終末世界で人類最後の生き残りとなった女性、ケイトの独白手記。
終末SFかと思って読み始めたけれど、内なる宇宙への旅的なお話で実験小説だった。
まずケイトとは何者か。息子がいたらしいが亡くなり、夫と別れ、母を看取り、他に生存者がいないか探すため車で世界中を回っているらしい。彼女は画家なので古典・美術・音楽・演劇に造詣が深い。そんな日常を送りながら考えたことをずっとタイプライターで打っている、その独白文が本書。
ケイトは住処に飽きてきたら家に火をつけ、ルーブル美術館でモナ・リザを焼き払い、ローマのスペイン階段で数百個のテニスボールをまき散らしたりとかなりキテいるというか狂っている。
文章のほとんどを占めとめどなく続く芸術のうんちくは、世界で1人しかいない人間が孤独で無音に耐えきれず、必死にタイプライターを打つ音を聞きたいだけがために、思いついた事をひたすら打ち続けているのか。これを蝉の声満載の暑い日に読むとかなりトリップできます。もうレンブラントもファウストもオデュッセイアもブラームスも=蝉の声だね!
最終的にケイトを創造した作家本人の姿がちらっと見えて、また彼女の内なる宇宙に沈んでいく。まさに実験小説、不思議で奇怪な読書体験。
サルバドール・プラセンシアの『紙の民』を思い出しました。排泄物の描写がやたら出てくるところも似ている。
人は一人暮らしをしていると、水辺の眺めを好むものだ。