夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

幻獣ムベンベを追え/高野秀行

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

仕事で疲れ果てて、ヨボヨボと蒲団に潜り込み、文庫本をひらいて高野さんにアフリカのコンゴへ連れて行ってもらう秋の夜長。最高でした!

さて、サブキャンプへ向けて出発である。空は晴れ渡り、綿をちぎってばらまいたようなふかふかした雲が青の中に浮かんでいる。日本では見たことのない形状のため、われわれはこれに“コンゴ雲”という安直な名前をつけている。いかにも手触りがよさそうで、しかもすぐそばにあるような感じがするので、手を伸ばしたくなったりするくらいだ。

コンゴ雲をあれこれ想像して楽しむ、これまた読書の幸せ。

さてさて、本の紹介をすると、いるのかいないのか誰もわからない伝説のUMA「モケーレ・ムベンベ」を探しに、高野秀行率いる早稲田大学探検部11人が、コンゴ奥地のテレ湖へ行くという壮絶なサバイバル78日間の記録です。果たしてネッシーに似ているという、怪獣ムベンベは見つかるのか?

密林の奥地のテレ湖へ向かうため、異国の地での交渉も大変そうでしたが、念願のテレ湖にキャンプを張った後はムベンベの姿を探して、さほど特徴のない湖をぼっーと眺め続けて24時間監視(めっちゃシンドそう)、赤道直下で不衛生な環境下、次々とマラリアに倒れてゆくメンバー。相次ぐ機械トラブルに食糧難。猿、ゴリラ、カワウソとなんでも食べちゃうチーム早稲田。ゴリラを解体、食する描写はかなり衝撃的で、ほぼ人食。

命がけの探検こそ、かなり高度なスキルを必要とするんだなぁと改めて感じました。そしてムベンベを幻獣と記すタイトルが逸品。

そういえば子どもの頃、「水曜スペシャル川口探検隊」を夢中で見てたっけ。今も「クレージージャーニー」がたまらん好きな自分。まるで成長なし。なので高野さんの体験談はどんぴしゃです。次はトルコに連れて行ってもらうんだあ。

読書狂の冒険は終わらない!/三上 延 倉田英之

読書狂の冒険は終わらない! (集英社新書)

ベストセラー作家であり「読書狂」の2人が本について語り合う唯一無二のガイドブック。

読んでいて楽しかった。場所が居酒屋なら隣に座ってずっと聞いていたい感じでした。それにしてもお二人の蔵書数と読書量がすごすぎる。私はとりあえず数が読めれば満足で、初版とか何版だと載っている載っていないなどコレクションするまでは手が回っていないです。表紙が違うだけの同じ本を何冊も集めるとか、ビブリオマスターの道は果てしない…。

これだけジャンルを問わずに本を紹介してくれていると、未読だけど「あー、あの本のことね」とわかるだけで、この本の膨大な海をちょっとは把握できてきたぞと嬉しくなる。あとはタイトルを知っているじゃなくて、読み終えたを目指したいね!

そして、お二人ともとても早熟というか、小学生の頃から横溝と山田風太郎を読みはじめているのにびっくり。前回の「ベイビー・ドライバー」でも書きましたが、娘と映画や本の話ができるのは嬉しいけれど、小学生にどこまでOKなのか常に悩みます。いずれ知ることだろうし、少しずつ慣らす形ならまあいっかーと思ってますが。

去年を待ちながら/フィリップ・K・ディック

去年を待ちながら (創元推理文庫)

ハヤカワ文庫から新訳版が出たばかりですが、読んだのは創元SF文庫の方です。

2055年、リリスター星と同盟を結んだ地球は、リーグ星(昆虫タイプのエイリアン)との星間戦争に巻き込まれ、泥沼の戦争中(スターシップ・トゥルーパーズ的な?)。この苦境から地球を救い出そうとする国連事務総長モリナーリの専属人工臓器移植医であるエリックが主人公。

このエリックもモリナーリもネガティヴで自殺願望が強く、始終死にたい言いながらも臓器移植を繰り返してやたら長寿。エリックの妻キャサリンは、夫との不仲から禁断のドラッグJJ180を服用し中毒になり、解毒薬がないとわかると、エリックを騙して服用させ、共に地獄へ落ちましょう、けけけっwwいう展開に。

さらにエリックがJJ180を服用すると、タイムスリップするのであります。きたきた歪んだディックワールド!私の仕事はただいま繁忙期でして、疲れ果てた脳にビシビシ響きました。

さらに私小説要素が強く、このキャサリンのモデルは、明らかにディックの3番目の妻(浪費家)アンらしく、エリック=ディックと読むと、その振り回されっぷりに涙がでてきます。最終的にキャサリンとその道を選択するのか、やりきれねー、もう絶望しかないんだけど、こうして人生は続くのね。

人生はさまざまな様相の現実から成っていて、それを変えることはできないからです。妻を捨てるということは、こうした現実に耐えられないって言っているのと同じなんです。自分だけもっと楽な特別の条件がなければ生きて行けないって言うのと等しいことなんです。

 

ベイビー・ドライバー/ Baby Driver

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史上初、ミュージカルとアクションの奇跡の融合映画!音楽を聴くと、天才的なドライビングができる”逃し屋”の話。

今回は娘と映画館へ。前日に予告編をYouTubeで見ていたら、娘も一緒に行きたいと言い出し、R15、PG12じゃないし、「ローグワン」も大丈夫だったから、予告編を見る限りこれくらいのアクション映画なら多分OKかなと思い連れて行ったのですが、いやもう始終ハラハラでした。

映画が面白くてハラハラと、小学生に大丈夫か?この描写とのハラハラで。

テキーラ‼︎」で爆発シーン

なぜか娘とガッツポーズ

串刺し!

私「ごめんね、大丈夫だった?今の」

娘「大丈夫、大丈夫、たぶん」

激しく轢き殺す!

私「あわわ、大丈夫?」

娘「大丈夫、大丈夫、へいき」

という感じで、日曜日午前の劇場は他に2〜3人が離れてまばらに座っているだけで、ほぼ貸切状態だったので、いちいち隣に座っている娘の反応を気にしてしまいました。

見終わった後の娘の感想は「英語わかんなかったし、字幕も漢字が読めなかったけど、話はなんとなくわかった!ハードだった…」でした。確かに、小3の君にはハードだったね。私の感想としては、最高に面白かったけど、音楽の元ネタや歌詞が聴き取れたら、もっと物語に絡んでいたのを読み取れたんだろうなと、むうぅ悔しい。彼女の名前のデボラ云々のとことか、オースティン・パワーズのギャグも、ラストの車内の会話も意味がわからなくてモヤモヤ。

カーアクションもかなり見応えあったけど、最初にカフェにコーヒーを買いに行く長回しのシーンが一番好きでした。音楽に入り込むベイビーの世界観が詰まった、素敵なロングカット!

 

お日さまお月さまお星さま/カート・ヴォネガット アイヴァン・チャマイエフ

お日さま お月さま お星さま

デザイナーのアイヴァン・チャマイエフが描く、太陽・月・星の絵を元に、カート・ヴォネガットがお話を作った絵本。太陽・月・星というたった3つの図形の構成図から、まさかのイエス・キリスト生誕の話に結びつけてきたヴォネガットの想像力に感嘆させられました。

新生児の視力は遠視で0.01ほどしかないので、周りの世界はぼんやりとしか見えていないそうですが、神の子とはいえ、生まれたばかりのイエス様が見ていた母マリアやヨセフ、羊飼い、東方の三博士のいる空間はこんな感じだったのかなと想像するとほこっり。かと思いきや「やぶにらみ」のシーンはちょっとドキッとする。甘すぎないところがいいですね。うちの子が小さい頃に一緒に眺めたかった絵本でした。