夜空と陸とのすきま

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帰ってきたヒトラー/Er ist wieder da

帰ってきたヒトラー [DVD]

あのヒトラー総統が1945年の自殺後、2014年のドイツにタイムスリップしてくるお話。テレビ局社員のゼンゼンブリンクは、未来に来てしまって混乱しているヒトラーと偶然出会い、本物そっくりさんだと思い込み、コメディアンとして一発当てようと企む。

ゼンゼンブリンクの部屋に、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のポスターが貼ってあってほほえましい。そういえば、ヒトラーがタイムスリップしてきた時に、火がくすぶる状態もあの映画へのオマージュに間違いない。

戦後70年たったドイツを旅するゼンゼンブリンクとヒトラー。行く先々でインタビューすると、町の人は現状の政治や格差、移民問題にいらだっていたりする。ここで「自虐史観にはうんざり」と言い出すドイツ人もいるんだなと、ちょっとショック。

この旅するヒトラーを見ているうちにだんだん好感をもってきてしまう、ホントにうまい撮り方。チャーミングなところもあるんだなとか、頭の回転がよい演説に聞き惚れてしまったり。

そしてラスト近く、認知症のおばあちゃんが急にはっきりとして「あんたのことは忘れない、私の家族をガス室に送ったんだ。最初はみんな笑っていた。でももう二度とだまされない。」と言い放つ台詞で、ヒトラーの怖さを思い出しても全てが手遅れっていうオチは、いやはや怖かった。自分もまさにチョロい民衆の一人でした。

知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術

知らなきゃよかった 予測不能時代の新・情報術 (文春新書)

文春新書の池上彰佐藤優対談集、第4弾。あまりにも世界の動きが速すぎて、この対談集もホントに生もの。

私はTwitterを楽しく閲覧してますが、SNSはとても居心地がいいけれどエコーチャンバー現象が怖くて、フォローしている人の考えに陥りやすい、考えに隔たりが出る、情報の正確性を問わなくなるなど、閉鎖的な狭い世界にいるんじゃないかと時々不安になります。
ryukyushimpo.jp

なので、たまにはこの二人のネットに出回っていないであろう意見をガツンと読むことで、別の視野を確保してみたくなります。

今回の対談集では、なぜ急いでカジノ法案を通す必要があったのか、中東(エジプトとイラン)の分析が興味ありました。めまぐるしく変化する世界に対応するために、独裁国家ばかりになるのは理解できたけど、でもあほうがトップなのは辛く耐えがたい。チェンジ希望。

新九郎、奔る!/ゆうきまさみ

新九郎、奔る! (1) (ビッグコミックススペシャル)

戦国大名の先駆け、のちの北条早雲となる伊勢新九郎の物語。

月刊スピリッツは近郊の本屋で見かけないので、ずっと単行本化を待っていました。

私は高校で日本史を専攻しておらず、戦国より前の中世は、同じような名前の人物が多くて混乱しやすく苦手でしたが、この漫画はとにかくわかりやすい!あの混沌とした応仁の乱を伊勢側からの視点で。官職名に名前のルビが振ってあるし、人物の描き分けは上手いし、多くの台詞が説明的にもかかわらず、なぜか夢中になって読める。特に文正の政変で、千代丸(新九郎)の伯父や両親が都落ちするのに、緊迫感あるなかでも随所に笑いを突っ込んでいて最高に面白かったです。漫画の成せる技はすごい。次巻も楽しみ。

 

わかりやすい読みやすいとの評判で、買ってはみたものの、積ん読中の呉座勇一著「応仁の乱」も、今なら読める!読めるぞぅ。

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

 

 

まぼろしの「日本的家族」/早川タダノリ(編著)

まぼろしの「日本的家族」 (青弓社ライブラリー)

自民党がやたらと押し付けてくる三世代同居、サザエさん的な日本の家族とは。7名の著者による総ツッコミ検証。読めば読むほど確かにまぼろしに見えるけど、うちの家族がまさしくその「田舎の」「伝統的な」「家父長制的ヒエラルキー」家族モデルに当てはまっているので泣けてきます。義母と嫁の犠牲の上で辛うじて維持されていることに気がついて!→義父よ。旦那が家事育児を積極的にしてくれるので辛さは半減ですが、家父長制的ヒエラルキーってやつ、娘の代には壊滅してほしいな。

現行の憲法24条はなんて素晴らしいんだろう。起草者のエピソードに感動しました。

どんな生き方をしても、それぞれ個人が自分の生をまっとうすることが、活力ある社会(そして税制)の基盤であるはずだが、例えば結婚していない、子どもがいない、などで自分を否定されたように感じ、肩身が狭い思いをする人がいる。それは決して日本の伝統ではないし、世界の常識でもない。

リアル・スティール/リチャード・マシスン

リアル・スティール (ハヤカワ文庫NV)

米ドラマ「ミステリーゾーントワイライト・ゾーン)」の脚本家であるリチャード・マシスンの短編集。といっても私は「ミステリーゾーン」をリアルタイムで見ていないけど、週刊少年ジャンプ連載の「アウターゾーン」は読んでいた世代なんですが、オチが効いていてよくまとまった名作揃いの短編集でした。印象に残ったとこだけ感想を。

 

表題作の「リアル・スティール
映画版はまだ観ていないけどこんな話だったのか?男の子とか出てこなかったっけ?と確かめたくてWikipediaを検索したら、映画のオチまで詳細にばらされてしまったので、渋々DVDをレンタルしてきました。明日にでも観ます。
この原作は全く違うお話だった。老いた主人公はフルボッコにされて、くたびれ損だけで、泣けてくる。

 

「秘密」
婚約者が結婚前に教えてくれた先祖代々伝わる秘密とは…。
実は明智光秀の子孫だったとか、ブルートゥスの子孫だったとかで色々作れそうです。

 

「象徴」
ブラッドベリディストピアSF「華氏451度」に影響を受けて書いた短編だそうで、すべてが予定通りに進められている社会、社会規律だけを守り、変化を排除する。ただ、ただ閉塞感が漂うお話。

「おま★★」
短編集一の問題作。タイムスリップした未来の地球の食事とは、すべてチューブで摂取する状態だった。そこに過去から主人公が持ち込んだ食料を、隠れてむさぼり食う未来人の描写、禁断の食事をとるおっさんがとてもいやらしくていやらしくて、キモイ描写がピカイチでした。爆笑SF。邦題も際どい。

 

「最後の仕上げ」
これこそ「アウターゾーン」でミザリーが「◯◯は怖いですねぇうふふ」とか言って終わりそうなやつ。