夜空と陸とのすきま

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古代の遺物/ジョン・クロウリー

 

古代の遺物 (未来の文学)

古代の遺物 (未来の文学)

 

 

 豊崎社長の書評集の影響から海外文学(SF中心)にハマり早数年目、新たに気がついたことがあります。それは国書刊行会の本にハズレなしということ。図書館や古本屋で国書刊行会を見かけたら、迷わず借ります買います。このジョン・クロウリーも知らない作家さんでしたが、国書刊行会だ、大森望浅倉久志訳ということは傑作SFだ!とみて、手に取りました。この短編集はSFもあるけど幻想文学になるのかな。12編の中で印象深かった2編だけ感想を書きます。

『古代の遺物』
ファラオの呪いならぬ、猫の呪いで不倫疫病という、ホラーで色っぽい話。
2016年は年明け早々、不倫報道だらけでウンザリです。この調子だと年末に清水寺で「倫」とか大筆で書かれるんじゃなかろうか。永田町〜六本木にはこの古代の遺物に出てくるエジプト猫、サキュバスが徘徊しているから不倫疫病が流行っているに違いないと思うぞ。
女たちはあっというまに老け込むーまあ年じゅう子供を産まされる上に、仕事も男衆と少なくとも同等にやらされるんだから。
このくだりと、乙武氏の「妻が母になってしまい夫婦関係が失われた」がタイムリーにリンクしてきて血管が切れそうでした。
 
『雪』
ドローンのような監視器に八千時間分の記録を撮影させ、「パーク」という墓地施設で永久保存され、閲覧できるという話。主人公はそこで亡き妻の生きていた頃の映像を見続けます。まだインターネットの普及していない80年代に、ライフログのコンセプトを物語にしてしまうクロウリーがすごい。前にテレビ番組で自分の幼い頃からの記録(写真、通知表、テスト、表彰状、教科書なんでも)をすべてデジタルログにしてアーカイブを作っている男性が紹介されていましたが、そんなことに時間を費やして何の意味があるのかと、自分の過去しか見ていないことが気持ち悪くないのかなぁと思ったものです。この話の主人公は最終的に過去から脱出できて良かった。

だから俺はアクセスから足を洗う。
死者は死者が埋葬すればいい。

 

クロウリーの短編は、( )の補足書きがおおくて、 流れるように読んでしまって終わり、意味がわからずもう一度最初から読むと、読み流した伏線が拾えて話が面白く感じるということが多かったです。一冊読み終えるのに、非常に時間がかかったのも確か。