夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

リンカーンの夢/コニー・ウィリス

リンカーンの夢 (ハヤカワ文庫SF)

南北戦争の物語を書き綴る作家の資料調査助手ジェフは、あるレセプションで旧友の彼女であるアニーと出会う。精神が不安定なアニーは毎晩奇妙な夢に悩まされていた。その夢は南北戦争の光景の中で、誰かと対話しているのだ。アニーの夢の謎を解くために2人は古戦場跡を旅するが…という歴史SF。

コニー・ウィリス初期の小説で現在は絶版のところを古書店で入手。でも、私が小学生の頃からつけている(変態の自覚あり)読書記録によると、高校生の時に図書館で借りて読んでいたようだ。えー全然覚えてない。記録してても感想なしだとホントに忘れますね。

リンカーンの夢」とは不思議な夢、予知夢という意味合いで使っていて、実際に作中でアニーが見る夢は過去にリンカーンと敵対した南軍のリー将軍がみている夢。その夢は大事な人や多くの兵を救えなかった後悔ばかり。敗戦の将とくると、日露戦争の乃木将軍や西南戦争の西郷どんをイメージしながら読みました。これはアメリカ版「耳なし芳一」だな!

メンヘラなアニーを押し倒したいのに我慢して最後まで紳士的なジェフ。切ないラストまで読むと、今までセクションの最初に出てきた南北戦争の話が伏線だと気がつき、読み返していきたくなります。

現在のアメリカでは、リー将軍銅像が黒人差別や奴隷時代の象徴として、撤去運動が起こるなど揉めているニュースを聞いたので、「リンカーンの夢」はいい話なんだけど…複雑な気持ちになりました。

七人のイヴⅠ/ニール・スティーヴンスン

七人のイヴ ? (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

突如、月が7つに分裂し、その月のかけらがやがて衝突を繰り返し、2年後には無数の隕石となって地球に落ちてくると判明する。その結果、5千年は続く灼熱地獄が起こり、地球上の全てが不毛の地となるだろう。人類の種を残し、宇宙に避難するため各国政府は協調し、国際宇宙ステーションを核とした「方舟」を作ることになるが…というお話。宇宙ステーションのロボット工学者ダイナと、地球で科学啓蒙家として人気の天文学者デュボアを軸に話が進む。

全三冊で完結の予定だそうで、一巻目は宇宙ステーションの増長目指して各国がロケットをバンバン打ち上げ、ひたすら登場人物が増え途中でわからなくなりつつも、人類全滅まで2年のカウントダウンから1年目で終わるので地上の混乱もまだまだ少ない状態。これが二巻目には阿鼻叫喚の混乱が始まるのかな。

カウントダウンにスリルがあり、綱渡りな状態の描写が上手い。それも作者の科学的検証がしっかりしているからリアルに感じる。ちょっと言い回しが長いとこもあるけれど。

「七人のイヴ」ということは、これから七人の女性が主役になっていくのだろうか。

主人公ダイナはダクトテープ片手に仕事に励む頑張り屋、よく出てくるアメリカンジョークは意味不明だけど、プロフェッショナルでさばさばしたポジティブな女の子なので、悲壮感を感じられず読めた。

2年後に絶滅という事態、私なら家にこもって蔵書をひたすら読みふけるか、故郷の海辺の街に帰るか。でも流通止まって飢え死にしそうだ( ̄▽ ̄;)

この事態に株が暴落するのはわかるけど、飛行機が普通に飛んで、ホテルのスイートなど運営が続いているのが謎でした。

まあ、細かいことは置いといて、続きに期待です。

 

蔵書の苦しみ/岡崎武志

蔵書の苦しみ (知恵の森文庫 t お 10-3)

 

昨年から暇をみつけては、googleスプレッドシートで蔵書記録を付けていて、マンガを省くと大体600冊は蔵書があると判明。うち半分以上が積ん読。そんなに積ん読本があるにもかかわらず、月に何度も本屋と古本屋で本を買うので本棚がぱんぱん。この蔵書をいかにすべきか悩んでいると、この本のタイトルが目につきました。
著者は「ざっと二万冊」の蔵書を持つらしいフリーライター・書評家の岡崎武志氏。自宅に二万冊って、思わず「ふぇ?」と変な声が出てしまう。寝室もリビングも階段も廊下も本が進出してくる…そこまで増えたらデータベースソフトで管理とかもやんなっちゃうだろうな、などとヘッドバンキングしまくりな共感の多い内容でした。

結論から言えば「手放せ」なんですが、ただ某中古書店大手に売るよりは、一箱古本市や自宅でガレージセールなど、本好きの人たちとふれ合いながら楽しく手放していこうとのこと。文庫版追加の後日談によると、年を取ると楽しかった古本市出店も億劫になるとか、きゃあ怖い。

私も蒐集してきたSF本でSF書庫の夢もあるけれど(お恥ずかしながらあるんです)、SFにまったく興味がない娘に残しても迷惑だろうし、多分もう二度と読み返さないという本は積極的に手放して、本棚のシェイプアップもすべきですね。

かと思いきや著作権が70年に伸び、青空文庫入りする前に世間から忘れられ埋もれてしまう名作も今後は大いにあり得ると考えられ、手放すのが怖くもあります。ホントに70年に延長なんて、なんてことをしてくれたんだろう(-_-)70年だと当時の作家と関わった関係者はほぼ鬼籍に入るだろうし、文系の研究と論文も大変になる。文化を滅ぼす気かっ!

 

 

モロー博士の島/H・G・ウエルズ

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色々と掛け持ちの仕事をしてしまい、多忙の中ようやく読み終えたSF小説。ほんまに自分もモロー博士の島に閉じ込められた思いでした…。

大西洋で海難事故にあい、漂流していた主人公。8日目に通りかかった船に助けられたが、その船には怪しい白髪の男と猛獣が。そのまま孤島に連れて行かれて…というお話。

1日1ページ読みはじめてすぐ撃鎮。疲れすぎて文字が追えなかった。ドクターモロー、有名なタイトルすぎて知ったかぶりで読んだと錯覚してしまうパターン。古典名作だけあって文明社会への風刺など、押さえるところはしっかりしていて素晴らしい。特にラスト4ページ、都会の人間も獣人も変わりなく、宇宙の壮大さにだけ救われるとは。自分の内なる獣性って何だろうなと考えさせられました。

シビュラの目 ディック作品集/フィリップ・K・ディック

シビュラの目―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)

ディック60年代の黄金期の中・短編集。なにかと長編の作品と設定がかぶっているので、絵画で言えば大作のための素描・エスキースのような感じを受けました。

・宇宙の死者

人は死ぬと急速冷凍され半生者として霊安所に保管、半生期寿命の1年分を小出しに1〜2時間だけ蘇生して、死んでも家族と会話ができたりするという未来。この設定は『ユービック』にも出てきたね。突然死ぬのがいいのか、少しずつ死ぬのがいいのかなど哲学的なことは置いておいてサスペンスが始まる。

 

・聖なる争い

アメリカのすべてを委ねる戦略コンピュータと修理屋のお話。コンピュータが原始的すぎて和む。磁気テープ:-)

 

カンタータ百四十番

どこかで読んだと思ったら、まんま『空間亀裂』でした。あの、医者が時空の亀裂に愛人を隠すやつ。1960年代に臓器売買を描いていてすごい、ぞっとします。

 

・シビュラの目

晩年の『ヴァリス』四部作の前に書かれ、ディックの死後に発表された短編。ディックが神学にはまっていった、わけわからん四部作と名高い『ヴァリス』までまだたどりついていないのだけど、この『シビュラの目』を読むと、雑誌「ムー」の世界観のような、あーディックはこれからそうなっていくんだと予習ができました。神の神秘、生まれ変わり、予言とか霊感とか。(こう書くと某新興宗教のアニメ映画のテーマみたい)こうゆうのは嫌いじゃなくてむしろ心地よかったりするんですが、自分の価値観、宗教をこれに委ねると、以後は自分で物事の判断をつけられなくなり、ラクにラクに生きてしまいそうで怖い。『シビュラの目』の不思議なムードに後ろ髪をひかれながらも、現実は泥臭いところで踏ん張っていきたいなぁ。

夢というものは、何千年もの昔にさかのぼる人類の集合的無意識の一部ではないかという新しい理論もあるのよ…つまり、夢のなかであなたはそれと接触するわけね。だから、もしその説が正しいとすると、夢は根拠があるし、とても貴重な価値のあるものなの