夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

時間のないホテル/ウィル・ワイルズ

時間のないホテル (創元海外SF叢書)

 

 家族旅行だとそんなに利用する機会もないので、あんまりかかわりがないビジネスホテルですが、「時間のないホテル」は世界中にチェーンを展開するビジネスホテルに閉じ込められる話。幻想小説でSFホラー。

チェーンホテル「ウェイ・イン」は、国際見本市が行われるコンベンションセンターに併設されていて、主人公はそのフェアに代理出席することを生業とするビジネスマン。前半はこの画一的で快適なホテルが不気味に描写されるし、主人公も他のフェア参加者も、その場限りのお付き合いでぺらぺらでイヤな感じ。

後半はそのホテルからの脱出劇です。この出られそうで出られない状況は、映画「CUBE」とか、ゲーム女神転生のペルソナを思い出しました。合間に主人公とホテルにまつわる幼い頃の思い出も入ってきて、上手い描き方だなぁと感心。

ホテルの「御持て成し」が、おもてなし→うらばかりになっていて怖かった。

 

無限の書/G・ウィロー・ウィルソン

無限の書 (創元海外SF叢書)

 

昨日に続き一気に更新していますが、娘の春休みが終了したのでようやくブログ更新できるからなのです。書いているときに後ろからチラチラ見られると気恥ずかしいのですよ。あと、図書館返却日が迫っていて一気読みしているのもあります。今回は調子にのって借りすぎた…。

さて東京創元社新刊の「無限の書」です。表紙絵を見たときに重たそうな内容かしらとかまえてしまったけれど、作者はマーベルコミックの原作者でもあるらしく、ライトノベル感覚なところもありました。ようするにキャラ立ちしていて読みやすい。

サイバーパンクアラビアンナイトの融合。中東の”シティ”と呼ばれる某専制国家を舞台に、謎の古写本を入手したハッカー青年が、政府の検閲官から逃れるため、異界をさまよいつつ本の秘密に迫るーというお話。

ひるね姫」も魔法=プログラムの世界でしたが、こちらも同じく。読みながらリンクしているなぁと思ったものです。

そして表現がコンピュータ用語だったりするとこも面白い。

例えば、”心破れて死にそうになっている”を「世界のパラメーターが不調だ。プロセス速度が鈍くなっている」と表したり。そんなところがツボにはまりました。

作者はアメリカ生まれでイスラム教に改宗し、エジプト人と結婚した女性作家さんで、イスラム教の風習や戒律も多く出てきて、そちらも興味深い内容でした。

特に登場人物の一人、モスクの長老が言うセリフ

「石油ですよ」長老は首をふった。「われわれを滅ぼすだろうと預言者が予見したもうた、地下に埋もれた大いなる呪われた富です。それと、国家という概念ーなんと恐ろしい。世界の中でもこの地域はそうした形で機能するようにはできていないのです。あまりにも多くの言語があり、あまりにも多くの種族がいる。人々を動かすあまりにも強い動機の背後にある数々の思想を、踵の高い靴を履いているパリの地図製作者立ちは全く理解することができませんでした。いまも理解していませんし、これからも理解することはないでしょう。神よ、彼らを救いたまえー」

本篇とはあまり関係ない箇所ですが、中東が不安定な理由ってまさにこれですよね。 

ひるね姫

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「009」以外はだいたい見ているはず、神山監督新作「ひるね姫」観に行っていきました。

観る前にチェックしたYahoo!映画の評価がぼろくそで、そんなに散々な出来なのか不安になってしまいましたが、そんなこともなく、背景も綺麗だし、ディティールが細部まで描き込んでいて、キャラがめっちゃ動く。これだけでもう大スクリーンで見られて大満足です。夢と現実を行き交う物語なので、これはあれのメタファーかしらとあれこれ想像するのがとても楽しい。特にSNSの炎上と拡散の表現が面白かった。「鬼」のメタファーは「事故」だと思ったんですが、エンシェンの名前の由来がありそうでなさそうでモヤモヤしています。炎(エン)神(シェン)か猿神かな?エンジンをもじっているのかな。

そしてなによりも主役の女子高生ココネの声がすばらしい。高畑充希のゆっくり、まったりした岡山弁がたまらんのです。甲高くて、早口のアニメ声が苦手なので高畑充希ほんと良かった、ココネの声をまた聞きたいだけでも、もう一度見たくなりました。

車の自動運転、VRヘッドセットに東京オリンピックと、ちょっと先の未来がわくわくします。後半せっかく東京に行ったのに、あんまりオリンピックで盛り上がってなさそうでしたね(笑)。新幹線とか檄混みだと思うんだけど。

パーマー・エルドリッチの三つの聖痕/フィリップ・K・ディック

パーマー・エルドリッチの三つの聖痕

 

ついにディックの円熟期作品にたどりついたー。ディック山の折り返し地点到達。

異常気象により灼熱状態の地球から、太陽系の他の惑星に強制移民させられた人びとは、あまりにも不毛な土地に絶望し、ドラッグにのめりこんで現実逃避をしているという設定。俺たちがこの未知なる惑星を開拓するぜーというような、フロンティア精神が最初からないという。毎度の事ながらいやな未来。

そのシュア100%のドラッグ「キャンD」に対して、実業家のパーマー・エルドリッチが持ち込んだ地球外のドラッグ「チューZ」が登場、この新作ドラッグは摂取者の時間と空間を侵食し、ぼろぼろにさせていく。

チューZでトリップして悪夢→やっと目覚めたと思ったらまだ悪夢の中という無限地獄がなんども描かれて、読んでいて酔いました。主人公もメイヤスンなのかレオなのか、どっちかわかんない。なんというか、酔ったまま読み終わってしまって、肝心なところを読み飛ばしてしまった気がします。そのうち再読しよう。

地球の長い午後/ブライアン・W・オールディス

地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)

 


これから数十億年後の未来は、次第に太陽が膨張し始め、地球上の水分は蒸発し、砂漠化するかもと言われているそうです。子どもの頃に本でこの事実を知って、怖いけど私の生涯に関係なし、でも怖いという不思議な気持ちになりました。

この物語は遠い未来、太陽が膨張し始めた結果、地球には激しい太陽光と放射線が降り注ぐようになり、地球の自転は止まり、植物は異常な進化を遂げて地上を覆い尽くして、人類は1/5ほどのサイズに縮むという設定。放射線あびると大きくなったり小さくなったりホントにするのかな?

そして生き延びた人類は、ジャングルの樹木の上で猿のように群をつくってひっそりと暮らしています。木上生活に逆戻りしてしまうのですね。

風の谷のナウシカの元ネタという話を聞いたので読んでみましたが、菌や胞子の腐海が巨大なジャングルになった感じ。ナウシカの「森の人」というよりは、ターザンに近いかも。獰猛な植物と虫たちの攻撃をかわしながらのサバイバル、登場人物もどんどん死んでいきます。平均寿命がとにかく短い。

どこまでも飛んでいく綿毛系の植物とか、月まで届く長い植物など、途方もない世界観は面白かった。主人公はキノコに脳みそを乗っ取られかけている少年ジャンプ系の猪突猛進な少年で、防御のために木の実を着ています。寝るときは木の実が邪魔でうつぶせになれません。想像するとこんなん?

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この少年を含む人間関係がいまいちのれなくて、惜しいなと思いました。