アフリカ系アメリカ人で黒人女性作家バトラーの短編集。2006年没ですが、80〜90年代の作品がまさに今に通じるテーマばかりで、再評価されて出版が相次いでいます。この短編集は翻訳が藤井光氏なので、そりゃあ間違いないわ!と期待して読みました。
それぞれの短編後に短いあとがきが入っていて、著者が何を考えて小説を書いたのかがわかります。聡明な人で、日常で感じたことを深く掘り下げて考え、丁寧に小説に昇華しています。
■血を分けた子ども
地球外生命体が人間(男)に卵を産みつけ繁殖する。その代わりに人間は彼らから生かされることを許される関係。SFなんだけど、状況説明が少ない割にスッーと話が入ってくる不思議。主人公の少年が卵を宿す決意をするまでのお話なんだけど、そこに愛があるのが良き。
■夕方と、朝と、夜と
遺伝子疾患を持つ女性の絶望と希望の話。自分の親の病気による壮絶な最後を目の当たりにしたら、未来なんて考えられない。
私たちの数十兆個もある細胞のひとつひとつの核には、五万もの異なる遺伝子が入っている。その五万個の遺伝子のうちひとつ、たとえばハンチントン遺伝子が、私たちの人生をーーつまりは人間ができることや、人間がなれるものをーーそこまで大きく変えてしまうのなら、私たちとはなんなのだろう。
ほんとうに、なんなのだろう。
『夕方と、朝と、夜と』あとがき
■話す音
脳から言語能力を奪う伝染病のパンデミック後の破滅しかけている世界。言葉を奪われた人々は意思疎通をすることが難しくなり…という話。最後には少し希望が見えるので良かった。別に言葉を奪われたわけではないのに、現実の都会の日常(満員電車とか)の殺伐感が同じなのが怖くなる。
■二つのエッセイ
作家になるんだというバトラーの強い意識が見られて、作家になりたいわけじゃないけど、励まされる良きエッセイです!
■恩赦
異星人と彼らに支配された人間達との架け橋になる通訳ノアのお話。共存への道のりの困難。
■マーサ記
神様から人類を救う方法を考えろと言われる話。