夜空と陸とのすきま

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ケルアックに学べ 「オン・ザ・ロード」を読み解く6つのレッスン/ジョン・リーランド

 

 

 

 

原題は「Why Kerouac Matters」(なぜケルアックが気になるのか)。そう、「オン・ザ・ロード」の良さがさっぱりわかんなくて、もやもやしていてずっと気になっているんだよ、と読んでみました。翻訳も上手いのか、とても読みやすかったです。

オン・ザ・ロード」の疾走感は好きだったけど、出てくる5つの旅はどれも失敗に終わり、ドラマティックなオチもなく、登場人物達の成長が目に見えてあるわけでもなく神様、神様、ようするにようわからん。さらに女の子を泣かせまくるガキな主人公達にイライラ。でもこの「ケルアックに学べ」を読み終えると、あるがままにハチャメチャな真実を語っている物語だからすごいんだと納得できました。

聖なる愚者 

この世界を見届ける

神様はクマのプーさん

 

このキーワードを意識して「オン・ザ・ロード」を読めばいいのだ。

それでもやっぱり自分に子どもがいると、たくさんでてくる不遇な赤ちゃんを想像しちゃってプリプリ怒りながら読むことになるんですが。(本書で、女性が読むと怒ってしまうと書かれていて、同じことを思う人はやっぱりいるのね)ああ、読む「年」と「タイミング」は読後感にかかってくるね。

ジャズ、ブルースについて詳しいともっと楽しめそう。

逆まわりの世界/フィリップ・K・ディック

 

 

 ここ10年ほどかけて書店と古本屋でディック本をせっせと買い集めてきたけれど、どうしても出会えなかった文庫の1冊がこれ。そしてAmazon経由の中古書サイトで1円でした。1円…1円なのか。送料の方が高いねん。でも古本屋をめぐるガソリン代を考えると、もう残り数冊は全部ネットに頼ろうかな。

ディックといえば、2018年1月に「ブレードランナー2」が公開決定!SF界にディックブームが再び(なんか7年に一度ブームがくるそうです)訪れるのか!?という嬉しい状況ですが、ディック初期から読み進めている私は、それまでに「電気羊」にたどりつきたいところ。ぐぬぬ、読むのが遅いわあ。

さてディック中期のこの「逆まわりの世界」ですが、「ホバート位相」という謎の時間逆流現象がおきている世界が舞台で、死者は墓から蘇り、生者はだんだん若返って子宮の胎児〜精子卵子まで戻り、食べ物は嘔吐で出しという設定。主人公は墓堀カンパニーの社長さん、いつもどおりお墓から「出して〜出して〜」とゾンビの様に生き返る人を助けている最中に、行方不明とされていたユーディ教始祖の墓を偶然見つけたことから、その復活した始祖をめぐって公安機関、ユーディ教、ローマ教会の三つ巴の暗闘に巻き込まれることに…というお話。公安機関が消去局という市民特殊図書館で、書物の記録を消去していくのが仕事というのが面白かったです、ディック版図書館戦争ね。

面白い設定なんだけど案外適当な感じで、どうしょうもないダメおっさんな主人公にも妙に親しみがもてていたのに、映画みたいに派手なアクションなんかできるか、現実はこんなもんだと言わんばかりの絶望的なオチ。でも何か心に残る作品、無常感が好きでした。

何ものも留まってはいない、万物は流転する。粒子が粒子にくっつくー物体はそのようにして成長していく、われわれが、その物体の存在を知り、名づけるまで。しかるのにその物体は徐々に分解をしていき、もはやわれわれの知らぬ物質となる。

細胞のひとつひとつがよりあつまりて人は人となり、花びらのひとひらがよりあつまりて薔薇は薔薇となる。細胞のひとつひとつが腐りゆき、そして、泡に映りし太陽が、はじけし泡とともに消えゆるがごとく、人もかく果てゆく

 

この文庫は80年代に出版。ニグ×という表現だと、今はもう再版できないんじゃないかなと心配。新訳はどうでしょう。

 

 

惑星カレスの魔女/ジェイムズ・H・シュミッツ

 

 

惑星カレスの魔女 (創元SF文庫)

惑星カレスの魔女 (創元SF文庫)

 

 商船の船長パウサートは、偶然出会った惑星カレスの魔女である幼い三姉妹を奴隷の身分から助けだし、無事にカレスに送り届けるが、銀河帝国とカレスの騒動に巻き込まれ…というスペースオペラ。おひとよし船長と三姉妹の次女ゴスの息の合ったコンビも楽しい。

私が中学生の頃に、母が表紙が宮崎駿というだけでジャケ買いしてきた記憶があります。母から面白かったよとオススメされて手にしてみたけれど、まだ難しくて(多分、漢字が)断念。

先日、久しぶりに古本屋で見かけて懐かしくなり買ってしまいました。その頃の母と同い年になった私、今なら読める、読めるぞ!

当時の新潮文庫版から創元SF文庫で新装版されても、カバーイラストは同じ絵。タイトル文字のドロップシャドウにDTPの進化を感じたり。

予知能力、テレポーテーション、サイコキネシスをそれぞれ持つ三姉妹。魔女というよりエスパーなんじゃね?と最初は思っていたけど、宇宙エネルギーの「クラサ」、そのクラサ・エネルギーが実体化して悪ふざけをしてくる神もどきの「ヴァッチ」、星の精霊「惑星霊」、そしてゴスが使うワープの「シーウォッシュ・ドライブ」などなど、次々と独特の用語が出てきて、SFなんだけどとってもファンタジー。展開も速いし、変な皇帝に老人工作員と女スパイと海賊とキャラクターも魅力的で、魔法で銀河な世界に引き込まれて、あっという間に読み終えました。

確かに面白かったよママン。と表紙絵を撮って母にLINEで送ったら、「何それナウシカ?」と返された。忘れてしまったのかよママン。

 

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)/大森望編

 

 時間SFのアンソロジー。時間ロマンス、奇想、時間ループをテーマにした13篇。これを読んでから、私はタイムスリップか歴史改変物の方が好きかもと気がつきました。ループものって主人公の心情に共感しすぎて辛くなってきます。外国ではマイナーだけど、日本人にはループものが人気ってなんでだろうね。

ということで、時間ロマンスに分類されるテッド・チャン「商人と錬金術師の門」が一番好み。チャンの「あなたの人生の物語」は「メッセージ」というタイトルで映画化され、いよいよ劇場公開まであと半年、めっちゃ楽しみです。

あの球体型宇宙船が煎餅の”ばかうけ”にしか見えなくて困ってしまいますが、(ばかうけにコラした画像もTwitterで見かけた気がする)すばらしい映画のはず!


映画 『メッセージ』 予告編

「商人と錬金術師の門」はアラビアンナイト風なんだけど、タイムトラベルの門が出てきます。古人曰くの「この世にはもとにもどせないものが四つある。口から出た言葉、放たれた矢、過ぎた人生、失った機会だ」はグサッと心に響きました。タイムトラベルによって、過去を変えることはできないが、より深く理解することはできる。決してハッピーエンドではないけれど、想いを知ることができただけで幸福だという結末の余韻にしみじみと浸れました。名作!

 

表題にもなっているF・M・バズビイの「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」
どこかで聞いたフレーズだと思ったら、ザバダックの「ここが奈落なら、きみは天使」なのか。今年の7月に吉良さんが突然亡くなって大ショックでしたが、小峰さん率いるザバダックはまだまだ続いていくようなので良かった。高校生の頃は毎日聴いてました。

ZABADAK・ここが奈落なら、きみは天使 PV

すべてはあなたにつがる時間へ

「ここがウィネトカ〜」もそんなタイムトラベル・ロマンスの物語。人生の様々な時期をランダムに移動しつつ、永遠の恋人と出会う。ロマンスね〜とうっとりですが、タイトルにあるジュディがその恋人ではないという衝撃。ちゃうんかい!しかも主人公の男と恋人のエレーンも、お互いすれ違いながら何度も別の人と再婚していて、もてもてですがな。

火星のタイムスリップ/フィリップ・K・ディック

 

 

 

火星の植民地では常に水不足。新鮮な食品も地球からの密輸に頼り、スクールでは悪い刷り込み教育をしていて、精神病患者が急増、生まれてくる子供達は自閉症だらけ。そんな不毛な火星で唯一巨額な富を築き上げている水利組合の組長アーニーは、国連の火星再開発の話を聞きつけるが…というお話。主人公はアーニーに振り回される技術屋のジャック。

火星なんだけど運河もあり、魚も泳ぐ。砂漠には原住民もいて原始的宗教もある。それは火星じゃなくて、アメリカのロス郊外のこと?だと思って読み進めるのが正しいのかも。自閉症や分裂症、この頃のディックは精神病の本を読みあさっていたそうで、タイムスリップのカギを握る少年の分裂症描写がとても細かい。私事ですが、最近の仕事で分裂症の人と少しだけかかわったことがありまして、本当にコミュニケーションをとることが難しく、自分もいろいろと勉強しないといけないなと痛感したところでした。

精神病とはなにかということが、おれにはわかった。それは外界の事物、とりわけ重要な意味をもつ事物にまったく無感覚になることだ、思いやりあるひとびとのいる世界から疎外されることだ。そしてそのあとにくるものは?恐るべき自我の喪失ーそれは内面世界と外部世界に分裂した世界、ゆえにどちらも他の世界には記憶されない。だがふたつの世界は存在し、それぞれの道をたどる。

くらくらして酔いそうな時間の歪み。今読んでいる時間軸は夢なのか現実なのか、わからなくなる(…ので眠たくなるけど。実際寝落ちしまくったけど)ディック特有の描写が続きます。

 技術者であるサラリーマンの主人公(ワーカーホリック気味)も、その奥さんも、自分を見失った結果ふらふらと浮気をしてしまい、家庭崩壊でぐらぐらなんだけど、最後はなんとかもちこたえてくれて良かった。旦那さんが仕事にひたすら没頭するでなく、家に帰って奥さんをハグすればすべて解決するんだよ。

あんたがたみたいに過酷な仕事を強制する人間が、分裂症者を作るんだ

精神科医が権力者アーニーに吐き捨てるように言う言葉にうなずいてしまいました。