夜空と陸とのすきま

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黄金列車/佐藤亜紀

黄金列車

ハンガリー王国ユダヤ資産管理委員会が、ユダヤ人から奪った物品を国有財産とし、迫りくるソ連軍から財産を守るため、列車に乗せて運び出す実話を元にした逃走劇なお話。

主人公はバログは役人で、ユダヤ人から強奪した物と知りつつ(良心は痛みながらも)職務を全うするため、ただ黙々と任務を遂行する。ハンガリーから出る直前に最愛の妻もユダヤ人の親友も死に、天涯孤独のバログは失う物なしで強いし切ない。

財宝を私物化したがる上司や武装親衛隊と銃で戦うではなく、交渉術と賄賂でやりくりして列車を進める。国が崩壊し秩序乱れるなか、平時と同じく書類や受領書を書かせる文官の鬼というのか鏡というのか、そんな様子がおかしいお話でした。

要所要所で列車で運んだ財宝を点検し、ユダヤ人から略奪した燭台、家具、毛皮のコートなどに触れる度に妻と親友との思い出が蘇り、中でも切手帳の意味づけが泣けてきます。

多分『シンドラーのリスト』の影響を自分が受けているせいか、大戦時のハンガリーオーストリア〜ドイツの情景の色彩は黒・グレー・モスグリーンのハーフトーンしかありえない。私の脳内ではずっと曇りの天気。

このたびはTwitter文学賞国内編1位おめでとうございます!