夜空と陸とのすきま

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書架の探偵/ジーン・ウルフ

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

図書館の書架に住まうE・A・スミスは、推理作家E・A・スミスの複生体(リクローン)。生前のスミスの脳をスキャンし、作家の記憶や感情を備えた、図書館に収蔵されている“蔵者”なのだ。

作家の死後にリクローンが作られ、その作家の著作物と共に図書館に住ませ、リクローン自体の貸り出しもOKという設定。常に本というテーマで描いてきたジーン・ウルフらしい、なんともロマンチック!でもリクローン作家には新作を書くことが許されていないのです、それもまた作家にとっては辛いよね。

そんなスミス氏のもとに、美しい令嬢が訪れます。不審者に殺された兄の死後に金庫を開けたら、スミス著の「火星の殺人」という本しか入っていなかったらしい。これは何の鍵なのかという謎を解くために、スミス氏を貸り出し、事件の調査が始まる。というお話。

SFガジェットがちりばめられた未来の話なのに、19世紀ロンドンのような古風な感じ(台詞節も服装も古風)。そしてどこまでいってもSFとミステリーは平行線のまま。別々の物語を楽しんでいるような不思議な作品。

礼儀正しいスミス氏の口調と、「読者諸君は…」などと語りかたりかけてくるところなど、懐かしい名探偵物風で楽しい。スミス氏によって本(物語)の奥深くに導かれていく感じがしました。さらに途中から登場する2人の男女カップルが大胆かつ凄腕で物語を盛り上げてくれます。でー、あの2人は結局何者だったのかしら。