本棚の隣で針仕事

雪国在住。積ん読本と図書館通い、 録画した映画、買いためた布や手芸用品をどうするかの記録。

宇宙の操り人形/フィリップ・K・ディック

宇宙の操り人形 (ちくま文庫)

時系列順に読んでいるディック作品ですが、これは古書店で見つけることができず、結局ネットでポチりました。珍しくちくま文庫から出ている初期の中編SF。ちょっと初期作品に戻ってみる。

子どもの頃に住んでいた山間の田舎町ミルゲイトへ行ってみたら、そこは自分が覚えていた町ではなかった!というお話。町がバリアーによって一般道から隠されていたり、果ては善と悪の神様の戦い(ゾロアスター教みたい)へと繋がったりと、SFとファンタジーの間をいったりきたり。お話の導入部分は、自分の記憶は偽の記憶なのかという主人公のぐらぐらする揺れ間がたっぷりと味わえて、これぞディック節で面白い。けれど神々が戦う後半は、お話がよくわからないまま終わってしまい残念。

前半の部分、私の脳内では↓だいたいこんな感じでしたよ。

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ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン/ピーター・トライアス

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

初めて表紙を見た時に「おぅパシフィック・リム!」とヘンな声が出てしまった「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」をようやく読み終えました。

台詞が多く、まさにハリウッド映画超大作のような展開に、すらすら読めるかと思いきや、意外に拷問シーンが多くてえぐいぞ。あと、期待したロボット大戦もそんなになくて表紙詐欺。それでも訳者の方がノリノリで書かれているのがよくわかり、漢字の当て字や関西弁などが「こうであってほしいSF、なんちゃって日本風」を上手に演出してくれて楽しめました。

共謀罪が成立する前に、本書が話題になっていましたが、読んで納得。時代設定は、もしも日本帝国とナチスが太平洋戦争で勝利していたら〜からの枢軸側に占領された80年代のアメリカですが、ああいやだ、いやだ。せっかくここまで時間をかけて自由になってきたのに、あの息苦しく生きにくそうな世界に戻りたくないですね。

 

 

書架の探偵/ジーン・ウルフ

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

図書館の書架に住まうE・A・スミスは、推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)。生前のスミスの脳をスキャンし、作家の記憶や感情を備えた、図書館に収蔵されている“蔵者”なのだ。

作家の死後にリクローンが作られ、その作家の著作物と共に図書館に住ませ、リクローン自体の貸り出しもOKという設定。常に本というテーマで描いてきたジーン・ウルフらしい、なんともロマンチック!でもリクローン作家には新作を書くことが許されていないのです、それもまた作家にとっては辛いよね。

そんなスミス氏のもとに、美しい令嬢が訪れます。不審者に殺された兄の死後に金庫を開けたら、スミス著の「火星の殺人」という本しか入っていなかったらしい。これは何の鍵なのかという謎を解くために、スミス氏を貸り出し、事件の調査が始まる。というお話。

SFガジェットがちりばめられた未来の話なのに、19世紀ロンドンのような古風な感じ(台詞節も服装も古風)。そしてどこまでいってもSFとミステリーは平行線のまま。別々の物語を楽しんでいるような不思議な作品。

礼儀正しいスミス氏の口調と、「読者諸君は…」などと語りかたりかけてくるところなど、懐かしい名探偵物風で楽しい。スミス氏によって本(物語)の奥深くに導かれていく感じがしました。さらに途中から登場する2人の男女カップルが大胆かつ凄腕で物語を盛り上げてくれます。でー、あの2人は結局何者だったのかしら。

 

羆嵐/吉村 昭

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大正12年の冬、北海道の開拓村をヒグマが襲った三毛別羆事件を題材にした小説。

いや〜私は娘を普通分娩で産んで、すぐに母乳が出たときに「人間って哺乳類なんだな」と実感したのですが、この本を読んで最初に思ったのは「人間ってエサなんだな」です。

文庫版のヒグマの絵も中々ですが、この単行本の方が絶対に怖い。表紙も裏表紙もちょうど手を添える位置に羆の口がくるという、読みながら手が噛まれそうな、これは狙っているとしか思えないですよね。わざわざ図書館の閉架から出して貰って借りました。ガブガブ噛まれました。

北国に住んでいると、熊出没と被害のニュースはしょっちゅうで、保育所の出入り口に「○月○日、○○公園に熊が出没したので、しばらく立ち入り禁止(警察)」の張り紙が貼ってあったり、県庁近くに熊出没、空港の雑木林に熊出没、今月も多数の目撃情報ありなんです。身近にいる恐怖をひしひしと感じると、クマも生きてるんだから可哀相なんて全然思わなくて、猟師さん、マタギの皆さんどうかお頼み申し上げますだけです。なのでこの小説に出てくるビビリな村人の心境は共感しまくり、熊撃ちの銀オヤジが登場すると、待ってました!と心の中で拍手喝采。銀オヤジかっこ良かった、命を賭けたヒグマとの闘い、心底しびれました。

体重300キロ、身の丈2m70cmの殺人ヒグマが、闇夜に人をボリボリ食う音がするなんて、怖すぎる。襲われた人も、助けに来た人も大勢の群集劇の中で、心理描写が巧みな作品でした。

 

カブールの園/宮内悠介

カブールの園

芥川賞候補作にして、三島由紀夫賞受賞作。久しぶりにSFから離れて純文学たるものを手にしてみましたが、宮内氏はSF畑出身らしく「VR治療」、作曲の出来るYouTube「トラック・クラウド」など近未来っぽいものも出てきました。いいぞ〜!そしてヨセミテ国立公園MacOSキタコレ!(すいません…)

そんな「カブールの園」は、サンフランシスコのIT企業のプログラマーであり、日系3世だけど日本語はできないレイ(玲)が、自分のルーツをさぐる旅に出る話。

いじめ、毒親、カウンセリングと続くので重いな〜と感じつつ、レイの同居人ジョンのナチュラルなフォローにほっとしました。休暇を取ってヨセミテへと旅に出るレイ。ルートを変更して祖父母がいたというマンザナー強制収容所跡、ロスまで行って母との再会、自分を束縛していた母も、実は人種差別に苦しんでいたとわかる…。

異国における日本文芸活動は「伝承のない文芸」といえるのである。

アメリカの日本文芸は一代限りの、それは悲痛きわまりない行為である。伝承は期待できない。しかし、そこに存在するということが一つの大きな意味を持つ時がある。それが、いろいろなプロセスを経て、アメリカの発想を変えて行くエレメントにならないとはいえない。

 マイノリティに生まれたことを受け入れる難しさ、でも最後には受け入れて前向きに進みはじめたレイがとても素敵でした。唐突に終わってしまった感じだったので、もっと長編で読んでみたかったです。