夜空と陸とのすきま

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山怪 山人が語る不思議な話/田中康弘

山怪 山人が語る不思議な話

フリーランスのカメラマンである作者が登山者、マタギ、山沿いに住む人々を全国津々浦々渡って取材をし、まとめあげた山の不思議話。オチもなく、タヌキかキツネに馬鹿されたなどなど、民話になる前の原型のような話がたくさんあり、想像力をかき立てられます。

私自身は山に囲まれた盆地に住んでいますが、さほど山に行くことはないです。でも何回か道を間違えて山道に入り、前後も対向車も無しで淋しい山道を運転していくなんとも言えない怖さはわかる。でも「山怪」では普段登り慣れた山道でも不思議なことに出会う話が出てきて、知ってても知らなくても山は怖い。異界とか恐れる存在があるほうが、人も傲慢にならずにすむのか。

名前も無く姿形も何だかよく分からないという状態が、実は人間にとって最も厄介で怖い存在なのだ。取りあえず名前があれば、その分、恐怖心が減ったのである。

あとがきから引用しましたが、確かに名前があったほうが怖くない。水木しげるの妖怪大辞典は名前がある妖怪だから怖くない。

山形県村山市の奇祭「むじなのむかさり」は男女が入れ替わった花嫁行列は、大正時代に「キツネの嫁入り」を題材に始まったそうですが、たいまつを焚いて山の集落に登っていく行列は狐火に見えるので、「山怪」に出てくる体験談のように、山で狐火を見た人が始めたのかなと思いました。


むじなのむかさり 山形県村山市楯岡馬場地区 2015年11月8日