夜空と陸とのすきま

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折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー/ケン・リュウ編

折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

『紙の動物園』各SF大賞を総なめにした短編の名手ケン・リュウが精選し英訳した、中国若手SF作家達の短編アンソロジー。SFって大体が未来の話でもあるけれど、現代の写し鏡であり、その国の社会問題が見えてくるのが面白いなあと改めて感じました。印象深かったのは、老後介護がテーマの夏笳『童童の夏』と劉慈欣『神さまの介護係』。『童童の夏』に出てくるロボットの遠隔操作で介護しあったり、将棋を指したりする老人達や、病室で終末を迎える時に天井のスクリーンには公園で遊ぶ孫の視線を写し出すとか、いいなぁすぐにでも実用化されてほしい!祖父が亡くなった時に最期に見える光景が、あの無個性な天井なんてあんまりだと思っていたので。『神さまの介護係』はブラックジョークが効いていて良かった。

表題作でもある郝景芳の『折りたたみ北京』は、経済や労働者階級の問題を扱い、それでいてエンタメ度も高く素晴らしい短編でした。

華氏451』と『一九八四』の現代アレンジ版のような馬伯庸の『沈黙都市』、焚書の次は監視システムと言語統制。

そして陳楸帆『麗江の魚』のこのセリフにグサグサきました。もうおいらは虫の息…。

 

自分をすり抜けていく感覚がいやで、しばしば不安になるでしょう。世界が毎日変化していく。自分は毎日年老いていく。なのになにも達成できていない。砂をつかまえようとするのだけど、力をこめるほど砂は指のすきまからこぼれ落ちて、後にはなにも残らない…。