夜空と陸とのすきま

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新・リーダー論 大格差時代のインテリジェンス/池上彰 佐藤優

新・リーダー論大格差時代のインテリジェンス (文春新書)
池上彰佐藤優対談集第3弾、今回はリーダー論がテーマです。アメリカの大統領選前の10月に出版されてますが、(先日読んだ町山さんの本もそうだけど)もうトランプ大統領を予言しているかのようで、トランプはなるべくしてなったんだなと読んだら思わざるを得ません。プーチンも来日したことだし、リーダーと独裁者について、まさに今読んどけって内容でした。新書は生ものなので、古本まちじゃだめですね。

・日本の財務にはコンソル公債(consolidated annuities)が有効

原発依存が非核につながる皮肉、日本は物理的に核武装が不可能

・教育が子供達を選別する役割になってしまっている

など、普段自分が目にしているメディアとは違う視点からの指摘が興味深かったです。最後の佐藤氏の「急ぎつつ、待つ」というあとがきに少し救われました。

 

最も危険なアメリカ映画/町山智浩

最も危険なアメリカ映画 『國民の創生』 から 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 まで

 

「ハリウッド映画から見る、アメリカの病理」ということで、映画評論家町山さんによる、本当は怖いハリウッド映画本。

正直、知らない映画ばかりだったし、映画の紹介よりも、差別!差別!なアメリカの深い闇に (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルしながら読みました。銃を保持していて、反知性的であるがゆえに差別してくるって、ホントにぞっとする。第3章、第5章の「ディズニーが東京大空襲をけしかけた?」を読んでしまったので、今後ディズニーランドに行っても心穏やかになれず、スプラッシュマウンテンに乗ると暗い気分になること請け合い。

そしてやっと知っている映画が出てきた最終章でのロバート・ゼメキス監督の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と「フォレスト・ガンプ」が、そんな深読みがっ!と一番ショックでした。「バック・トゥ・・・」は3作部とも家族と一緒に映画館で見て、とても楽しかったのに。ついこの前もNHKBSで放送してくれて、また元旦もNHKBSプレミアムで放送するんだよね。はっ、こんなにリピート放送するのは、特定の政治的イデオロギーの陰謀かしら(おいおい)。「フォーレスト・ガンプ」を見た時の、何かモヤモヤした理由がわかりました。無垢な主人公よりも、時代に翻弄されながらも駆け抜けたヒロインの方が共感できたのに、最後の扱いがひどくて納得いかなかった。ゼメキス監督は確信犯だったのね。

トランプ次期大統領を予言したという映画「ボブ★ロバーツ」は、みてみたいです。

年月日/閻連科

 

 

年月日

年月日

  • 作者:閻連科
  • 発売日: 2016/11/10
  • メディア: 単行本
 

 「愉楽」の閻連科の中編。私は閻連科の作品を読むのは初めてで、どんな作風の方なのか知らなかったのですが、これはじわじわくる良作でした。

日照りが続き、村人たちが逃げ出した山間の村で、盲いた犬とトウモロコシの苗を守る先じいのお話。「」(かっこ)を使わないので、全体が「星の王子様」みたいな寓話的な雰囲気でした。

子どもの頃に読んだ漫画で、さいとうたかおの「サバイバル」というのがあって、壊滅した都市で1人生き延びた主人公がサバイバルしながら野犬とネズミと戦うという話で、その怖さがトラウマになってしまい、ハムスターを可愛いと思えなくなってしまったのを思い出しました。この「年月日」の先じいもサバイバルしながらネズミやオオカミと戦います。ネズミの集団怖いっ!逆にとって食べちゃう先じいもすさまじい。

トウモロコシの水分補給にションベンをかけたり、ネズミと戦ったり、先じいは饑餓で命つきる前に衛生面で病気にならないのが不思議。でも始終ギラギラした砂漠のような環境の中で、綱渡りのように細々と育つトウモロコシの繊細なところが印象に残ります。相棒の犬とのお互いの思いやりも泣けます。文字通りの一蓮托生。

ケルアックに学べ 「オン・ザ・ロード」を読み解く6つのレッスン/ジョン・リーランド

 

 

 

 

原題は「Why Kerouac Matters」(なぜケルアックが気になるのか)。そう、「オン・ザ・ロード」の良さがさっぱりわかんなくて、もやもやしていてずっと気になっているんだよ、と読んでみました。翻訳も上手いのか、とても読みやすかったです。

オン・ザ・ロード」の疾走感は好きだったけど、出てくる5つの旅はどれも失敗に終わり、ドラマティックなオチもなく、登場人物達の成長が目に見えてあるわけでもなく神様、神様、ようするにようわからん。さらに女の子を泣かせまくるガキな主人公達にイライラ。でもこの「ケルアックに学べ」を読み終えると、あるがままにハチャメチャな真実を語っている物語だからすごいんだと納得できました。

聖なる愚者 

この世界を見届ける

神様はクマのプーさん

 

このキーワードを意識して「オン・ザ・ロード」を読めばいいのだ。

それでもやっぱり自分に子どもがいると、たくさんでてくる不遇な赤ちゃんを想像しちゃってプリプリ怒りながら読むことになるんですが。(本書で、女性が読むと怒ってしまうと書かれていて、同じことを思う人はやっぱりいるのね)ああ、読む「年」と「タイミング」は読後感にかかってくるね。

ジャズ、ブルースについて詳しいともっと楽しめそう。

逆まわりの世界/フィリップ・K・ディック

 

 

 ここ10年ほどかけて書店と古本屋でディック本をせっせと買い集めてきたけれど、どうしても出会えなかった文庫の1冊がこれ。そしてAmazon経由の中古書サイトで1円でした。1円…1円なのか。送料の方が高いねん。でも古本屋をめぐるガソリン代を考えると、もう残り数冊は全部ネットに頼ろうかな。

ディックといえば、2018年1月に「ブレードランナー2」が公開決定!SF界にディックブームが再び(なんか7年に一度ブームがくるそうです)訪れるのか!?という嬉しい状況ですが、ディック初期から読み進めている私は、それまでに「電気羊」にたどりつきたいところ。ぐぬぬ、読むのが遅いわあ。

さてディック中期のこの「逆まわりの世界」ですが、「ホバート位相」という謎の時間逆流現象がおきている世界が舞台で、死者は墓から蘇り、生者はだんだん若返って子宮の胎児〜精子卵子まで戻り、食べ物は嘔吐で出しという設定。主人公は墓堀カンパニーの社長さん、いつもどおりお墓から「出して〜出して〜」とゾンビの様に生き返る人を助けている最中に、行方不明とされていたユーディ教始祖の墓を偶然見つけたことから、その復活した始祖をめぐって公安機関、ユーディ教、ローマ教会の三つ巴の暗闘に巻き込まれることに…というお話。公安機関が消去局という市民特殊図書館で、書物の記録を消去していくのが仕事というのが面白かったです、ディック版図書館戦争ね。

面白い設定なんだけど案外適当な感じで、どうしょうもないダメおっさんな主人公にも妙に親しみがもてていたのに、映画みたいに派手なアクションなんかできるか、現実はこんなもんだと言わんばかりの絶望的なオチ。でも何か心に残る作品、無常感が好きでした。

何ものも留まってはいない、万物は流転する。粒子が粒子にくっつくー物体はそのようにして成長していく、われわれが、その物体の存在を知り、名づけるまで。しかるのにその物体は徐々に分解をしていき、もはやわれわれの知らぬ物質となる。

細胞のひとつひとつがよりあつまりて人は人となり、花びらのひとひらがよりあつまりて薔薇は薔薇となる。細胞のひとつひとつが腐りゆき、そして、泡に映りし太陽が、はじけし泡とともに消えゆるがごとく、人もかく果てゆく

 

この文庫は80年代に出版。ニグ×という表現だと、今はもう再版できないんじゃないかなと心配。新訳はどうでしょう。