夜空と陸とのすきま

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スローターハウス5/カート・ヴォネガット・ジュニア

スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)

けいれん的時間旅行者であるビリー・ピルグリムは、自らコントロールはできなない時間の中に解き放たれ、自分の生涯の未来と過去とを従来する。歩兵としてヨーロッパ戦線におもむき、ドイツ軍の捕虜となりドレスデンの無差別攻撃を体験したWW2、アメリカに帰国して大富豪の娘と幸福な結婚生活、そしてトラルフォマドール星人に誘拐され、動物園で見世物にされたり…というお話。

私の祖父が死ぬ間際に、太平洋戦争で出兵し中国奥地で毎日上官に殴られていた記憶に苦しんでいたことや、祖母も末期は痴呆症になり、蝶よ花よと可愛がられた女生徒時代に戻っていたことを思い出しました。ということは、けいれん的な時間旅行は、誰もが体験することなのかも。

「子どもは3歳までに一生分の親孝行をする」というのも、理解できる。私はこれからもずっと、幼い娘との甘い蜜月を何度も何度も思い出し、いつでも幸せな気持ちを味わえるから。

 

人生の半ばを過ぎるころ、トラルフォマドール星人がビリーに助言することになる。幸福な瞬間だけに心を集中し、不幸な瞬間は無視するように—美しいものだけを見つめて過ごすように、永劫は決して過ぎ去りはしないのだから、と。

 とはいえ、ビリーが巻き込まれるドイツのドレスデン空爆は、目を覆う酷さでした。So it goes.(そういうものだ)と、ただ受け止めて流すしかない無常観。ヴォガネット自身の反自伝的物語ということですが、凄まじい体験です。人間が同じ人間に対して、ここまで残酷になれてしまう戦争は、本当に嫌だ。

先日、1972年制作の映画もNHKBSにて放送されました、録画しておいたので近々見たい!

 

ガイコツ書店員 本田さん/本田

ガイコツ書店員 本田さん (1) (ジーンピクシブシリーズ)

レンタルコミックで数合わせのため、なんとなく手にとって借りてみたのですが、あまりにも面白くて、翌日本屋に買いに走りました!

書店員として働いている本田さんの実録コメディ。本田さんはガイコツだし、他の店員さんも紙袋やヘルメット、お面、などの仮装かぶり物ですが、そこはキャラがわかりやすくてグッドです。本田さんがおつとめしている本屋さんはフロアがたくさんあって、外国人客が大勢で随分キャラが濃いお客さんばかり、ドコデスカソコハ…。

今時のコミックスは趣向が細分化されていて、かつ出版社も多くて、本屋でコミック棚を見ても何がなんだかわからないのですが、やっぱり本屋さん側も並々ならぬ苦労があると知りました。とても重労働で多忙なのに、常に情報通でなければならない宿命も。

本田さんは、推測で深夜に漫画を描かれているからか、始終テンションが高くて、漫画的な表現がとても達者な方です。ガイコツが愛らしいなんて、あさりよしとおの「ワッハマン」以来だわ。

ブレードランナー/Blade Runner

ブレードランナー ファイナル・カット(字幕版)

ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作とした名作映画。

これまた久しぶりにレンタルで借りて見返しました。学生の頃に見た時は途中で寝ちゃったのです。テンポが悪いわけでもないのに何でだろう。

今ではWikipediaで調べたらうんちくがいっぱい、そして町山さんの名著「ブレードランナーの未来世紀」(超オススメ!)も合わせて読むと、より深く理解できます。ということは学生の頃は何一つ解説なしで見たので、チンプンカンプンだったんだと思う。ラストの折り紙がユニコーンだったなんてわかんねぇよ。 

解説を読んでから見るとまったく印象が違いました。ハリソン・フォードは実に嫌々やってるのがよくわかる。彼が何の為にレプリカントを狩っているのか、わからないので(まあ仕事だからなんだろうけど)感情移入しづらい。対してレプリカント達や博士、セバスチャンなどの脇役は、とても魅力満載で良かったです。アパートの建物もかっこいい!

この作品が、その後のクリエイターに与えた影響は計り知れず。「サイレントメビウス」なんてもろですね。そういえば、最近の近未来物は酸性雨降ってないねぇ。

 さて予習は済んだし、10月公開の「ブレードランナー2049」が楽しみです。

 

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?/フィリップ・K・ディック

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

人類が移住した火星から、地球に逃亡してきたアンドロイド達を狩る賞金稼ぎデッカードのお話。

ディックの初期作品から読んでいって、ようやくたどり着いた円熟期の名作「電気羊」。高校生の頃に県立図書館で初めて手に取って読んでから、もうウン十年目。それまではアシモフ、クラーク、ハインラインの世界三大SF作家の本ばかりを読んでいたけど、「電気羊」でディック節に衝撃を受けたんだよな〜、色々と思い入れのある作品です。

再読してみると、若い頃に読んだ時と印象がだいぶ違う。近未来の地球は、放射能に汚染されていて自然生物が貴重な存在であり、主人公デッカードは、集合住宅の屋上で人工羊を飼っているが、新興宗教にハマっている妻を振り向かせたいのと、自分のステータスを上げたいがために高価な本物の生き物を飼いたくて、逃亡アンドロイドをひたすら狩って賞金を稼ぐのです。この人間そっくりのアンドロイドと関わるうちに、自分は何者なのか、実は「にせもの」なんじゃないだろうかと思い悩みだす主人公に、10代の不安定期だった自分は共感しまくっていましたが、今読み返すと、その辺はあまり共感しない、なんでだろ。

アンドロイドを狩る→大金が入る→うわーい何の動物を買っちゃおうかと、すぐにヨレヨレのカタログを引っ張り出して、ページをめくる主人公の描写の方がかわいいなと思ってしまいました。アンドロイドと死闘を繰り返し、地獄めぐりをした主人公も、最後には偽物も本物でもどっちでもいいじゃん、思いやりの心があれば本物!という結論にたどり着き、妻の元に帰るハッピーエンドが心地好いです。私も電気羊を飼いたい。

メッセージ/Arrival

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劇場で字幕版をみる。

世界中に突如現れた12機の謎の宇宙船、言語学者の主人公ルイーズは地球外生命体(ヘプタポッド)とファーストコンタクトを図り、未知なる言語を解読し、コミュニケーションを取ろうと試みる。彼らが地球に来た理由は一体何なのか。一方、宇宙船の到来により世界経済は大混乱に陥り、買い占めや暴動を起こす人々。しびれを切らした各国は総攻撃の戦闘準備に入り緊張感がたかまってゆき…というお話。

原作よりも緊張感が高くて、重厚で神秘的なサウンドの効果もあり始終ドキドキしてしまいました。

映画冒頭のルイーズの娘が誕生し、成長し、病死してしまう「あなたの人生」の記憶場面から、もう涙腺崩壊。自分も娘がいるので、これはどうしようもないのです。色々思い出すわ。

終盤、ヘプタポットの言語を解読するうちに、ある力が身についてゆくルイーズ。(言語を理解することは、その世界観と思考も理解する)それは人類を新たな段階へ導くと同時に、ルイーズの大事な人を失う(ことが予見できる)力。その力を授けるヘプタポットのようやく現れた全身像が、まるで死神のように見えるシーンなんて、ものすごく鳥肌が立ちました。うおーやられた!

テッド・チャンの200ページほどの短編を、どんな風に映像化するのかずっと楽しみにしていましたが、こんなに素晴らしい作品にしてくれて、ヴィルヌーウ監督ありがとう!これは10月公開の「ブレードランナー 2049」も期待しちゃいますよ。