夜空と陸とのすきま

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カブールの園/宮内悠介

カブールの園

芥川賞候補作にして、三島由紀夫賞受賞作。久しぶりにSFから離れて純文学たるものを手にしてみましたが、宮内氏はSF畑出身らしく「VR治療」、作曲の出来るYouTube「トラック・クラウド」など近未来っぽいものも出てきました。いいぞ〜!そしてヨセミテ国立公園MacOSキタコレ!(すいません…)

そんな「カブールの園」は、サンフランシスコのIT企業のプログラマーであり、日系3世だけど日本語はできないレイ(玲)が、自分のルーツをさぐる旅に出る話。

いじめ、毒親、カウンセリングと続くので重いな〜と感じつつ、レイの同居人ジョンのナチュラルなフォローにほっとしました。休暇を取ってヨセミテへと旅に出るレイ。ルートを変更して祖父母がいたというマンザナー強制収容所跡、ロスまで行って母との再会、自分を束縛していた母も、実は人種差別に苦しんでいたとわかる…。

異国における日本文芸活動は「伝承のない文芸」といえるのである。

アメリカの日本文芸は一代限りの、それは悲痛きわまりない行為である。伝承は期待できない。しかし、そこに存在するということが一つの大きな意味を持つ時がある。それが、いろいろなプロセスを経て、アメリカの発想を変えて行くエレメントにならないとはいえない。

 マイノリティに生まれたことを受け入れる難しさ、でも最後には受け入れて前向きに進みはじめたレイがとても素敵でした。唐突に終わってしまった感じだったので、もっと長編で読んでみたかったです。