夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

惑星カレスの魔女/ジェイムズ・H・シュミッツ

 

 

惑星カレスの魔女 (創元SF文庫)

惑星カレスの魔女 (創元SF文庫)

 

 商船の船長パウサートは、偶然出会った惑星カレスの魔女である幼い三姉妹を奴隷の身分から助けだし、無事にカレスに送り届けるが、銀河帝国とカレスの騒動に巻き込まれ…というスペースオペラ。おひとよし船長と三姉妹の次女ゴスの息の合ったコンビも楽しい。

私が中学生の頃に、母が表紙が宮崎駿というだけでジャケ買いしてきた記憶があります。母から面白かったよとオススメされて手にしてみたけれど、まだ難しくて(多分、漢字が)断念。

先日、久しぶりに古本屋で見かけて懐かしくなり買ってしまいました。その頃の母と同い年になった私、今なら読める、読めるぞ!

当時の新潮文庫版から創元SF文庫で新装版されても、カバーイラストは同じ絵。タイトル文字のドロップシャドウにDTPの進化を感じたり。

予知能力、テレポーテーション、サイコキネシスをそれぞれ持つ三姉妹。魔女というよりエスパーなんじゃね?と最初は思っていたけど、宇宙エネルギーの「クラサ」、そのクラサ・エネルギーが実体化して悪ふざけをしてくる神もどきの「ヴァッチ」、星の精霊「惑星霊」、そしてゴスが使うワープの「シーウォッシュ・ドライブ」などなど、次々と独特の用語が出てきて、SFなんだけどとってもファンタジー。展開も速いし、変な皇帝に老人工作員と女スパイと海賊とキャラクターも魅力的で、魔法で銀河な世界に引き込まれて、あっという間に読み終えました。

確かに面白かったよママン。と表紙絵を撮って母にLINEで送ったら、「何それナウシカ?」と返された。忘れてしまったのかよママン。

 

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)/大森望編

 

 時間SFのアンソロジー。時間ロマンス、奇想、時間ループをテーマにした13篇。これを読んでから、私はタイムスリップか歴史改変物の方が好きかもと気がつきました。ループものって主人公の心情に共感しすぎて辛くなってきます。外国ではマイナーだけど、日本人にはループものが人気ってなんでだろうね。

ということで、時間ロマンスに分類されるテッド・チャン「商人と錬金術師の門」が一番好み。チャンの「あなたの人生の物語」は「メッセージ」というタイトルで映画化され、いよいよ劇場公開まであと半年、めっちゃ楽しみです。

あの球体型宇宙船が煎餅の”ばかうけ”にしか見えなくて困ってしまいますが、(ばかうけにコラした画像もTwitterで見かけた気がする)すばらしい映画のはず!


映画 『メッセージ』 予告編

「商人と錬金術師の門」はアラビアンナイト風なんだけど、タイムトラベルの門が出てきます。古人曰くの「この世にはもとにもどせないものが四つある。口から出た言葉、放たれた矢、過ぎた人生、失った機会だ」はグサッと心に響きました。タイムトラベルによって、過去を変えることはできないが、より深く理解することはできる。決してハッピーエンドではないけれど、想いを知ることができただけで幸福だという結末の余韻にしみじみと浸れました。名作!

 

表題にもなっているF・M・バズビイの「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」
どこかで聞いたフレーズだと思ったら、ザバダックの「ここが奈落なら、きみは天使」なのか。今年の7月に吉良さんが突然亡くなって大ショックでしたが、小峰さん率いるザバダックはまだまだ続いていくようなので良かった。高校生の頃は毎日聴いてました。

ZABADAK・ここが奈落なら、きみは天使 PV

すべてはあなたにつがる時間へ

「ここがウィネトカ〜」もそんなタイムトラベル・ロマンスの物語。人生の様々な時期をランダムに移動しつつ、永遠の恋人と出会う。ロマンスね〜とうっとりですが、タイトルにあるジュディがその恋人ではないという衝撃。ちゃうんかい!しかも主人公の男と恋人のエレーンも、お互いすれ違いながら何度も別の人と再婚していて、もてもてですがな。

火星のタイムスリップ/フィリップ・K・ディック

 

 

 

火星の植民地では常に水不足。新鮮な食品も地球からの密輸に頼り、スクールでは悪い刷り込み教育をしていて、精神病患者が急増、生まれてくる子供達は自閉症だらけ。そんな不毛な火星で唯一巨額な富を築き上げている水利組合の組長アーニーは、国連の火星再開発の話を聞きつけるが…というお話。主人公はアーニーに振り回される技術屋のジャック。

火星なんだけど運河もあり、魚も泳ぐ。砂漠には原住民もいて原始的宗教もある。それは火星じゃなくて、アメリカのロス郊外のこと?だと思って読み進めるのが正しいのかも。自閉症や分裂症、この頃のディックは精神病の本を読みあさっていたそうで、タイムスリップのカギを握る少年の分裂症描写がとても細かい。私事ですが、最近の仕事で分裂症の人と少しだけかかわったことがありまして、本当にコミュニケーションをとることが難しく、自分もいろいろと勉強しないといけないなと痛感したところでした。

精神病とはなにかということが、おれにはわかった。それは外界の事物、とりわけ重要な意味をもつ事物にまったく無感覚になることだ、思いやりあるひとびとのいる世界から疎外されることだ。そしてそのあとにくるものは?恐るべき自我の喪失ーそれは内面世界と外部世界に分裂した世界、ゆえにどちらも他の世界には記憶されない。だがふたつの世界は存在し、それぞれの道をたどる。

くらくらして酔いそうな時間の歪み。今読んでいる時間軸は夢なのか現実なのか、わからなくなる(…ので眠たくなるけど。実際寝落ちしまくったけど)ディック特有の描写が続きます。

 技術者であるサラリーマンの主人公(ワーカーホリック気味)も、その奥さんも、自分を見失った結果ふらふらと浮気をしてしまい、家庭崩壊でぐらぐらなんだけど、最後はなんとかもちこたえてくれて良かった。旦那さんが仕事にひたすら没頭するでなく、家に帰って奥さんをハグすればすべて解決するんだよ。

あんたがたみたいに過酷な仕事を強制する人間が、分裂症者を作るんだ

精神科医が権力者アーニーに吐き捨てるように言う言葉にうなずいてしまいました。

FAKE

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6月に公開から4ヶ月遅れでようやく我が町の映画館にもきてくれました。
1日2回の上映で中々仕事の都合で観にいけず、ようやくレイトショー最終日に駆け込み。観客はカップルと、お兄さんと美人なお姉さんと私の4人。美人なお姉さん、エンドロール始まったら早々に帰っちゃった。エンドロール後の森監督が佐村河内氏に問う最後の質問が「ぎゃふん!」だったのに…。

見終わった後にこのポスターをよく見ると、ドキュメンタリー・出演に赤い傍点が。猫の瞳の中に奥さんが。そしてパンフレットの緑川南京氏の寄稿(笑)など、フェイクフェイク。もう何がなんだかよくわかりません、昨夜から頭の中がモヤモヤしまくりです。スカッとする映画もいいけど、この1週間くらいは、あのシーンは…など考えてモヤモヤしている状態も好きです。

佐村河内夫人が、どんな来客にでも、大きな(コージーコーナーかな?)ケーキとコーヒーでもてなすので、とにかくケーキが無性に食べたくなるね!

 

 

ライズ民間警察機構―テレポートされざる者・完全版/フィリップ・K・ディック

 

 

 テレポート装置<テルポー>を使って瞬時にフォマルハウト第9惑星に移住を始めた人類。しかしこの装置を利用するとなぜか片道通行しかできず、フォマルハウトからの通信では、ここは地上の楽園と伝えてくるが、一体現地で何が起きているのか…というお話。

なんだか昔の在日朝鮮人の帰還事業みたいですね。

今回も主犯はドイツ帝国なんですが、ドイツ人がディック本読んだらへこむだろうなぁ。ディックはこの時期本当に世界に絶望していたらしく、警察や女性に疑心暗鬼だったのがよくわかります。

今まで読んできたディック作品の中でも、とにかく一番破綻している本書。未完成で死後に他作家が追記して完成させたら、その後にディックの未発表テキストが発見されるなどして、バージョンが複数あるらしい。伏線も放置、主人公の性格も豹変、ヒロインと主人公がなぜ惹かれ合うのかもわからず、テルポーしたのが主人公だったり社長だったりで曖昧。でも書かれているテキストが現実になるドクター・ブラッドの書など様々なSFのアイデアは面白い。ああ、もったいない。巻末の解説もすごく苦労しているのがわかる。超破綻しているけど、ディックファンなら楽しめるでしょう、ね?と書かれたら、まぁ部分部分は面白かったけど、話はなにがなんだかでした。残念。