夜空と陸とのすきま

ゆるいSF脳。SF小説1000本ノックを目指しています

最後の物たちの国で/ポール・オースター

最後の物たちの国で (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

行方不明になった兄を探しに、ある国へ入国したアンナ。その国は秩序が崩壊し、人々の心は荒み、日々物がなくなっていく極限の状態。アンナは生き延びて脱出できるのか。アンナからのあてもない手紙という形式で、物語が紡がれていくディストピア小説

雑誌BRUTUS「危険な読書」特集で紹介されていて気になっていた本。隣町の図書館の閉架で見つけた単行本は、初版なのにスピンが動いてない!ってか誰も借りてないんかい〜どれだけ長い期間閉架にあったのかしら。単行本の方は、表紙に描かれているボトルシップが読後の希望を少し感じさせてくれて好きです。

物語の前半は荒れた国の現状、誰も信じられない街の様子が延々と描かれていて苦しくなります。でもシリア内戦や焼け野原となった諸外国の地域は、今でもこうなのかもと現実と地続きに思える。後半は砂の城を築くような、救済してもいっこうに報われなく絶望と疲労だけが溜まっていく。最後はどうなるのかわからないままですが、こうしてアンナの日記を読めているということは…希望があると思いたい。

 

わかるでしょう、ここにいるとどういう状況に立ち向かわされるかが。ただ単に物が消えるだけではないのです。ひとたび物が消えると、その記憶も一緒に消えてしまうのです。脳のなかに闇の領分が生じ、その消えた物をひっきりなしに喚起する努力でもしない限り、またたく間に永久に失われてしまうのです。

 

トム・ハザードの止まらない時間/マット・ヘイグ

トム・ハザードの止まらない時間 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

歳を取るのが非常に遅い「遅老症(アナジュリア)」の男性、トム・ハザードの437歳人生回顧。16世紀末に生まれ、魔女狩りシェイクスピアとの出会い、ペスト流行、太平洋航海、戦争と様々な時代を生きつつ、生き別れの娘マリオンを探す、愛と孤独の物語。

刊行前にベネディクト・カンバーバッチ主演で映画化が決まったそうなので(青田買いかよ)、読みながら脳内でカンバーバッチが優雅にリュートやピアノを弾くのですよ、ええな〜映画制作がポシャらないことを祈ります。

過去と現代をいったり来たりの構成なので、時間枠が立体的になって面白かったけど、途中の中だるみが少々あり。映画はテンポ良く進むといいですね。

この本の前に、30代後半で壮絶な死を迎えた開発者の話『あなたのための物語』を読んでいて、今度は不老不死の話。ギャップが…。「不死は醜い」というサマンサの言葉が頭に残ったまま読み始めました。

歳を取らないということは、無限に本が読めていいじゃんと羨ましかったりしましたが、この物語のトムは400年分の記憶と後悔でストレスが溜まり、ひどい頭痛に悩まされる。「止まらない時間」は辛いだけ。過去に溺れ、未来に脅えるのをやめたときに、はじめて時間は止まり、時間から解放され自由になれる。

 

あなたのための物語/長谷敏司

あなたのための物語 (ハヤカワ文庫JA)

人工神経制御言語・ITP開発者のサマンサは、不治の病のため余命半年を宣告されたが、残された時間をITP商品化のための難題解決に注ぎ、命を賭けて仕事に打ちこむ。サマンサを見守る仮想人格≪wanna be≫は彼女のために小説を書くというお話。

初っぱなからサマンサの壮絶な死を描き、半年前に戻って死に向かうサマンサと≪wanna be≫のやりとりを丁寧に紡いでいきます。オチが分かっているとはいえ、全内臓の炎症を起こし吐血しのたうち回るサマンサが痛々しく、こちらもお腹が痛くなってきたりで結構読むのがつらい。読後の満足感も素晴らしいお話だったと思いましたが、正直手もとに置きたくないくらいのトラウマ。いずれ一箱古本市あたりで手放しますんで、次の人に届け!

舞台となる西暦2083年の本は、パブリックドメインとなった小説を簡易製本機で文庫本にして読む時代。「無料であることより、時間のほうが大切だと悟ったとき、サマンサ・ウォーカーは小説を読むのをやめた」という出だしから、サマンサが大好きだった読書を忌み嫌う理由がぽつぽつと出てくる。

「絶対必要なわけではないから、好かれなければ気に懸けてももらえない。みんな物語と同じよ。本当は必要ないから、自由でいられて、ときどき特別な物に見えるのよ」

十五歳のころ、実家で物語を読んでいた日々がよみがえった。彼女は”物語”で人生を学んだ。死が恐ろしいのも、それ煽る”物語”が多すぎて印象が焼き付けられたせいだと思った。そして、生を輝かせる“物語”が、必要以上に命を惜しませるのだと恨んだ。

しかし、最後に≪wanna be≫が書いた“自分自身のことばから解放されるため”の本をかかえ、むさぶるように読みふけるサマンサで終わる。決してひとりぼっちで死ぬのではなく、≪wanna be≫の書き続けてきた物語と一緒というのが泣けてくる。

 

この本を読んでいたときに、娘から「ド嬢3巻の最初に出てきた本だね」と言われました。10代の記憶力恐るべし。漫画の中でSFオタクの神林は絶讃してたけど、高校生でこれを読んでトラウマにならない?私は歳を取るごとに死が見えてきて怖いよ。

 「ド嬢3巻」では合わせてトルストイの『イワン・イリイチの死』も『あなたのための物語』とプロットが同じだと紹介されています。宿題の読書感想文に「死」を書く長谷川さんすごい。

 

SFマガジン700【海外篇】創刊700号記念アンソロジー

SFマガジン700【海外篇】 (ハヤカワ文庫SF)

大御所SF作家の短編よりどりみどり贅沢なアンソロジー。さすがSFマガジン創刊700号記念です。ゆるいSF脳なので、ハードな物は読んではみたけど全く理解できておらず。特に初めてグレッグ・イーガンの短編を読んだけれど、一生懸命わかったふりをして読み通しました。わからないところが良いってみんな言ってたのがわかった。

印象が強かった短編の感想

 

○『危険の報酬』ロバート・シェクリイ
テレビ番組はやらせに飽きて、高額賞金をかけギャングから追われる命がけの脱出ゲームを企画。ラジオやテレビの情報は、逃げる挑戦者を追う。社会風刺が効いてるのは、味方のはずの聴衆が、挑戦者の敵に回るところ。うまい!防犯カメラやドローンを駆使すれば今にも実現されそうで怖い。

 

○『夜明けとともに霧は沈み』ジョージ・R・R・マーティン
「すだまのすみか」という惑星の、霧海に浮かぶ霧中楼閣ホテルとオーナーの物語。私は学生の頃に中国を旅して黄山にほぼ一日かけて登り、山頂のホテル(なんでこんな険しい山のてっぺんに豪華なホテル!?とかなり驚いた)に泊まったことを思い出しました。あれも雲の上のホテルだった。地球にもあるのです。

 

○『江戸の花』ブルース・スターリング
サイバーパンクの巨星が、てやんでぇなお江戸の物語を書くなんて。スターリングの『スズキマトリックス』読まなきゃな〜。

 

○『いっしょに生きよう』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
頭かち割って死んじゃったら、そこに植物が根を張り生き返るっていう話。全然違う話だけど、昔読んでた漫画『ぼくの地球を守って』の木蓮さんが歌ってるシーンが被る。

 

○『ポータルズ・ノンストップ』コニー・ウィリス

1番好きな短編は、やっぱりウィリスでした。観光地など何もないド田舎で、謎のバスツアーに乗り合わせてみたらという話。ありきたりの牧場も、情熱的なファンから見たら感涙の場所。まさに聖地巡礼。読書好きにとっても、とても心温まる話。

ぼくも未来に興味があります。あなたが未来について語った言葉が好きなんです。SFが道を照らし、科学が未来を現実なものにするという言葉が

最後のウィネベーゴ/コニー・ウィリス

最後のウィネベーゴ (河出文庫)

SFの女王コニー・ウィリスの短編集。コニー・ウィリスといえば、上下巻の分厚い長編作家というイメージで、まだあまり手を出していなかったのですが、このベスト短編集面白い。ウィリス中毒になるってわかる、笑いがあるって大事。

 

○『女王様でも』
「そんなに女性問題(Women's Issues)を書いてほしいなら書いてやろうじゃないの。女性の問題そのもの(The Women's Issues)を書いてやる」と啖呵を切って書いたらしい、フェミニズムSF。そんなジャンルありか〜、まさか月経を主題にしたSFがあるとは思いもよらず。あの40年間続く月一の苦しみから解放される近未来、月経をコントロールできたら…色々と考えさせられました。

 

○『タイムアウト』 
旦那は多忙で帰って来ず、ワンオペで娘達の送り迎えにPTA役員でてんやわんやのマルチワーカー主婦のちょっといい恋いバナ。SFといえば、近未来、火星、宇宙ステーション、科学者と遠くの話と割り切っていつも楽しんでいますが、どうよこの生活臭。私のことかぁぁ!水疱瘡騒ぎとか、「明日、学校でアレがいるからモールに寄って買って」と突然言い出す娘とか、涙無しには読めません。

 

○『スパイス・ポグロム
日本のスペース・コロニー(ソニー)の超狭いアパートにエイリアンが居候するドタバタコメディ、かつ恋バナ。日本人読むべし。てんぷらピザ、刺身ラザーニャ、リングイニ鰻ソース、すとりっぷ、銀座に三越、満員電車まで宇宙にあるねん。

 

○『最後のウィネベーゴ』
この短編を読んだ後に、かわいいイッヌが寝転んでいる表紙を見て、絵の意味がわかると戦慄しました。写真が導く力はすごいなぁ。ゆっくりと終末に向かう世界も、じわじわきました。

 

○『からさわぎ』
言葉狩りがテーマのブラックジョーク。自分も昔の女性軽視を苦々しく思うことは多多あるけれど、当時はそうだったんだからしょうが無い。古典文学の言葉を狩ってもねぇ。