夜空と陸とのすきま

ゆるいSF脳。SF小説1000本ノックを目指しています

11 eleven / 津原泰水

11 eleven (河出文庫)

津原氏と百田尚樹のバトルから、幻冬舎社長による実売数公表騒動に発展するまでの流れはずっとTwitterで追いかけていて、津原氏と早川書房編集部を応援したくて、本屋に走り『ヒッキーヒッキーシェイク』の文庫を買いました。この騒動の中でも津原氏のツイートは決して感情的にならず始終冷静で、(「炎上してるからこの騒動にのってみんな宣伝して、というか宣伝しなさい!恩を返したい」という感じのツイートには笑った)いやはやすごい作家さんだなと感心し、名作名高い「五色の舟」が収録されている短編集『11 eleven』を読んでみました。

表紙は四谷シモン氏。単行本は裏にも11枚の人形の写真が載っています。イレブンってヘブンみたいと思ったのが第一印象。

生と死とあの世の境、人形の目のガラス玉のような、うーん自分の乏しい語彙力では上手く表現できないけれど、ぞっとするほど怖いけど魅了される死についての物語が多かったです。思わず音読したくなる言葉のリズムも心地よかった。

うわーそれで終わるの怖っ!というホラー『追ってくる少年』と『クラーケン』。おいおい火星かよのSF『テルミン嬢』、どれも余韻が残る、それも怖かったりほっこりしたり。なんと引き出しの多い作家さんでしょう。日本版フリークショーのお話『五色の舟』は土肝を抜かれました。近藤ようこさんの漫画版読まねばっ

楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選/虚淵玄(ニトロプラス)+大森望編

楽園追放 rewired  サイバーパンクSF傑作選 (ハヤカワ文庫JA)

「一概にSFっていっても、ハードSFとかスペース・オペラセンス・オブ・ワンダーって色々あるけど、どのジャンルが好きなの?」と某古本屋の店主から聞かれまして、「どれも好きです、どれもいけます!」と即答し、「えーサイバーパンクも?」「大丈夫っす、仕事がパソコン関係なんで」という会話をしたことが最近ありました。サイバーパンクって難しいというイメージがあるのかな。体にケーブルを繋げて「ネットの海は広大だわ」って呟くのがサイバーパンクだという認識ですが、間違ってないよね?

というわけでサイバーパンクものをガツガツと読みたくなって。

劇場アニメ「楽園追放-Expelled from Paradaise-」の原点を探るというコンセプトのもと、サイバーパンク30年の歴史を振り返るアンソロジーサイバーパンクの火付けW・ギブスンとB・スターリングから、若手の日本SF作家の最先端作品まで8篇を収録。「楽園追放」見てなくてもノープロブレムでした。

元祖のW・ギブスン『クローム襲撃』とB・スターリング『間謀』
初期のサイバーパンクは主人公の凄腕ぶりが気持ちいい。お二人の小説は本棚に積読状態で、このアンソロジーが先になってしまったけど、今後の楽しみが増えた。

神林長平『TR4989DA』と大原まり子『女性型精神構造保持者』
大原まり子!懐かしい~中学生の頃によく読みました。表紙裏の著者近影が美人でドキドキした思い出が。自意識の高いコンピュータのお話は楽しい。

 ウォルター・ジョン・ウィリアムズ『パンツァーボーイ』、チャールズ・ストロス『ロブスター』だんだんコンピュータ用語が多用されてくる。疾走感があってよき。

吉上 亮『パンツァークラウン ライヴズ』、藤井太洋『常夏の夜』
都市のコンピュータから行動を管理されるとか量子コンピュータとか、ネットの海がさらに拡張。量子の世界はこういう感じになっていくのかとワクワクします。

全作を読み終えて、サイバーパンクとは「造語にカタカナのルビをめちゃふるやつ」っていう認識が加わる。

声の物語/クリスティーナ・ダルチャー

声の物語 (新ハヤカワ・SF・シリーズ)

アメリカに住むすべての女性の手首にワードカウンターが取り付けられ、一日100語までしか話せない制限がかけられた。言語・インターネット・パスポートと仕事さえも取り上げられ、家にこもり良妻賢母を強制される。奪われた声を取り戻せという、ディストピアフェミニストSF。

こーれは読んでいて辛かった、心を揺さぶられすぎて悪酔い。

認知言語学者のジーンは才女で子だくさんで絶讃不倫中と、あれもこれも盛ってしまった感があり忙しい。学生時代に政治デモに参加した友人からたくさん忠告を受けたのに、政治に興味なしで選挙にも行かなかったジーン。そして沈黙していたら沈黙させられてしまった現状に後悔先立たず。何よりもジーンの長男君が、学校で徹底して男尊女卑をたたき込まれてきて、すっごく嫌な奴になっていくのが辛い。キリスト原理主義者で極右の大統領の元、とんでもなく酷い状態なのに誰も反発せず、同調していく社会も怖い。

最終的にはハッピーエンドに近い終わりになりますが、それにしてもジーンの夫氏がかわいそすぎます(^^;)

悪が勝利するために唯一必要なのは、善人が何もしないことだ。

みんな選挙行こっ。ちゃんとまともな人選ぼっ。

 

 

人形つかい/ロバート・A・ハインライン

人形つかい (ハヤカワ文庫 SF 217)

秘密捜査官サムと同僚のメアリ、おやじ(オールドマン)の3人はレジャー旅行中の一家になりすまし、アイオワ州のUFO不時着事件を調査するが、アイオワ州周辺はすでに侵略者から占領されていた。人間を思いのままに操る能力をもつ恐るべき侵略者に対し、人類に勝ち目はあるのか?という侵略SFの古典。

人形つかい」というと『攻殻機動隊』を即座に思い出しますが、こちらは元祖人形つかい。正体不明の敵に人間がハックされるのは一緒。

木星の衛星タイタンからはるばるやってきたスライム状の寄生虫は「ナメクジ」と表現され、人間の背中にくっついて操るのです。取り付かれると誰が敵で味方だかわからない!ということで、緊急の対策として全員パンツ一丁になりなさい<上半身裸体計画>を発動。その後、実は下半身にも隠れていたので全員すっぽんぽんになれ<日光浴計画>と、アメリカンに陽気で明るいSF。笑った笑った。ちなみに日本人は平気で着衣を脱ぐせいでナメクジの侵略から助かったそうです。なんだかなー(元軍人ハインラインには褌姿の日本兵ってイメージがあるのかも)

いざゆかん、敵の殲滅に!殺せ殺せという勇ましいラスト(映画『アルマゲドン』のような)も、ハインラインタカ派っぷりが見受けられます。

ハヤカワ文庫SFの旧版表紙絵は加藤直之氏。謎多きヒロイン赤毛のメアリが手に持つ花はアングレカムかな?花言葉は「いつまでもあなたと一緒」なのでとても意味深。
なのに新版の表紙絵はどうしてこーなった?(なんかイメージ違う…)

人形つかい

 

 

 

 

虚数/スタニスワフ・レム

虚数 (文学の冒険シリーズ)

レムの架空の本の書評集『完全なる真空』と、未来の本への序文集『虚数』の奇書2作のおうわさはかねがね。図書館の端に追いやられたちょっとだけの外国文学の棚の、ほぼミステリー小説ばかりの中で、『虚数』を発見したときの「うわっ!虚数あったよ」というこの興奮。裏に貸出手続きを手書きで書く図書カードがついていた痕跡もあったので、どれだけ長い間書架の中で眠っていたのか、いとしいしと…。

この『虚数』は、「本当なら分厚い本をいくらでも書けるけど、あまりにも世の中には文学が多すぎて、情報洪水化しているので、ここは自制し最小限の形式の書評や序文で<書くことへの欲望>を処理してるの僕ってエコでしょ。」というレムの主張から始まる壮大な法螺話集。

なかでも後半をしめる、人智を越えたコンピュータGOLEMシリーズの序文と講義録は、センスオブワンダー!ほとんど意味わかんね〜けど、なぜか面白い。人類外からの視線で見る人類。そうだよねコンピュータなんだから、人間と同じ思考である必要は全くなく、コンピュータ独自の思考回路っていうのはあって当然で。人類のもったらもったらした進化と知性はイライラするさね。

本の中央にあってここだけ逆方向に印刷された、未来の予測に基づいて記述された百科事典『ヴェストランド・エクステロペディア』は、百科事典の宣伝パンフレットと付録の本体見本ページ。百科事典は一度本になった時点で古い情報になるけれど、現在進行形で更新されるネットのWikipediaは、(内容の正しさはないけど)面白い百科事典だなと思いますが、さらに上を行く未来予知の百科事典『ヴェストランド・エクステロペディア』は上品な言葉遣いだけど書いてる意味がわけわからん。今、新しく翻訳するともっとネットスラングが多くなる気がする。1970年代にこれを書いたってレムすごいね。