夜空と陸とのすきま

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華氏451度/レイ・ブラッドベリ

 

華氏451度 (ハヤカワ文庫 NV 106)

本のページに火がつき、燃え上がる温度が華氏451度。人々を混乱させるという理由から書物を持つことも読むことも禁止された近未来。
密告と通報で本は焚書処分され、書物を隠すと家まで焼かれる。
消防士ならぬ焚書士の主人公は、本と共に焼死する老女を目にし、なぜそこまで書物を手放さないのか気にかかりだす。やがて密かに持ち帰った本を隠れて読むうちに…というお話。

伊藤典夫氏による新訳版が出ているようですが、以前買った旧版の方で。表紙も火トカゲの本と羽が燃えている絵でした。本書に本を鳥のように表現している箇所があるので、改めてみるとせつなくなる絵です。

本は純白なハトのように、手もとでとまって、翼をはためかしている。うすくゆれうごく灯の下で、ページがひらいて、雪白の羽のようにひらめいた。その上に、活字が優雅なすがたをならべている。

いや、すごいなブラッドベリは。本に対する愛情と溢れる想い、焚書による知性を抑圧する体制への反発と怒り、かと思いきや本を読むことは毒にもなる(ビーティー署長)怖さもきちんと描かれていて、渾身の力をふりしぼってタイプライターを打つブラッドベリの姿を想像してしまいました。読みながらもマーカーをひきたくなる箇所が多くて、これはぜひ新訳版もチェックしなければっ。

1953年の古いSFなのに、海の貝という超小型ラジオで耳をふさぎ、壁面が巨大なテレビスクリーンに囲まれる部屋で日々過ごす何も考えない人々の姿が、現代のスマホ依存と似ていて怖い怖い。描かれるディストピアに「これって今の事なんじゃ」と思えてしまう。自由に本が読めて、自分で考えることは何よりも手放してはならない。