夜空と陸とのすきま

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時間飛行士へのささやかな贈物 ディック傑作選2/フィリップ・K・ディック

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早川から出ていたディック傑作選2。こちらも絶版みたいですね、ディックの新装版を次々に刊行している早川書房、ぜひ短編も傑作選じゃなくて全集みたいに出して欲しいな。これは大分前に古書店で購入した本、裏に「ワールド200」って値札ラベルが貼ってあるけれど、もはやいつどのお店で買ったのか覚えていない。

ディストピア短編が9篇。ディックほどディストピアをあれこれ想像できた作家はいないんじゃないかしらと思うほど、お父さんが宇宙人だった。自動工場に支配された、自分がアメーバーになった、某アジア大国のトップが宇宙の邪悪神だっただの悪夢のオンパレードです。

娘が興味を持って「どんな話なの?」と聞いてきたので説明すると、「そんな暗い話読んでて面白いの?」と返されました。うん、なぜか面白いんだなこれが。どれも皮肉が効いててね、いいんだよ。

後半の短編は長編作家としても成功しだした1960年代のもの。「おお!ブローベルとなりて」は、宇宙人と結婚したけれど、格差と変体に嫌気がさして離婚したいが、双方の星の法律と子の親権でもめるという描写がヤケにリアル。この作品の時点で2回の離婚を経験したディック。そう思うと涙目。

「父祖の信仰」のドラック描写もやたら詳しかった。実体験に基づいたというやつかしら。

前半の50年代に書かれた短編のラストは、壮大な悲痛の音楽が鳴ってエンドロールみたいな、(たとえば「猿の惑星」のラストのような)派手な終わり方ですが、60年代に入るとスッーと画面が消えて砂嵐みたいな、じわじわくる怖さがあります。作家が円熟期に入るってこういうことなんだなあ。