夜空と陸とのすきま

SF好き SF小説1000本ノックを目指しています

虚数/スタニスワフ・レム

虚数 (文学の冒険シリーズ)

レムの架空の本の書評集『完全なる真空』と、未来の本への序文集『虚数』の奇書2作のおうわさはかねがね。図書館の端に追いやられたちょっとだけの外国文学の棚の、ほぼミステリー小説ばかりの中で、『虚数』を発見したときの「うわっ!虚数あったよ」というこの興奮。裏に貸出手続きを手書きで書く図書カードがついていた痕跡もあったので、どれだけ長い間書架の中で眠っていたのか、いとしいしと…。

この『虚数』は、「本当なら分厚い本をいくらでも書けるけど、あまりにも世の中には文学が多すぎて、情報洪水化しているので、ここは自制し最小限の形式の書評や序文で<書くことへの欲望>を処理してるの僕ってエコでしょ。」というレムの主張から始まる壮大な法螺話集。

なかでも後半をしめる、人智を越えたコンピュータGOLEMシリーズの序文と講義録は、センスオブワンダー!ほとんど意味わかんね〜けど、なぜか面白い。人類外からの視線で見る人類。そうだよねコンピュータなんだから、人間と同じ思考である必要は全くなく、コンピュータ独自の思考回路っていうのはあって当然で。人類のもったらもったらした進化と知性はイライラするさね。

本の中央にあってここだけ逆方向に印刷された、未来の予測に基づいて記述された百科事典『ヴェストランド・エクステロペディア』は、百科事典の宣伝パンフレットと付録の本体見本ページ。百科事典は一度本になった時点で古い情報になるけれど、現在進行形で更新されるネットのWikipediaは、(内容の正しさはないけど)面白い百科事典だなと思いますが、さらに上を行く未来予知の百科事典『ヴェストランド・エクステロペディア』は上品な言葉遣いだけど書いてる意味がわけわからん。今、新しく翻訳するともっとネットスラングが多くなる気がする。1970年代にこれを書いたってレムすごいね。