夜空と陸とのすきま

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ロビンソン・クルーソーを探して/髙橋大輔

ロビンソン・クルーソーを探して (新潮文庫)

TBSテレビ『クレイジージャーニー』で、「ロビンソン・クルーソーを探して」、「浦島太郎の正体にせまる」の回で登場した〈物語を旅する男〉冒険家の髙橋大輔。

ロビンソン・クルーソー漂流記』のモデルとなった実在人物アレクサンダー・セルカークの無人島漂流生活を追い求め、南太平洋の島に居住跡を見つけるまでの10年間の記録。

番組を見て大体のあらすじは知っていたものの、まず髙橋氏の文章力が非常に高いことに驚く。筋立てされた論文調で読みやすくわかりやすい。そして適確に地図や写真も入っていて理解しやすい。検索してみると他にも多数の著作があり、もっと読みたくなりました。

髙橋氏はもともとテレビ番組企画会社の営業マンだったのでプレゼンが上手。同じくセルカークを研究している遺跡調査の博士や、学芸員や司書さん達の力を借りて、生誕地から遺品と日誌の追跡と、とことん調べ上げていくところが読んでいてワクワクしました。やっぱり実際に現地に行かないと発掘のひらめきは得られないんですね。

小学生の頃に夢中になって読んだ『ロビンソン・クルーソー漂流記』大好きでした。実在のセルカークは短気な荒くれ者の海賊で晩年はアル中と、とても英国紳士とはほど遠いけれど、本書に引用されている詩や遺書を読むと、孤独、とにかく孤独な人生だったんだと哀愁を感じます。

自生の夢/飛 浩隆

自生の夢

飛さんの新刊『零號琴』のぶ厚さにおののき、とっさに隣りにあったこの本を手に取りました。こちらも星雲賞(日本短編部門)や日本SF大賞の受賞作品が収録されている豪華本。『自生の夢』は連作で、なんとなく収録されているすべての短編の設定が繋がっているから連作短編集になるのかな。

『海の指』は、表紙がイメージ画でしょうか。瀬戸内海の小島で暮らす夫婦の話かと思いきや、実は崩壊した世界で、そういえば日本って国があったねー、もう誰も覚えてないよというくらい時間が経過した頃の、灰洋という流体が地球を覆っていて、かろうじて残った陸地での夫婦のお話。この短編集の中で一番わかりやすい(読みやすい)。そしてDV元夫の怨念怖い。

『自生の夢』を含むアリス・ウォンと複雑適応系エージェントCassyの連作短編は、空間も時間も自由で、あまりにもイマジネーションがすごくて(電子的書字空間!ってなんね?)うかうかしていると置いてけぼりにあいました。途中で話についていくのをあきらめて、この表現はいいなぁと詩的な部分を堪能することに。そこが飛作品の魅力的なところ。

 

最後に収録されている『はるかな響き』

のっけから、ヒト猿と石版モノリスの登場で、脳内に「プワープワープワー、ジャジャーン!」とR.シュトラウスの『ツァラトゥストラはこう語った』が響き渡ります。せつないというか、地球の終わりの物語は淋しくなるね。

「なんだってそうさ。われわれも、生きてみなければ、いつ死ぬか分からない。ジャズの即興も、温泉宿で興じる卓球も、コンピュータが行う演算処理も、いつ終わるかを(終わるかどうかさえ)事前に計算することはだれにもできない。
 生きた結果として、たまたまある日、死がやってくる。そのときなって分かるんだ。ああ、いま計算がおわったのだと」

 

 

ボヘミアン・ラプソディ/Bohemian Rhapsody

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12月の初めにレイトショーで観る。

数年前からスマホの着メロを『WE WILL ROCK YOU』にしていて、着信時に隣りにいた人から苦笑されたり、パリピっすねwと言われて嬉しかったりする程度のクイーン好きなんですが、まさかクイーンの映画がこんなにヒットするとは思わなかったです。
田舎の映画館レイトショーにも人がいるいる!翌日から上映回数増えてるし、SNSのクチコミの力ってすごいね。

英のロックバンド、クイーンの誕生から華々しい軌跡の裏の知られざる真実を映す。ボーカルのフレディ・マーキュリーを主人公にした伝記ドラマ映画。

私は普段ドライブでクイーンのベスト盤を流す程度のにわかファンなので、実際クイーンのことをあまりよく知らずにいて(今回映画を観て、はじめてベーシストの名前を知る)、あの曲ができた過程はこうだったんだと楽しめました。音と遊びながら曲を作っていって、心底楽しそうでいいなぁ。
後半、クイーンの不仲説が浮上し、インタビューで報道陣に囲まれて質問攻めにあい、困惑するフレディのシーンは、なんかテレビドラマみたいな狙いすぎの演出だなとちょっと興ざめしちゃったんですが。うーん。


しかし最後の「ライブエイド」21分は、曲にぐっーと押されて盛り上がり、ライブ感満々。気持ちが高揚したところでエンドロールに入り、颯爽と『Don't Stop Me Now』が流れ、過去にタモリさんの「空耳アワー」で散々いじられた曲だったから、全部空耳に聞こえて笑いが止まりませんでした。感動がすっとんでいったよ…。蟹味噌バレンタイン、すぐそれママにゆうぅ!

 

 

 

 

銀河市民/ロバート・A・ハインライン

銀河市民 (ハヤカワ名作セレクション ハヤカワ文庫SF)

地球から遠く離れた惑星サーゴンの奴隷市場に売られ、老乞食バスリムに買われた少年ソービー。やせこけて死にそうなソービーは幼少期の記憶がなく、なぜ奴隷になったのかも覚えてはいなかったが、一見乞食のふりをして、実はただ者ではない知性と人格を持つバスリム父ちゃんに育てられ、賢い好青年に育つ。やがてバスリムの正体と、自分の出生の謎に迫るべく銀河をめざし…。というお話。

ハヤカワSF文庫で表紙がラノベっぽいのは、まさしくラノベで、SF入門に最適!ティーンズのみんな読んで読んで!を狙っているんだなと(今ごろ)気が付きました。面出ししてティーンズコーナーに置いて欲しい。小学生からでも大丈夫。もちろん大人が読んでも大満足の面白さ。

前半は、奴隷の身から乞食〜惑星サーゴン脱出で宇宙船乗組員と、少年ソービーの成長が楽しめて、後半は株主なんたら金融なんたらと、どこのウォール街の話やねんっていう戦い。

主人公にピンチが訪れると、必ず年上の女の子が助けてくれる。主人公超モテモテ。そして常に”バスリム父ちゃんならどうするかな”と考えて行動に出るのもいいですね。実の父、養父、船長、叔父と、男子が”父”を超える物語でした。男はつらいよ

最後の物たちの国で/ポール・オースター

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

行方不明になった兄を探しに、ある国へ入国したアンナ。その国は秩序が崩壊し、人々の心は荒み、日々物がなくなっていく極限の状態。アンナは生き延びて脱出できるのか。アンナからのあてもない手紙という形式で、物語が紡がれていくディストピア小説

雑誌BRUTUS「危険な読書」特集で紹介されていて気になっていた本。隣町の図書館の閉架で見つけた単行本は、初版なのにスピンが動いてない!ってか誰も借りてないんかい〜どれだけ長い期間閉架にあったのかしら。単行本の方は、表紙に描かれているボトルシップが読後の希望を少し感じさせてくれて好きです。

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物語の前半は荒れた国の現状、誰も信じられない街の様子が延々と描かれていて苦しくなります。でもシリア内戦や焼け野原となった諸外国の地域は、今でもこうなのかもと現実と地続きに思える。後半は砂の城を築くような、救済してもいっこうに報われなく絶望と疲労だけが溜まっていく。最後はどうなるのかわからないままですが、こうしてアンナの日記を読めているということは…希望があると思いたい。

 

わかるでしょう、ここにいるとどういう状況に立ち向かわされるかが。ただ単に物が消えるだけではないのです。ひとたび物が消えると、その記憶も一緒に消えてしまうのです。脳のなかに闇の領分が生じ、その消えた物をひっきりなしに喚起する努力でもしない限り、またたく間に永久に失われてしまうのです。