夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

羆嵐/吉村 昭

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大正12年の冬、北海道の開拓村をヒグマが襲った三毛別羆事件を題材にした小説。

いや〜私は娘を普通分娩で産んで、すぐに母乳が出たときに「人間って哺乳類なんだな」と実感したのですが、この本を読んで最初に思ったのは「人間ってエサなんだな」です。

文庫版のヒグマの絵も中々ですが、この単行本の方が絶対に怖い。表紙も裏表紙もちょうど手を添える位置に羆の口がくるという、読みながら手が噛まれそうな、これは狙っているとしか思えないですよね。わざわざ図書館の閉架から出して貰って借りました。ガブガブ噛まれました。

北国に住んでいると、熊出没と被害のニュースはしょっちゅうで、保育所の出入り口に「○月○日、○○公園に熊が出没したので、しばらく立ち入り禁止(警察)」の張り紙が貼ってあったり、県庁近くに熊出没、空港の雑木林に熊出没、今月も多数の目撃情報ありなんです。身近にいる恐怖をひしひしと感じると、クマも生きてるんだから可哀相なんて全然思わなくて、猟師さん、マタギの皆さんどうかお頼み申し上げますだけです。なのでこの小説に出てくるビビリな村人の心境は共感しまくり、熊撃ちの銀オヤジが登場すると、待ってました!と心の中で拍手喝采。銀オヤジかっこ良かった、命を賭けたヒグマとの闘い、心底しびれました。

体重300キロ、身の丈2m70cmの殺人ヒグマが、闇夜に人をボリボリ食う音がするなんて、怖すぎる。襲われた人も、助けに来た人も大勢の群集劇の中で、心理描写が巧みな作品でした。