夜空と陸とのすきま

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アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

人類が移住した火星から、地球に逃亡してきたアンドロイド達を狩る賞金稼ぎデッカードのお話。

ディックの初期作品から読んでいって、ようやくたどり着いた円熟期の名作「電気羊」。高校生の頃に県立図書館で初めて手に取って読んでから、もうウン十年目。それまではアシモフ、クラーク、ハインラインの世界三大SF作家の本ばかりを読んでいたけど、「電気羊」でディック節に衝撃を受けたんだよな〜、色々と思い入れのある作品です。

再読してみると、若い頃に読んだ時と印象がだいぶ違う。近未来の地球は、放射能に汚染されていて自然生物が貴重な存在であり、主人公デッカードは、集合住宅の屋上で人工羊を飼っているが、新興宗教にハマっている妻を振り向かせたいのと、自分のステータスを上げたいがために高価な本物の生き物を飼いたくて、逃亡アンドロイドをひたすら狩って賞金を稼ぐのです。この人間そっくりのアンドロイドと関わるうちに、自分は何者なのか、実は「にせもの」なんじゃないだろうかと思い悩みだす主人公に、10代の不安定期だった自分は共感しまくっていましたが、今読み返すと、その辺はあまり共感しない、なんでだろ。

アンドロイドを狩る→大金が入る→うわーい何の動物を買っちゃおうかと、すぐにヨレヨレのカタログを引っ張り出して、ページをめくる主人公の描写の方がかわいいなと思ってしまいました。アンドロイドと死闘を繰り返し、地獄めぐりをした主人公も、最後には偽物も本物でもどっちでもいいじゃん、思いやりの心があれば本物!という結論にたどり着き、妻の元に帰るハッピーエンドが心地好いです。私も電気羊を飼いたい。

メッセージ/Arrival

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劇場で字幕版をみる。

世界中に突如現れた12機の謎の宇宙船、言語学者の主人公ルイーズは地球外生命体(ヘプタポッド)とファーストコンタクトを図り、未知なる言語を解読し、コミュニケーションを取ろうと試みる。彼らが地球に来た理由は一体何なのか。一方、宇宙船の到来により世界経済は大混乱に陥り、買い占めや暴動を起こす人々。しびれを切らした各国は総攻撃の戦闘準備に入り緊張感がたかまってゆき…というお話。

原作よりも緊張感が高くて、重厚で神秘的なサウンドの効果もあり始終ドキドキしてしまいました。

映画冒頭のルイーズの娘が誕生し、成長し、病死してしまう「あなたの人生」の記憶場面から、もう涙腺崩壊。自分も娘がいるので、これはどうしようもないのです。色々思い出すわ。

終盤、ヘプタポットの言語を解読するうちに、ある力が身についてゆくルイーズ。(言語を理解することは、その世界観と思考も理解する)それは人類を新たな段階へ導くと同時に、ルイーズの大事な人を失う(ことが予見できる)力。その力を授けるヘプタポットのようやく現れた全身像が、まるで死神のように見えるシーンなんて、ものすごく鳥肌が立ちました。うおーやられた!

テッド・チャンの200ページほどの短編を、どんな風に映像化するのかずっと楽しみにしていましたが、こんなに素晴らしい作品にしてくれて、ヴィルヌーウ監督ありがとう!これは10月公開の「ブレードランナー 2049」も期待しちゃいますよ。

 

セルフ・クラフト・ワールド01/芝村裕吏

セルフ・クラフト・ワールド 1 (ハヤカワ文庫JA)

大規模多人数同時参加型オンライン(MMO)RPG「セルフクラフト」のゲーム世界内で、独自進化を遂げた人工生命<G-LOIFE>の謎とは、というお話。

鶴田謙二風なイラストにつられて図書館でジャケ借り。普段20世紀のSFばかり読んでいるので、今世紀のは久しぶりです。人工知能AIのNPCヒロインとか、主人公のプレイヤーは現実世界では独居老人とか、今時な設定が新鮮。私はMMORPGをプレイした経験がないので、オンラインのFFにはまっていた友人の話を思い出しながら読みました。ゲーム廃人になりかけていたようだけど、今その友人は元気にしているのだろうか。

ゲーム世界観の作り込みはすごかった。AIヒロインのラブコメも微笑ましい。でもツンデレといってもどうなのコレというぐらい不安定な感情についていけず、現実世界の方も政治的に絡んでくるけど、説明不足でどうなっているのかわからないし、多分2巻以降で展開があるんだろうと思えば、まあ地味な話に落ち着いた1巻でした。2巻も借りて読むつもりだけど、3巻は図書館にないようだ。初Kindle版いってみっかな。

バーナード嬢曰く。/施川ユウキ

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)

読書家キャラになりたいが、本を読むのがめんどくさく、手っ取り早く名文だけ覚えたい女子高生(バーナード嬢)とツッコミ役の男子高生、ミステリー好きの図書委員とSFマニアな女子2人の計4人しかでてこない、中二病的要素が詰まった読書好きのためのギャグ漫画。3巻まで買って読んでみましたが、第1巻が一番勢いがあって良かった。(2巻以降はバーナード嬢も結構な読書家になっている)

こうして読書感想のブログを3年もちまちま続けている私ですが、「学生の頃に読んでおけば良かった」ってよく書いてます。すいません、バーナード嬢曰くの「学生がコレ読んだら勉強して当たり前みたいな余計なプレッシャー与えているだけ…」とは思ってもみなかったので目からウロコ。おばさんになると、自虐の思いと反省ばかりなんだよ。

そして登場人物のSFマニア女子、神林さんとお友達になりたい。熱くSFを語りたい。
神林曰く「SF語るなら最低千冊」
「ムリでもせめて普通に本屋で買える青背(ハヤカワ文庫)全部読んでから言え」
そうなのか!SFの道は険しいな。

3巻なんて特にSFネタが多いんですが、こんなニッチな分野ネタでもちゃんとギャグ漫画として売れてる需要があるのかと、大変心強い。いつも通っている図書館ではSF本借りると、だいたい読者ハガキが挟まったままだったり、スピンが動かされていなかったりで「誰も借りんのかいっ」と、SFがマジョリティで寂しい。

「図書館で借りた空の写真集、カードに強くてきれいなあなたの名前がある」なんてドリカムの歌にあるシチュエーションよ、カムバック。

スウィングしなけりゃ意味がない/佐藤亜紀

スウィングしなけりゃ意味がない

最近は海外文学ばかり読んでいて、久々に手を取った佐藤亜紀の新作も大戦下のドイツが舞台という、ちっとも日本じゃない。

第二次世界大戦中ドイツ・ハンブルクナチスなスウィングボーイズのお話。主人公達がおぼっちゃまなボンボンで、始終斜め上な目線で話を進めてくれます。重たい戦争物をマジとかだっせぇなどの軽い文体で描くこの不思議な感じ。表向きはナチ支援の工場運営、裏ではBBCラジオをから流れる音楽を、レコードに焼き闇に流すという痛快なジャズ少年達。でもハンブルクの空襲はとてもリアルな描写で、気持ち悪くもなりました。

作中で登場する音楽をYouTubeでまとめてくれてた人がいた!これを先に知っていれば、一緒に読み進められたのに〜!これから読む人はぜひ再生リストにどうぞ。

www.youtube.com

 彼らはぼくに多くを求め過ぎだ。血統だの純血だの民族の一員としての自覚だのは、やりたい奴が趣味でやればいい。どこかの離れ小島でも買い取って。で、ひたすらアーリア人アーリア人を掛け合わせてジャズとか一切聞かせずに愛国作文でも書かせて朝から晩まで運動させて歌わせて行進させていれば理想のアーリア人が作れる、というなら、どの程度のものが仕上がるか喜んで見させて貰うけど、ぼくにやれとか言わないでくれよ、もううんざりだ。

某○○会議も、離れ小島で勝手にやってほしい。ちっとも日本じゃないかと思いきや、もろ日本の今の話だった。