夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

決してマネをしないでください。/蛇蔵

決してマネしないでください。(1) (モーニングコミックス)

楽しく知的な大人の学習マンガという帯のうたい文句通り、工科医大の実験サークルで科学者のたまご君達が行う、危ない楽しい実験の日々を描いたコミックス全3巻。物理オタク学生の掛田君と、科学がまったくわからない学食のおばさん(おばさんって30歳前なのに…)こと飯島さんとの淡い恋の行方も同時進行で、微笑ましく読めました。

タイトル「決してマネをしないでください。」通りに、真似したら死ぬよ、爆発するよ、君が燃えるよと危ない実験がいっぱいです。蛇蔵さんの軽やかなタッチの絵柄で自主規制の壁を軽々と乗り越えていくところが好き。知識として覚えておきたいことばかりです。

飯島さんの「物理を面白く説明してくれる誰かがいたら好きになれるのに」という台詞、まんま思いましたわ。今、この本を読んで楽しんでいる娘が羨ましい!合間に入ってくる偉大な科学者の話が面白くて、ポプラ社の伝記文庫でキュリー夫人エジソンを読み育った世代としては、衝撃的な話ばかりで。NHKEテレのアニメ「マリー&ガリー」に続いて、「決しマネ」で上手く知識を補充できた気がします。

お陰様で娘はテレビでクリスマス商戦のCMを見る度に、「12月25日にキリストは生まれてないもん!ニュートンの誕生日だからニュートン祭だよ!」と言い放つようになりましたよ、ええ。

 

霧に橋を架ける/キジ・ジョンスン

霧に橋を架ける (創元SF文庫)

図書館で単行本の方を借りて読む。分厚い本をじっくり読みたいところだけど、まだまだ仕事が落ち着かないので、色々と賞を受賞している短篇集ならと手に取りました。ところがどっこい、読んでいて目がすべるすべる…。最後まで読んで、もう一度読み直して初めてストーリーが入ってくるという、著者の文章が合わないのか、自分の脳が疲れているのか(もちろんオイラの脳がポンコツなのさっ)

キジ・ジョンスン、お初のSF作家でしたがクールというか、巻末解説にある「読者をチクリとやる蜂」という表現がまさにぴったり。人間のエゴを突きつけられて、後味が悪い話が多かったです。現代アート束芋会田誠の作品が思い浮かびました。

 

印象的だった短編の感想

 

*26モンキーズ、そして時の裂け目

1ドルで26匹の猿を譲り受け、ツアーバスで各地のサーカスを渡り歩き、猿が消えるマジックショーを続ける女性の話。世界は奇妙なことで満ちている。説明のつかないことで。さばさばした感じがとても好き。

 

*スパー

エイリアンと宇宙で延々交わるだけの話。衝撃作ということで、ネット上では大分物議をかもしたようですが、早く終わらないかなーと冷めた視線で読んでいた自分に驚く。

 

*水の名前

工学部を落第しかかっている女子大生、ある日かかってきた電話から未来に繋がるヒントを受け取る話。短いけれど、水の波紋から宇宙へとイメージが膨らんでいき感動しました。

 

*ポニー

プリキュアやサンリオみたいな、ピンクでふわふわでかわいい世界観をエグくグロく描く感じ。イラストなどではよく見かけますが、なるほど、文章にするとこうなるのか、ふむふむ。

怪獣記/高野秀行

怪獣記 (講談社文庫)

トルコ東部のワン湖で謎の巨大生物ジャナワールの真実に迫るノンフィクション。ネッシーみたいな怪獣がいるというオカルトな情報を元に、とにかく現場に行ってみようと、フットワークも軽く飛行機に飛び乗りトルコで突撃取材を敢行。個性的なガイドと運転手に振り回されながらも、ジャナに関わる人達に垣間見える政治的要素、そしてイスラム復興主義とクルド問題。ワン湖を一周しながら、やっぱりジャナはフェイクだったのかとあきらめかけたその時!最後は鳥肌が立ちました。

毎度のことだけど、高野氏の本はあとがきの後日談がすごい。プハァ面白かった〜と満足して、さらに上を行く後日談。今はそんなことになってんのと未来に繋げるわくわく感がたまりません。

ちょうど読後にワン湖の湖底に古代遺跡発見とナショナルジオグラフィックサイトでみかけてさらに興奮しています。怪獣と古代要塞とはロマンが広がるね。

 

natgeo.nikkeibp.co.jp

 

ユービック/フィリップ・K・ディック

ユービック

ディック作品の中でも傑作と名高い「UBIK」。
予知能力(プレコグ)、読心能力者(テレパス)、覗き屋(テイープ)、念力移動屋(パラキネテイスト)、死体蘇生屋(リサレクター)、物体賦活屋(アニメーター)とわんさか超能力者(しかも衣装が奇抜でキャラ立ちしてる)が登場して月面に集結し、幻魔大戦でも始めるのかと思いきや、爆弾が破裂して半数のキャラ死すという前半から、がらっと変わってあらゆる物が退化する世界からの脱出劇となる後半。先が読めないので、ディック暴走車に乗るがまま終着点に連れていかれる感じ。いやいやサスペンスフルで面白かったです、ジョーよく頑張ったよ!

半死者と話せる安息所など、死ぬに死にきれないディストピア。世界の退化をくい止めるのはユービックスプレー缶でプシュー!などの設定も面白いのですが、一番印象的だったのは、家電や部屋のオートロックまで小銭(チップ)を要求する未来都市。そんでもって主人公がジョー・チップという名前だったりで皮肉だ。なにかとお金にこだわったお話でしたね。

かなり前に古本屋で購入したので、表紙絵は今のスタイリッシュなユービック缶(これはこれでかっこいい)でなく、異空間に謎の男がいる不思議な絵(渡部 隆氏作画)のやつでしたが、読み終えた後に意味がわかるという素晴らしい表紙絵だなあと思います。こっちの方が好き。

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ブレードランナー2049/Blade Runner 2049

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映画館で字幕版を観る。

上映時間およそ3時間、帰宅してネットで前日譚の短編3つと、町山さんの解説などで復習。ほぼ1日脳内ブレランで幸せでした。

これから観られる方は劇場パンフと、wikipediaはもろにネタバレしているので注意です。

いやあ、感想って何を書いてもネタバレになってしまいますが、前作の曖昧なところを丁寧に繋げていき、小道具も前作を彷彿させるものばかり。そんなドゥニ監督の誠実さに感嘆し、画面の空気の表現が絵画的で惚れ惚れしてしまいました。この監督はホントに凄いです。あと、人造人間であるレプリカントがせつなくて、涙を流しながら殺しあうので、胸が締め付けられました。

ディックファンとしては、主人公のブレードランナーが”K”(フィリップ・K・ディックのK)と呼ばれ、羊の折り紙(電気羊)が出てくるのでにやけてしまい、あんなに進化した未来でも、紙の本がちゃんと出てくるのが嬉しかった。

そしてヒロインが電影彼女という設定、儚すぎて泣けてくる。アナ・デ・アルマスの萌えキャラ的な、超タヌキ顔は印象深かったです。

これは”レプリカントは二次元嫁の夢をみるか ”なんだな。