入国審査に引っかかり空港に足止め〜強制送還からの帰宅後の自虐ネタもまた面白くて、読んで損した気分にはならないのです。

ウモッカという情報をネットで入手してから、いざ出国までのプロセス(識者の意見や情報集め、現地の言葉の習得、捕獲してからの手配など)も経験値高い高野氏のノウハウが詰まっていて、なかなか濃厚でした。

ハンドルネーム「モッカ」さんが見たウオ(魚)だからウモッカという超安直なネーミング。ぜひ再トライして世紀の発見、命名権をゲットしていただきたい。

スター・ウォーズ 最後のジェダイ/Star Wars: The Last Jedi

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吹き替え版2Dを娘と一緒に劇場で。新3部作第2弾、フォースに目覚めたレイは、最後のジュダイマスターであるルークを探し当て、レジスタンスに力を貸して欲しいと頼むが…という話。

 

映画館に観に行くまで、極力ネットのレビューを見ずに我慢していましたが、これが賛否両論というのもうなずける。まず2時間半は長すぎるだろう、他の子連れ客も途中で退散してたし、うちの子も頭痛いとグッタリでした。脚本を整理すれば2時間以内に収まる内容だった気もする。ルークのいる小島がのんびりで、でも宇宙空間の方は時間がない〜って急いでいて時間軸も変。

だけどスターウォーズの宇宙空間には、過去作からずっと重力と酸素があるんだし、あるんですよ、だから爆弾のスイッチが落下(無重力は?)とか、レイアの宇宙遊泳とか今更細かいことはいいや、スターウォーズは祭りだと割り切って楽しむことにしました。

自分がツボに入った箇所

*レイの合わせ鏡のシーン、神秘的で良かった。

*レンが何故か上半身裸でウケた。横滑りも笑う。

*エリート・プレトリアン・ガード戦が武器色々で見応えあった。

*そして、富を貪る武器商人達の存在、善も悪も根本は同じとな、むむぅ。

というわけで、アナキンの3部作よりは面白かったのです。しかし主人公をはじめ全員が未熟なので、次回作には成長した姿を期待したいのですが、この話で敵も味方も相殺され人員残り少なくぼろぼろ、ラスボスはいなくなるし、次に続く伏線もないし(あの子ども達ぐらいかな)、キャリーは他界するし、次回作は大丈夫なのか。

 

 

ゼロの未来/The Zero Theorem

ゼロの未来(字幕版)

IT企業に勤める天才プログラマー コーエンは、数式「ゼロ」の解明に挑むが…人生の意味と愛とはなんぞやにせまるお話。

テリー・ギリアムワールドは情報量が多くて隠れアイコンだらけで、見ているだけでクラクラします(大好き!)。コーエンが住む古風な廃墟の教会と、広告が始終追いかけてくる街の風景やパチンコ屋みたいなIT企業のオフィスの対比。あのビビッドな色使いに、画面のざらつき感がちゃちでわざとらしくていいなぁ、本当にいいなぁ。

コーエンは自宅の教会に引きこもり、「生きる意味を教えてくれる電話」を待ちながらコンピュータで「ゼロ」の解明に挑むが八方ふさがり。そんな折りに孤独に生きてきたコーエンにも、めっちゃ挑発してくるコールガールとの恋、天才プログラマー青年と友情も芽生えはじめるがー、最後は「未来世紀ブラジル」と真逆だったのでちょっと驚きました。いやブラジルも大分前に見たのでうろ覚えなんだけど、愛する彼女と二人でうふふアハハなラストだったはず。どんな人間も死ぬときは一人ということなのか、だとすると映画序盤のコーエンがすっぽんぽんな裸だったのも意味深。

 

公園シーンでピクトグラムにすべて×、禁止を付けるこのシーンが印象的でした。何するのも×をつける管理社会だったら、生きる意味なんてわからないよね。

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解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯/ウェンディ・ムーア

解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)

コミックス「決してマネをしないでください」(蛇蔵/講談社)に登場したジョン・ハンターが強烈すぎて、もっと読みたくなり書店で購入。

18世紀イギリス・ロンドンの外科医であり、奇人鬼才博物学者ジョン・ハンターの生涯を描く。天才的な解剖の腕を持ち、稼いだお金はすべて標本作りにつぎ込み、古今東西の珍しい動物を集め飼育し(ドリトル先生のモデルになる)、夜な夜な墓地で死体泥棒を繰り返しては解剖し(ジキル博士とハイド氏のモデルになる)、医師会からは鼻つまみ者にされながらも多数の弟子を育て上げ、ダーウィンより70年も前に進化論にたどりつき、のちに「近代外科医学の父」と呼ばれるようになる。とにかくエピソードにことかかない人物で、どの逸話も面白く一気に読めました。

馬○と天才は紙一重というか、影響力が強すぎるので巻き込まれる弟子、家族も大変だなとも思ったり。ジョンの死後にうってかわって、未発表の論文を盗作し、燃やすという復讐にはしる義弟も、良心の呵責に耐えきれずアル中死と壮絶。

観察して推論して必ず実験して確かめる

若いころから書物にたいして不信感をもっていたおかげで、ハンターは生涯、古典的な考えや根拠なく信じられていることをまず疑ってかかることができた。彼はいつも、他人の書いたものよりも自分の目で見たものを信じた。ラナークシャーの野山を駆けまわっていた子どものころから、自分の感じた疑問を忍耐強い観察と実験で解き明かそうとつとめた。

ハンターの真の敵は迷信と偏見。「現代のジョン・ハンターたちを、ぼくたちの社会は正しく評価し、応援できるだろうか」と問う、山形浩生氏の解説が胸に響きました。そうありたいものです。