夜空と陸とのすきま

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カエアンの聖衣/バリントン・J・ベイリー

 

 

 

カエアン製のスーツを着ると宇宙最強になれる。そんな超レアなスーツを求めてザイオードの密輸貿易業者達は難破したカエアンの宇宙船にたどり着くが…。さらに宇宙では巨大宇宙服を身に覆うロシア人のソヴィアと、サイボーグとなった日本人ヤクーサ・ボンズとの対立が続き…などとすっちゃかめっちゃかなアイデアをこれでもかと詰め込んだ英国ワイドスクリーン・バロックの傑作。

 

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想像力が乏しい私は、こんなイメージで読み進めていました。ロシア、巨大なスーツといえば映画「パシフィックリム」のチェルノ・アルファだろう。ヤクザ坊主って僧兵?そして表紙絵のイメージからカエアンのスーツは映画泥棒風と言った具合です。

世界中のクリエイターに多くの影響を与えたSFなんだそうで、今はこうして影響を受けた副産物で脳内再生できますが、78年の発表当時はなんじゃコリャだっただろうな。

服を着ると強くなる。

誰かのエッセイで、高い肌着を身につければ女が上がる、見えないとこで金をかけれなどと書いてあったのを思い出しました。自分、しまむらオンリーですけどね。でもいい服を身につければレベルが上がったような気になれるのは確かにあるね。主人公がカエアンのスーツを脱ぐとヘロヘロになり、砂糖を貪り食うところなんて笑えました。

衣装カルトのカエアン人の描写も、凝りに凝っていて楽しかった。流行がなく、自身のこだわりの衣装を身につけるカエアンが少し羨ましいです。

最後はスーツを農産物の様に産み出す惑星まで出てきます。もうどんだけー

字幕屋の気になる日本語/太田直子

 

 

字幕屋の気になる日本語

字幕屋の気になる日本語

  • 作者:太田 直子
  • 発売日: 2016/07/06
  • メディア: 単行本
 

 

 映画は字幕派なので、何度か見かけた字幕さんの名前だなと、このエッセイを手に取りました。本書は3部構成になっていて、まずその一が「字幕屋の気になる日本語」新聞コラムの連載分です。

私的な話を挟みますが、つい最近子供と一緒に山歩きと古い銀鉱跡を探検してきまして、そのダンジョンみたいな様子に興奮して「ヤバイヤバイ!すごくない⁈」と連呼してしまい、後からあれはボキャ貧すぎて子供の前で恥ずかしいなと自己嫌悪に落ち入りました。

なので、太田さんの「ここが変だよ日本語」の数々のご指摘ごもっとも。私も「〜すぎる」「世界観」「させられる」も無意識のうちに多様しています。

いちいち注意や指導をしなくても、言葉の能力は親の背中を見て(聞いて?)いつの間にか養われるもの。ふだんの会話が教科書なのです。

グサグサとトドメを刺されましたが、太田さんのユーモアある文章に救われました。

 

その二は「字幕屋は銀幕の裏側でクダを巻く」

太田さんが字幕を担当した映画の紹介と字幕作業のウラ話など。私がちょうど育児で一番しんどかった時期に上映された映画ばかりで、ほぼ知らない映画でした。タイトルをメモしてレンタルで見てみます。某公共放送で漢字の「俺・奴」は使えないから字幕を作り直すとか、1秒四文字と決まっているので意訳にならざるを得ないとかウラ話楽しい〜。

 

その三は「字幕屋・酔眼亭の置き手紙」として映画字幕の作り方を紹介。

最後は吹き替え人気のため字幕の報酬の価格崩壊がおきていて、次世代の職人が育っていけない現状を憂いています。映画配給会社もブラック企業

ドストエフスキー研究者を目指しながらも字幕屋になり、作品を知るために必ず原作も読み、新しい世界を知れる喜びを持ちつつ資料を読み込む、太田さんは素晴らしい字幕屋さんだなと感服したのに、解説で太田さんが今年の初めに病気でお亡くなりになっていたことを知りました。まだまだ業界を引っ張っていって欲しかったのに残念です。ご冥福をお祈りします。

 

 

それっ!日本語で言えばいいのに!!/カタカナ語研究会議監修

あえてカタカナ語を使うことで、言った本人は満足感たっぷりなのでしょうが、想いを伝えることの基本を忘れている人が、最近、多いような気がします。

私は不定期でちょっとしたパソコン関係のお仕事をしているもので、次々と登場するパソコン用語&IT用語にはいつも辟易していまして、図書館でこの本のタイトルを見た時に「そうだそうだ」とうなずいてしまい、借りて読んでみました。

内容は見開き左ページにまずカタカナ語の誤用例をイラストで。その下に正しい正解例とあるのですが、誤用例と正解例が一致していなくて???シチュエーションが全く違うんですけど…。

右ページには用語の解説。これはよくあるカタカナ辞典。和製英語の指摘は良かったのだけど、もともとの由来の英語とカタカナ語はそんなに違わないような。

さらにこれ以上ないほどの誤字・脱字の嵐。ここまでひどいのは本当に久しぶりに拝見しました。これちゃんと校正かけてんの?イヤ自分もブログでひどい文章書いている自覚はあるんだけどさ、本として出版しているのに〜

そして「日本語で言えばいいのに!」なのに、読むとうんちくが増えてしまい、ついカタカナ語を使ってしまいそうになるというのが、コンセプトと逆行しているなぁ自分と思いました まる

 

ドクター・ブラッド・マネー博士の血の償い/フィリップ・K・ディック

 

 

1981年、火星に向けてデンジャーフィールド夫婦がロケットで飛び立った日、地球では世界核戦争が勃発した。衝撃でロケットは地球を回る衛星と化し、デンジャーフィールドの宇宙からのラジオ放送だけが、荒廃した地球の生き残りの人びとの癒やしとなる、というお話。

ロケット発射後、大気圏を抜けて青い地球が視界に入り出した直後に核戦争が始まり、キノコ雲が次々に現れるという絵図ってすごいですね。まるで「博士の異常な愛情」のラストシーンのよう(本作のタイトルも博士ブームにのった結果らしい)。火星への移住目的でロケットが打ち上げられたと同時に、残された人類が滅亡しかけるという…。

その後は、核戦争後の生き延びた人びとの地球での日常がお話の中心となります。精神病を病んでいる物理学者、超能力者の肢体不自由者、お腹の中に双子の弟がいる少女、奇形ネズミなどミュータントやフリークスが出てきます。死者と話ができるという、このお腹の中の弟君の設定もなかなかホラー。初っぱなが絶望で、あとは人びとがどう生き延びてゆくのかという群集劇。サスペンス色も少しはあったけど、ディックにしてはゆっくりした展開でした。一人宇宙に取り残されたデンジャーフィールドがラジオで話すトークと流す音楽はとてもせつない。いとうせいこうの「想像ラジオ」もせつなかったが、ラジオってノスタルジックでいいモチーフだな。

 

話がそれますが、核戦争後の話というと「AKIRA」よりも先に衝撃を受けたのが、私が小学生の頃に少年ジャンプで連載されていた「飛ぶ教室」。2巻完結と短い漫画でしたが、小学校の校庭に核シェルターがあって、核攻撃から偶然助かった小学生達のサバイバルのお話です。ガイガーカウンターも、シェルターも死の灰もこの漫画で知りました。コミックスも持っていたはずなんだけど、実家で行方不明。Amazonでの評価も未だに高いですね、やっぱり同じ思いの人がいて嬉しい。復刊してくれたけど高いっ。

「ドクター・ブラッド・マネー」は最後に希望のあるハッピーエンドでしたが、読み終えた直後に、かの国の地下核実験のニュースが飛び込んできて、気分はバッドエンド。

俺たちのBL論/サンキュータツオ・春日太一

 

 

俺たちのBL論

俺たちのBL論

 

 時代劇研究家の春日太一さんが、芸人サンキュータツオさん語るBL論に導かれ、おそるおそるBL世界の扉を開き、ひらめき!納得!から自己分析にまで至り、チャクラが覚醒して解脱し、最終的にはタツオ氏を超えていくという驚異の対談集。中々ここまで明け透けに裸をさらけだす本もめずらしいというか、春日さん…(知りたくなかったかも)。いやでも手に汗握る展開で面白かったです。

年末年始にTBSラジオ「たまむすび」で春日さんが、「映画「兵隊やくざ」の勝新と有田上等兵はBLなんですよ!BL!」と、めっちゃ熱く語られていたので、何があったんだ春日さんと思っていたら、こういう対談の経緯があったのですね。

古今東西の名作にはBL要素が組み込まれているという説も納得です。つい先日読んだ「オン・ザ・ロード」のサルとディーンも「お前がいないとダメなんだ!」と吠えていました。そうかそうか。ドラマの「SHERLOCK」も…そうかそうか。

自分は中学生の時に、聖闘士星矢のパロディ4コマ本と勘違いして買ったアンソロジーが、もろBL本だったという衝撃的な出会いをして以降、好んでBLを買って読むことはないんですが、あの世界がどうして人気があるのかは、このBL論を読んでようやく理解できた気がします。とてもピュアで繊細なBL。そっと嗜むべし。

異文化を理解して楽しめ!